8話 「能力値詳細」


 情報公開で表示される能力値について。


 ここではアンシュラオンを例にして見てみよう。



―――統率:F



 統率は部隊指揮を執る際に必要なスキルだ。数値が高いと部下に能力補正がかかる。反対に人を使わなければ、あまり意味はない。


 「統率が低いのは、姉ちゃんの奴隷だったからだ」という彼の言葉も頷ける。姉の言うことをひたすら聞いていたので、この数値が伸びなかったと思われる。


 Fは当然、最低値。


 奴隷根性丸出し。一番忌み嫌う項目である。




―――知力:C



 転生スキルとして前世からの記憶継承があるので、一般高学歴者のDより、ちょっとだけ上にいることになる。妥当な数字だろう。


 術者にとっては理解力にも関わるため、『情報術式』においてはかなり重要。これによって扱える術式の数が変わってくるといわれている。


 一方の『元素術式』は感性で使える部分も多いので、その限りではない。


 話術なども、これに該当するようだ。




―――魔力:S



 魔力というのは単純に術の力にも関係するが、武人などの場合は、持っている潜在能力をどれだけ出力できるかを示す。戦気の場合も実際の出力量を示している。


 この数値が低いと、どんなに才能があっても実際には使えない。中身はたっぷりあっても入り口が狭いと出ないのと一緒だ。


 同時に敵からの攻撃に対しての抵抗力も示す。「出力=防御」でもあるからだ。


 これはS。かなり上等なレベルにある。




―――魅力:A(※SSS)



 魅力は単純に人を引き寄せるという意味でもあるが、たとえば言うことを聞かせやすくなるとか、人を扱う際にも影響するらしい。


 統率は指揮する際の能力の底上げで、魅力の高さによって効率的に扱える人数が決まる、といった具合のようだ。


 そしてアンシュラオンの場合は、姉に対して魅了効果が常時発揮されて現在に至っている。




―――工作:C



 特殊な工作、罠を仕掛けたり、あるいは解除したり、それ以外の細かいことをやるときの能力全般だ。料理や図工も、ここに関連する。


 Cならば、かなり器用な部類であろう。


「姉ちゃんの料理も、ずっと作ってたからなぁ…」




―――隠密:A



 文字通り、隠密行動などの能力。隠れる能力である。


 Aもあれば一流の忍者レベルだ。森に隠れることも容易だろう。姉から逃げるには必須スキルである。


 発見スキルでもあるので、姉のSSSを思うと若干心もとない。




―――体力:S



 これも文字通り体力であり、耐久力を示す。当然HPの要素にも関わっており、高いとHPも多い傾向にあるようだ。


 ただ、アンシュラオンのHPがパミエルキたちと比べて相当低いのだから、別の要素があるのかもしれない。


「不公平だ!」


 仕様です。


 あとは単純にスタミナ、継戦能力を示している。これもSなので、かなり持久力は高い。




―――精神:SSS



 魔力の総量や戦気を生み出す際の生体磁気の量。さすがあの姉にしてこの弟あり、である。


 ここだけは負けていない。ここで負けたら、すべての価値を失ってしまう。負けないでよかった。


 精神が高くても魔力が低ければ実際に扱えるパワーは小さい。一方、精神が少なくて魔力が高い場合は、実際にはかなりの力が操れるので強い。ただ当然、すぐにガス欠になる。


 精神耐性にも関わる要素で、敵の精神的な攻撃に対する抵抗力を示している。


 あれほどの姉の執着に耐えられたのも、ひとえにこれが高かったからであろう。




―――攻撃:AA



 攻撃力。そのままの意味である。AAもあれば対人戦闘では十分だと思われる。


 ただこのあたりは、師匠と姉、ゼブラエスという凶悪な存在の中では一番弱かったため、やはりあまり自信がない。




―――防御:SS



 防御力。防御技術を含めた防御性能全般である。これが高いとHPの減りが少なくなる。


 攻撃に対して防御が順当に伸びたのは、やはり姉の影響だろう。防御が低ければとっくに死んでいたはずだ。


 ありがとう、防御。


 と言いたいが、姉が苛烈だったからこそ防御が上がったのだ。礼を言う必要はなかったようだ。




―――命中:S



 命中率。目の良さや、物を捉える能力。実際のスピードや経験も加味される値らしい。


 Sもあれば、まあ大丈夫だろう。


 飛んでいる蝿くらい目を瞑っていても簡単に捕まえられるし、音速で飛ぶ魔鳥も捕らえることが可能である。




―――回避:S



 回避力。避ける能力だ。これも実際のスピードだけではなく、経験や技術も加味される値らしい。


 Sなので素早いはずだ。少なくとも姉の攻撃を何度かかわせるレベルにある。あれが手加減でなければ。



 そして、覚醒値はこうなっている。



 戦士:8/10 剣士:6/10 術士:5/10



 基本は『戦士』だ。そう育てられたからというのもあるし、肉体が資本だったせいもある。


 剣士は武器や道具を扱う能力なので、素質を見抜いた師匠によって武器の練習も多少させてもらっていた。日々の調理で使った鍋の扱いで上達したとは思いたくない。


 術は瞑想などの鍛錬をやっていたら自然と上がっていった。ただ、教えてもらっていないので術自体はまったく使えない。あくまで素養値である。


 通常、戦士タイプの人間の場合、他の因子には【マイナス補正】がかかる。


 たとえば剣士因子が6あっても、実際には本職の3にも及ばないことがある。術士も同じだ。だからこそ自分のタイプを把握するのは重要なのである。


 また、実際に使えるのは、すべての因子を合わせて10までである。戦士を8までフルに活用すれば、剣士は2までしか使えない。因子が強ければいい、というわけではないわけだ。


 しかし、アンシュラオンには『デルタ・ブライト〈完全なる光〉』というチートスキルが存在する。


 姉のパミエルキを見ている限り、【使える因子数に制限が無い】可能性が高い。


 つまり戦士も剣士も術士も同時に10までという常識を打ち破り、【オール30】まで同時に使える、というわけである。


 当然、【マイナス補正】もない。戦士としても剣士としても超一流なのだ。


 あの姉の強さはそこから来ているのだろう。戦士としてほぼ完璧である陽禅公やゼブラエスでさえ勝てないのは、それが大きな理由だ。


 卑怯すぎる。汚いやり方だ。まあ、アンシュラオンもそうなので、姉のことは言えないのだが。


 それ以外は、なんとなく見た通りのものである。


 ちなみにパミエルキの災厄障壁を解除したのは、特殊スキルの「女神盟約」によってであろう。


 女神様との盟約で、自分の使命に関わることに関して特例を受けられる加護系スキルだ。


 実際の中身はよくわからず、本当にそうだったのかは微妙だ。が、姉に捕まることは自分にとってよくなかったことだと判断されたのか、力が発揮されたらしい。


 まさに神頼みだが、寺や神社で売っているお守りより遥かに使えるのは間違いない。



 以上、能力説明でした。



「所詮は数字だしな。一概に信用しきれないところもある」



 仮に同じSであっても覚醒状況や覚えている技、素質によってだいぶ結果は異なるらしい。


 なぜわかるかって?


 実際に姉の攻撃がおかしいからである。


 SSSと表示されていても、それはもう【測定不能】なのであって、厳密な数字にすれば相当な差があるに違いないのだ。当てにしすぎると痛い目に遭うのは経験済みである。



「さて、これからどうするか。ここがどこかもよくわからないし。外の世界の様子はまるで知らないもんな」



 初めて外に出るので、何もかもがわからないことだらけだ。


 正直なところ、この世界のこともあまり知らない。そんな暇もなく、ひたすら修行をしていたからだ。


 それは最初の目的である、強くなるため。



「師匠のことも想定しての姉選択だったんだろうけど…。人生ってのは、いつだって世知辛いもんだよな」



 師匠のこと、姉のこと、ゼブラエスのこと、すべて女神様の手の平の上である。


 こちらの要望は聞いてもらったので文句は言えないが、すべてに意味があるのが恐ろしい。


 だが! それはもういい!




「オレは自由だぁああああああああ!!」




 自由になった。


 少なくとも自分で考えて生きていける。


 今後のことは、これから考えればよいのだ。


 そして、目的もある。



 【従順な女の子たち】と一緒に、好きなだけイチャラブ生活を送る。



 これである。最初の文言が重要だ。


 姉とは違う―――従順な女の子!!


 これが加わるだけで、すべての意味が変わる。



(そうだ。そうだったんだ! そこが欠けていたんだ! 姉にも恥じらいは必要だよ! 『お姉ちゃん、オレもう…!』『あっ、駄目! お姉ちゃんにエッチなことしちゃ駄目なんだよ。でも、あーくんがどうしてもって言うなら…ちょっとくらい』『やったー、ぺろぺろぺろ』『あー、それはらめぇえええ』みたいなのが欲しかったんだ!)



 現実 = がばっ、ずぶっ、どくっ 『あー! 許して姉ちゃん!』



 羨ましく思えるかもしれないが、これが毎日続けば悪夢である。



(もうそれはしょうがない。違う女の人で願望を満たせばいいんだ!)



「オレは、絶対に幸せになってみせるからなぁあああああ!!」



 その欲望が原動力になり、アンシュラオンは外の世界に向かっていくのであった。


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