第5話


セーラは所謂転生者だった。

転生前の名前は聖良と書いてせいら。

地球の日本出身のどこにでもいる会社員の一人。

享年30歳。

死して霊界と呼ばれる場所で目を覚ました彼女は案内役と名乗る天使のような愛くるしい見た目の少年に、異世界に転生してその世界の人類を救ってほしいと懇願された。


たかが三十路の女一人に何ができると断り続けた聖良だったが、少年にどれだけ彼が人類を愛しているか救いたいか熱烈に語られつい情に流されてしまったのだ。

なぜそこまで愛しているのに自分で助けに行かないのかと問えば、案内人と飛ばれる者達は霊的な存在で実体を持たず異世界に顕現することができないのだとか。


肉体を生み出すことは可能だが、霊的な存在が無理矢理受肉しようとすれば体に入る際に発生する摩擦に耐えきれず、霊体が消滅してしまうそうだ。


そこで彼ら案内人は他の世界から亡くなった人間を連れてきて転生させることを思いついた。

そして白羽の矢が立ったのが聖良だと言う。


ここまでで既に案内人達が人類滅亡を感知して数年がすぎていた。

聖良に断られてしまったらもう後がない。

愛する人類の滅びを黙ってみていることしかできなくなってしまう。

そんな脅しにも似た懇願に聖良は最終的に頷き、公爵令嬢セーラとして転生した。


彼女は自由に動ける年齢に成長すると人類滅亡を防ぐ為に、行動を起こし始める。


人が死に動く屍になるという奇病の発生源は隣国であった。


原因は病気を研究する施設が職員の管理不足によって爆発してしまうこと。

その爆発で負傷しながらも一命を取り留めた職員の一人が病気に感染しており、それが変異しながら人から人へ感染しやがて死してなお動く屍になるという奇病に变化するのだ。


それを他人に映像化させ直接見せる能力を案内人から与えられていたセーラは、両親や国王に見せて話をした。

最初こそ相手にされなかったが、セーラの持つ能力を見せられると半分の人間はそれを信じた。


しかし信じようとしなかったのが隣国の王だ。

王だけではない。隣国の人間はセーラの言葉も、直接人類が滅亡するのを見せられても信じようとしなかった。

感染源となる研究所の職員もセーラが見せるのは良くできた手品であり、なんの根拠にも証拠にもならないと相手にしなかった。


彼らがセーラの言葉を信じたのは研究所がすでに爆発し、感染が大きく広がってしまってからの事だった。


隣国の王が後悔しセーラを頼ろうとしたが、時既に遅し。


彼女は感染拡大と自分を信じてくれた人達を活かすために、離島に家族と親戚、使用人とさらにその家族や親戚、セーラを信じ移住を希望した国民と家畜を少しずつ避難させ終え、セーラを信じなかった王太子、陥れようとしていた貴族達によって彼らは国外追放された後だったのだ。


多くの国民が、国が犠牲となった。

しかしセーラが行動したおかげで国王や家族がセーラを信じ力を貸したおかげで国民の3分の1は救う事ができた。


セーラは生き残った人々に感謝される一方で、どうしてもっとたくさん救えなかったのかと恨みを買った。

自分が救ったはずの人々に、英雄と持ち上げられ英雄であることを求められた。


己が整えたはずの島を追い出され救えなかった人々を眠らせるため、感染せずに助かった生き残りを探すため、そしていつか徘徊する屍たちから土地を取り戻すためにセーラは戦い続けている。


彼女の戦いは終わらない。

彼女の寿命が尽きるまで、この世界の人類を守り続けることが案内人との契約だからだ。

内心ではせっかく助けたのに恨みをぶつけてきたり、それ以上の事を求めてくる人類に辟易していた。

最後はこうなってしまう事も、心のどこかで気付いていたのかもしれない。

それでも自分は人類を救うために動いた。

自分の作った安全地帯を追い出されようと、救った人々に恨まれようとそれだけは後悔したくない。


いつ終わりがくるのか分からない日々の中、セーラは今日もレイピアを手に生きる屍を眠らせていく。


たった一人で。

いつか自分も救われることを願いながら。

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救われない英雄転生者 枝豆@敦騎 @edamamemane

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