第4話


「……はっ、バカバカしい!十数年前ですと?その時、この令嬢は5つにも満たない幼子であったはず。そんな子供の話を鵜呑みにしたと?今日から奇病が流行り厄災となるだのと、嘘を付くならもっとマシな嘘にしていただきたい」


家臣がそう吐き捨てると他の貴族も同意する。


「……セーラ、本当に私の両親にそんな嘘をついたのか?なぜ父上も母上もそれを信じる?私の言葉など少しも届きはしなかったのに……」


ガラインに返答を求められ、セーラは口を開いた。


「嘘ではありませんが……殿下は信じないでしょうね……ここにいらっしゃる皆様も。私の戯言を国王陛下が真に受けたと思っていらっしゃる……残念でなりませんわ……ですが、私はそれを知っている。今までずっと私は一人でも多くの国民を救うために行動してきたのです」


セーラはぱちん、と扇を閉じるとニッコリと微笑んだ。


「殿下。ここにいらっしゃる皆様。よくお聞き下さい。私はこの国の滅亡を知っています。信じる、信じないは自由です。しかし滅亡から助かりたい、救われたい、生き残りたいと心から願うのならば私はいつでも手を差し伸べます。この言葉に嘘偽りはございませんわ」


「ふざけるなこの売女め!」

「何が奇病だ厄災だ!」

「この詐欺師め!極悪令嬢め!」


セーラの言葉をまともに取り合う人間は一人もいなかった。


「……父上、母上、なぜセーラの戯言を本気にしてしまったのか」


息子が問いかけても国王夫妻は目を伏せて首を横に振るばかりだ。


「……もういい、彼らを国外追放にせよ。今日から私が王位を引き継ぐ!」


ガラインは少し乱暴に国王から王冠を奪うと自らの頭にそれを載せた。

その瞬間、大きな歓声が彼に浴びせられる。


両親を切り捨てなければならなかった少しの寂しさと、これから自分の国を築いていくことへの緊張、そして自分ならば国民を導いていけるという自信を胸にガラインは隣で微笑むマリアナを抱き寄せその唇に口付けた。




その瞬間、ガツンと頭に衝撃を受けガラインは何が起きたのかわからないまま意識を手放した。



――――――――


「どうか、安らかに。」


胸元に手を当てて小さく呟くのはセーラだ。

顔立ちはガラインと向き合った時のままであるが、綺麗なブロンドの髪はくすみ短くなっている。服装は豪華絢爛なドレス、ではなくポケットのついたズボンにまるで兵士のような動きやすいジャケットを身に着けている。

片手にはレイピアが握られており、その刃には赤黒い液体が付着していた。


公爵令嬢に似つかわしくない彼女の足元に転がるのは王冠を被った屍だ。

腐敗し手足がありえない方向に曲がったその屍は、鼻の辺りから脳に向けて一突きにされていた。

なにか楽しい幻でも見ていたのだろうか、笑っているようにも見える。


「……愛していました、ガライン様」


彼女の呟きが彼に届くことはもう無かった。

セーラの愛したガラインはとっくに奇病に犯され、動く屍に成り果てていたのだから。


ぴくりとも動かなくなったガラインに背を向け歩き出しながらセーラはこれまでのことを思い返していた。


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