014 雷を纏う龍

「もうそろそろですわ、気を引き締めて行きましょう」


ソフィさんが僕とシンデレラに言う。

そう。僕らは雷雲峡の目の前まで来ていた。


今は少し休んで休憩をしていた。木の幹で座っている腰を持ち上げて立つ。


「よし、大丈夫かシンデレラ?」


「うん!もう足も痛くないよ!ウィル!」


シンデレラが僕の手を握って立ち上がる。


「ずっと思っていたんですけど、何やら、私はお邪魔の様ですね……」


ソフィさんは何故か僕を冷めた目で見る。


「え!いや、邪魔だなんて…!」


「ま!いいですわ!…もうそろそろですし、行きましょ」


そういうと先に進んで行ってしまった。


「ねーウィル、なんでソフィは怒ってるの?」


シンデレラが純粋な目で僕に聞いてくる。


「うーん、なんでだろう?僕もよくわからないや、あはは」


「ふーん、ねぇ、もし戦いに困ったら私を使ってね?」


「え?急になんだよ…シンデレラ」


「その時が来たらわかるから…さぁいこ!ソフィが待ってるよ!」


シンデレラは僕の手を引いて歩き出す。


「お、おい…シンデレラ」


シンデレラが言う「使う」とはどういう事だ。

その時とは…。いつかその「使う」時が来るのだろうか。

シンデレラに手を引かれながら僕はソフィを追いかけた。




僕らは雷雲峡に足を踏み入れていた。

そこは強い風が吹き荒れ、木々が大きく波打っている。

いつでも豪雨が降りそうな曇天の空。


そびえ立つ天まで届きそうな山々を見上げると、人間はちっぽけで弱い存在だと思い知らされる様だった。


「すごい場所ですわね…気を付けてくださいウィルさん…!」


「わかりました!………シンデレラも大丈夫か?」


「うん、大丈夫…」


僕の腕をギュと握り締めているシンデレラもその風と音に怖がっている様子だった。

奥へ進むうちにに辺りは暗くなってくる。例のモンスターを探すソフィさん。しかし、見つけられない。



と、そこに。



ドシンドシンと人型のモンスターが茂みから姿を現した。


「ゲヘヘッこんな所に、若い女が歩いてやがる!!」


「きゃっ…!」


それに驚いて倒れ込むソフィさん。


「ソフィさん!!」


そのモンスターはリザードマン。トカゲ男だった。


「おいおい、女が2匹もいやがるぜ…ゲヘヘこりゃ運がいい!!」


「2人とも下がって」


「は、はい!」


「ソフィ、早く!」


シンデレラがソフィさんを起こして木の後ろに隠れる。


「なんだ小僧、俺とやろうっていうのか?あ?」


「今、僕たちは忙しいんだ…悪いけど、ここを通らせてもらうよ」


「プ…グハハハハハッハ!!!!!!こりゃいい!!こんな小さな身体で俺に勝つつもりでいやがる!!」


「……笑ってられるのも今の内だよ…」


僕は『異次元の道具箱』を取り出して、そこから『雷槍ケラウノス』を取り出す。


「あ?なんだ?そんな槍ごときで俺に勝て……」


「悪いな…」



―ズバババババババババ――――――――――ン!!!!!



「え??????」


『雷槍ケラウノス』を構えて強力な突きをリザードマンの胸に向かって放つ。


「あ、あれ????????……あ、ああああ?????????」


「いったろ、急いでるって」


その突きは稲妻の様なスピードでリザードマンの胸に風穴を開けた。

そして、そのままリザードマンは倒れた。


「う、うそだ……こ、こんな、小僧ごとき……に………」


そう言い残し、リザードマンは力尽きた。


木の後ろに隠れていたソフィさんとシンデレラが出てくる。


「す、すごいですわね…ウィルさん…やっぱり…」


「すごい!!!ウィル強い!!ウィル強い!!」


シンデレラが抱き着いてくる。


「お、おい…シンデレラっ」


「ウィル強いーー!ウィル強いーー!」


「そうだな…」


シンデレラの無邪気に笑う笑顔に癒される。


と、そこに。


―ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!


急に大きい雷の音がしてくる。


「こ、これは…!!」


「ウィルさん、この音…例のモンスターが近づいてきています!!」


「本当ですか!」


ソフィさんが怯えた様子で言う。

国で体験した音に似ているのだろう。


「2人とも…僕の後ろに…!」


2人を前に立って辺りを警戒する。

激しい音と風。空の雲は黒さが増している。


―ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!


「音が近い!!ここは危険だ、みんなどこか屋根のある場所に……」



僕がそう言おうとした瞬間。

0.01秒にも持たないその刹那。


―ドドドドドドドドドドドドドドン!!!!!!!!


辺りに雷が何発も落ちて木や地面をえぐり飛ばした。


「きゃあああああああ!!」


激しい雷の嵐、悲鳴を上げたのはソフィさん。シンデレラは僕の腕をがっしりと握りながら目を瞑っていた。


「来た!!!」


その雷が一通り辺りに落ち終わった瞬間。僕らの頭上には


―バチチチチチチチチチチチチチチチ!!!!!!!!!!!!!!


全身をイナズマで覆う黄色い龍がうねりながら飛んでいた。

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