015 硝鱗龍の剣《クリスタルブレード》

すぐさま『異次元の道具箱』から『世界樹の双眼鏡』を取り出して、雷の龍を覗いた。


「こ、これは…!!」


そこには【七幻龍イエローラプンツェル】という名前があった。そしてそれ以外の詳細は不明。


「あの時の同じ……!」


僕はシンデレラを見つめる。シンデレラは僕の腕をがっしり握りながらイエローラプンツェルを見ていた。


「シンデレラ、あいつを…知っているか?」


「…知らない…分からない……」


やはり、何も知らないか…。とにかく今は奴が先だ。


「ソフィさん!あいつが例のモンスターですか!!?」


「あ…ああ、ああ……」


ソフィさんはイエローラプンツェルを見ながら震えて立ちすくしていた。


「ソフィさん!!!!」


大声で呼んでも、反応が無い。このイエローラプンツェルを音が凄まじいのだ。少し離れたら声がかき消されてしまう。


―バチチチチチチチチチチチチチチ!!


「シンデレラ、ソフィさんをお願い出来るか?」


シンデレラの眼を見て言う。


「う、うん…分かった」


ゆっくりと頷いてシンデレラはソフィの手を引いて木の下に移動する。


「お前の相手は僕だ!!」


そこから走り出してソフィさんとシンデレラから距離を取る。


「グギャアアアアアアアアア!!!!!!!!」


凄まじい稲妻を纏いながら突っ込んでくる。目にも止まらぬ速さ。このスピードは避けきれない。


「やべっ!!」


―バチチチチチチチチチチチチチチ!!!!


僕のすぐ上を通り抜ける。周りは稲妻で岩や木々が燃えて解けていた。

しかし、自分の身体は何ともなかった。


「たすかった…!?」


ふと、持っている『雷槍ケラウノス』を見ると、バチバチと稲妻を纏っていた。


「そうか……この雷槍ケラウノスは雷を帯びている…いわば避雷針…だからか雷を」


だがイエローラプンツェルはまた上空を旋回して、こちらに狙いを定めていた。


「七幻龍だが、なんだか知らないけど、どうしてこうも無茶苦茶な奴が多いんだよ…」


つい愚痴が零れる。

それもそのはず。こんなのはモンスターと戦うレベルを超えている。


天候と戦っているようなものだ。


「グギャアアアアアアアアア!!!!!!」


―バチチチチチチチチチチチチチチ!!!


ドンドンドンと辺りに雷を発生させて落としてくる。

飛び跳ねる木々や岩。


あれをまともに食らったら誰でも死ぬ。

走り回りながら、狙いが定まらない様にする。


「どうする……どうやってやつを……」


と、そこにシンデレラがこっちに走って来ていた。


「お、おい!!バカ!こっちに来るな!!!」


「はっ…はっ……!!ウィル!!!」


「グギャアアアアアアアアア!!!!!!」


―バチチチチチチチチチチチチチチ!!!


「やめろ!!逃げろ!!!くそ!間に合わない……!!!」


僕は走ってシンデレラの元まで走って駆け抜けていく。しかし。



―ドドドドドドドドドドドドドドン!!!!



シンデレラは雷の中に消えた。

吹き飛ぶ地面や木々。


奴の吠えた声と稲妻の音だけが鳴り響いていた。


「そ、そんな……」


シンデレラがいた場所に膝を付く。

煙が晴れるが、そこには何もない。


「そ、そんな………なんで、なんで……」


僕は地面をたたいた。


激しく後悔をした。連れて来なければ、こんな事にはならなかった。。まだシンデレラの事を何も知らないのに。何も。

僕のせいだ。僕の。


また。僕は、大切な存在を失うことになるのか………


昔の記憶を思い出す。


◆◆◆


まだ、子供の頃。故郷の村にいた時。僕はわがままな子供だった。


『よいか?ウィル…お前そのチカラは…いつか大切な人を守るために使うのじゃ』


『えーーわかんないよーじいちゃん。女の子の部屋を覗くためにあるんじゃないの?僕の魔法は』


『バカも――ン!違うわい!!』


―ゴツン!


『いってーーーー!何すんだよ!このクソ爺!!もう知らねー!!べーーー!!!』


『こらー!待たんか!!ウィルーー!!』


あの時、僕はじいちゃんと喧嘩して少し村を離れた。

でもそれはいつもの事だった。


家に帰ったら、またじいちゃんが迎えてくれると思っていた。


けど、違った。村に帰ると、そこは焼け野原。村人全員が殺されていた。

僕は後悔した。じいちゃんの言う通り、大切な村の人たちを救えたかもしれないのに。僕は……僕は。


◆◆◆


あの時と同じだ。僕は、また。僕はまた繰り返すのか。

そうはならない様に、出来るだけ人とは関わらず生きてきた。


でも、シンデレラと出会って、少しずつ大切な存在になっていった。

黄金の冒険者エルドラゴ』のメンバーには使いっパシリだったから、気が楽だった。

けど、シンデレラは違う。特別な存在になって来ていたんだ。


項垂れて地面に両手をつく。

絶望したその時。


「!?」


上空から光がさしているのに気づいた。


「な、なんだ!?」


顔を上げると、丸い光の球体の中にシンデレラがいた。


「シ、シンデレラ!?」


光り輝くその球体はゆっくり降りてきて、僕の目の前で光の球体は消えた。


「ウィル、私を使って……」


シンデレラは目を開けて僕を見つめた。

胸のリボンをほどいて胸をさらけ出す。


そこには光の鍵穴があった。


「こ、これは……」


戸惑いながら僕はシンデレラを見つめる。


「大丈夫、ウィルなら使いこなせる」


シンデレラはニッコリと笑った。


その笑顔を見て、僕も心を決めた。


「【最後の鍵】!!!」


手をシンデレラの胸にかざす。光の鍵穴はゆっくりと消えてシンデレラの胸が扉の様に開く。


「使って、ウィル…!!」


僕はシンデレラの胸の中に手を入れて掴んだものを引っ張り上げる。


結晶の様な刀身の眩い光を放つ剣が現れた。


「こ、これは…一体……」


「硝鱗龍の…剣……クリスタル…ブレード」


シンデレラが気を失いかけてそう言った。

そう言い残し倒れそうになるシンデレラを抱きかかえる。


「硝鱗龍の剣、クリスタルブレード」


僕はその剣先をイエローラプンツェルに向けた。

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