『クリスマスプレゼント』 最終回


 それは、とある、老人ホームのような場所でした。


 今日は、クリスマスイブです。


 入居している人の大半は、クリスチャンではありませんが、孤独な人が多いから、できる限り、楽しい行事は、なんでもやる方針らしいです。


 午後6時、大ホールに集まることが可能な人のうち、その気がない方は部屋に残っておりますが、それでも、八割がたは、集まって来ていました。


 まず、サンタさん姿の施設長さまらしき方が、ご挨拶をなさいました。


 『みなさん。さて、恒例のクリスマス・パーティーです。今夜は、すてきな、お客様もありますよ。め、一杯楽しみましょう。はい、スタート。』



 なんと、カーテンの向こうから、なまバンドが登場し、パンバカパピーン、と、ファンファーレを鳴らしました。


 老人たちは、大喜びです。


 『さあ、とてつもなく、たいしたものではありませんが、ご馳走が出ました。しばらく、ゆっくりどうぞ。』


 お年寄りの目の前には、海の幸、山の幸が、どんどんと、運ばれました。


 これは、たいしたもんです。



 さて、一方、やましんたちの乗った宇宙バスは、その最中に、そこに到着したのです。

 

 ハッチからでると、たくさんの、美女美男の人たちがいて、みなで取り囲みながら、やましんさんたちお客様の首に、花輪を掛けました。

 

 『ようこそ。夢の地獄に!』


 『へ ? ゆ、め、の、じごく?』


 『はい〰️〰️〰️〰️〰️〰️‼️ でも、ただの地獄ではありません。宇宙で一番、豪華で楽しい地獄です。天国なんか、めじゃないです! さ、レッツ・ゴ!』



 なにがなんだかさっぱり分からないうちに、やましんたちは、パーティー会場に案内されたのです。


 それはそれは、きらびやかです。


 大きな部屋中が、きれいに飾り付けられ、赤や黄色や、青や紫色の電飾が、これでもかあ。と、輝いていました。


 そうして、そこにはたくさんの人々がいて、たいがい、みな、やましんさんよりも、かなり年上の人たちの様子です。


 『みなさ~~~ん。いま、まさに、現世からのお客様が到着なさいましたあ。はくしゅうーーーーーーーー!!』


 『うわ~~~~~~~~~~!』


 という、威勢の良い声が、会場中に響きわたりました。


 『現世からのお客様がいらっしゃいますのは、この地獄開闢以来の、ものすごいできごとです。大将も、粋なことするじゃないですかあ。』


 『おわ~~~~~~!!』


 『今夜は、現世の土産話や、この地獄のこと、また、昔の思い話しなど、心行くまで、やりましょう。』


 『おわ~~~~~~~~~~!』


 もう、会場の中は、エネルギー充填250%という感じです。


 それで、お客様たちは、たくさんのテーブルに分かれて座りました。


 目の前には、それはもう、ものすごいごちそうが、どんどんと、ならびました。


 いったい、この老人の皆さんが、食べられるのかしらあ、と、心配にさえなります。


 でも、やましんの心配なんか、どこ吹く風よってな感じです。


 司会の方が言います。


 『地球からいらっしゃった皆さんに申し上げますが、一口、地獄の食べ物を食べると、現世には帰れない、とか、記憶がなくなるとかの噂がありますが、あれは、まあ、場所によっては、必ずしも嘘ではないが、ここでは、全然関係がありません、つまり、ここにおいては、まったく、大丈夫です。そのようなことは、起こりません。


 地獄長であるぼくが言うのだから、間違いございません。(なんとお、あなたが、大将ですか⁉️)


 さあ、しっかりお召し上がりください。


 食材は、現世から調達しております。


 現世にあって、ここにないものは、まず、ありません。


 カラオケの用意もありますが、なんせ今日は、地獄で人気の5人組、『ザ・ジコクーズ』の皆さんの、生伴奏付きです。クラシックから童謡唱歌、ロック、ソウル、ヒップホップ、ラップ、世界の民謡、なんでも行けます。リクエストは、お手元のメモパッドに書いて、送信を押してくださあい。』


 む、最近は、地獄もAIかしら。


 進んでるな。


 しかし、よく考えると、この人たちは、そもそも、なんなのだろう。


 地獄ですから、地獄の住人ですか。


 つまり、地獄の亡者たちかしら。


 むあ。


 それは、クリスマスに、相応しいのかしら。


 いやいや、考えてみれば、地獄も人間の想像力が産み出したファンタジーの世界では?


 欧米では、悪魔は墮天使。


 日本だって、地獄の審判員さまには、本地仏という考えがありますなあ。


 あまり、気にしないのが、正解でしょう。


 『おやま、あなた、悩んでましな?』


 となりのおじいちゃんが、微笑みながら言います。


 『悩みは、生きてる恩恵ですぞなもしな。まあ、まずは、いっぱいいかが?』


 と、おしゃれな、赤ワインのボトルを持ち上げました。


 『こいつは、ボレローの10年ものでしよ。うめぇーにゅあー。』


 ボレローのワイン?


 なんだそれは。


 まあ、どっちにしても、行く先は短かいんだから、ここは、いただきましょう。



 でも、これは、地獄に落とされたということなのかなあ。


 まあ、糖尿病と言われて以来、ワインなんか、長い間頂いておりませんし。


 『いやあ、これは、辛口で、フレッシュ。』


 『な。で、しょう。』


 コマーシャルみたいなことを言いながら、おじいちゃんは、おかわりを勝手に注いでおります。


 こうなったら、食べる方も、遠慮なく行きますか。


 あまり、運に恵まれなかったことに対する埋め合わせなんだったら、まあ、なおさら。



 では、目の前のお野菜から。


 これが、また、ものすごい量です。


 お野菜だけで、お腹いっぱいになりそう。



 そうこうしていると、スープが現れ、やがて、でっかい、ステーキが来ました。


 これは、いったい、なんでありましょうか。


 『これは、ガマダンプラールのジャヤコガニュアン風ステーキです。』


 なんだ、そいつは、どこかで聴いたようなフレーズだなあ。


 たしか、火星の古代料理として、タルレジャ王国で売り出したステーキだったな。


 王国では、今でもあるらしいと、聞きました。


 実態は、牛のステーキだと言われます。


 ただし、地球上で、タルレジャ王国にしかいない、火星牛なんだとか。


 そういえば、まあ、今も、現世にも楽しいことが皆無というわけでは無いのですが、問題はなにもかも、年金生活には高すぎで、なかなか手には入らないことかなあ。


 いや、それは、考え方が違うのかもしれない。


 年金生活とは、最低限の静かな生活という意味合いかもしれないです。


 それ以上を望むなら、自ら働いて、稼ぎなさいということなのでありましょう。


 それが、前の首相さんの言いたいことだったのかもしれないですね。


 ならば、なおさら、これは、頂かなければ、損だなあ。


 うん、いやあ、なんといいますか、この、やわらかな切り具合。


 やましんが、まだ在職中、たまに行っていたステーキ屋さんのは、ノコギリで切らないと切れないようなステーキだったけど、あれで、それなりの贅沢だったわけなのです。


 や、キャビアとかいうものがありますな。


 その正体は?


 まあ、それは、良いことにして。


 だって、変なものなら、失望するかもしれません。


 だいたい、普段食べないから、親しみというものがありません。


 おあ〰️〰️。


 伊勢海老だあ。


 でっかあい、アワビさんがいますよ。


 『ここは、プラスバイキングだから、好きなもの、取ってきなしい。』


 反対側のおばさまが、気を使ってくれます。


 うれしいなあ。


 うんうん。周囲を見回して、そんな気はしておりました。


 お皿を持って並んでみましょう。



 で、そのバイキングがすごい。


 フカヒレスープやら、北東京ダックやら、なごみこーちんとか、やまとあります。


 めはりずし、とか、おやきもあります。


 『すごいなあ。』


 いっしょにバスに乗った、やや、正体不明の黒い輪郭だけの人が感嘆しています。


 『たしかに、すごいですな。』


 『ええ、ええ。ぼくら、働いてた倉庫が、ばくらつしたらしいんですが、自分では、よくわからなくて。』


 『はあ。それは、お気の毒な。まあ、しっかり、頂きましょう。』


 『うんだ。こうなると、この焼きそばなんかは、なかなかローカルだなあ。』


 そのひとは、そう、つぶやきました。



         🥩



 『ちょいちょい、しっくん。』


 と、声を掛けてきた人がありました。


 『あちぁ〰️〰️〰️〰️。』


 ぼくは、びっくりしました。


 お皿を落としてしまいました。


 それは、だって、ご両親さまだったのですから。


 『よくきたね。』


 父が言いました。


 『いらっしゃい。』


 母も、にこやかに、そう言いました。


 特に、母は、晩年かなり、めちゃくちゃでしたから、ぼくは、ずいぶん苦労もしましたが、もう少し、良い対応もあったろうな、と、反省していましたし、なにより、職場から駆けつけたものの、その最後に間に合わなかったのは、非常に心残りでした。


 また、孫を見せてやれなかったのは、深い罪に違いないと思っていました。


 いまも、その罪は続いたままですし、いまさら、治らないでしょう。



 『ああ、あ。お父さん、お母さん。あの、あの。ぼくは…………』


 母も父も、まるで、元気な時分のような感じでした。


 母は、黙って、ぼくを抱きました。


 『あの、お父さん、お母さん、ごめんなさい。いろいろと、だけどさ。』


 『ああ、分かってるさ。』


 お父さんも、肩を抱いてくれました。


 ぼくたちは、自分たちだけのテーブルに移りました。


 でも、そこには、ひとり、高い椅子に座っている、赤ちゃんがありました。



 『やあ!』


 赤ちゃんは、陽気に叫びました。


 『や、って。え?』


 『あなたの、お兄さんです。死産でしたが。』


 『な、なんと。』


 『はじめまして、でしゅ。』


 『あ、はい。はじめまして。あの、え、お兄さん。』


 『やった。やっと、そう呼ばれた。いやあ、ここまで、長かったなあ。いつも、君の側にはいたんだがなあ。』


 『え?』


 『あるときは、くまさん。また、あるときは、パンダさん。』


 『ひぇ〰️〰️〰️〰️』


 ぼくは、びっくりしました。


 しかし、なんとなく、そんな気がしたことは、あったのですが。


 再び、たくさんの、ごちそうや、飲み物が、やってきました。


 『ごちそうは、別として、これが、一番、いつもあるべき、姿だったんだろうなあ。』


 ぼくは、そう、思いました。


 『では、みんなで、『きよしこのよる』を、歌いましょう。宗教宗派関係なしですから。はい、ろうそくの用意はできましたか。ソロは、タルレジャ王国の第1王女さまです。このパーティーの主催者です。明かり、暗くしますからご注意ください。』


 ああ、そうして、ぼくの産み出した、王女さまが現れたのです。


 王女さまは、いわば、ぼくの、子供なのです。

 

 あたりが、薄暗くなり、ろうそくの光が、周囲に揺れました。


 ちょっと遠慮がちにではありましたが、ばかばか、どんどか鳴らしていたバンドが、まるで違う音を出しました。


 それから、ヘレナ王女さまが、歌いました。



 『〽️ きーよし、このよる〰️〰️〰️〰️。』



 あたりは、ほんわかした、雰囲気に包まれていました。


 あら、な、なんと。


 いつのまにか、奥さんのびーちゃんも、座っていました。


 同じバスに、乗っていたのでしょうか。


 亡くなったびーちゃんのご両親も、姿を見せました。


 ぼくは、全員に、謝らなくてはなりません。


 間違いばかり、やっていたのですから。


 

 しかし、これは、最高の、クリスマス・プレゼントなのです。


 地位や、お金では、得られない、ここだけの楽しい時間なのです。


 やましんは、自分では、ついに築けなかった、最高のプレゼントです。


 それが、こうして、実現したのです。


 夢なのか、地獄なのか、天国なのか、宇宙なのか?


 そういうのは、いま、問題ではないのです。



 『さあ、ここだけの、最高のプレゼントをいたしましょう。』



 歌い終わった、王女さまが言いました。



 すると、部屋の中は、一変したのです。


 天井が、大きく開きました。


 そこには、めいっぱいの、星ぼしが、輝いています。


 さらに、凡ての壁が下がってゆきます。


 そこにも、たくさんの、星が流れています。


 そうして、ついに、床もなくなりました。


 そこも、すべて、宇宙なのです。



 今は、みな、この宇宙の中に、等しく佇んでいるのです。

 


 ああ、なんという、美しさ。



 身体中いっぱいの、幸せ。


       

        😌🌸💓




 みなさん、メリークリスマス❗



   🕯️   🎅  🎂  🍰



 


 


 


 


 





 


 

 


 

 


 


 


 

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『クリスマスプレゼント』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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