第2話 子鬼と仙人

仕方ない・・・。


「あのさ、河童さん。ここどこ?」


「ここか?仙介一丁目だ。」


「フーン。二丁目もあるの?」


「なんだ。お前、なじむのが早いな。もっと、雄たけび上げたり、おかしくなるやつの方が多いぞ。」


「いや、もう叫んだし。変わらなかったから。私、死んだのかな?」


「そんな事しらねーよ。じゃあな。」


河童が立ち去ろうとするので、急所の様に感じた頭の皿をガシッとつかんだ。


「お前ーーーーー!!!。なにすんだ?大事な場所を!!」


「だって、どっかに行こうとしたじゃん!私を置いて。」


「どこへ行こうと、こっちの勝手だ!なんだお前。」


「だから~、私が~、一人になるじゃん!」


「お前、おかしな奴だな。それに、なんだその爪?毒でも付いたのか?」


「はああ~???何言ってんの?可愛いじゃん!この爪。買ったばっかのネイルチップにケチ付けないでくれる~???」


「とにかく、この手をどけろ!人間!」


「ヤダ。どけたら、どっかいくっしょ?そこの川とかに、チャプンとか入ちゃってさ。」


「うっ・・・。よし、分かった。お前みたいなやつらがいる所に連れてってやる!だから、皿から手を離せ。」


「やだ。信用できないもんね。そこまで、このままだもんね!」


河童と共にてくてく歩いて、河童の言う集落まで行くことにした。


「ねえ、河童さん!ねえってば、なんかしゃべんなよ。つまんないじゃん!」


「くそ~、話しかけるんじゃなかった。揶揄うつもりだったのに!くそ~、くそ~!」


「あのさ、どんな人がどんくらい?いるのそこ」


「うるさい!黙って、ついてこい。」


「や~だね。つまんないの嫌いだし~。それに、ここつかんでたら、河童さん逃げられないんでしょ?へへ。」


ずっと河童の皿に手をかけていると手のひらが汗ばんできたがすぐに乾く。どうも、皿に吸収されてるようだった。


「河童さん、あんたの皿、汗も吸収するじゃん!すんごいな!」


こんなやり取りでしばらく歩くと、小さな子供の鬼が狸を連れて現れた。


「おっなんだ!子鬼じゃん!ねえ、河童さん、あの子とダチなの?」


「ダチ?ダチってなんだ。」


「だから~、友達か?って聞いてんの。」


「鬼は鬼だ!その、と・も・だ・ちとかではない!そもそも、それは、なんだ?」


「えっ?知らないの?仲良くするってことだよ。河童さんが、ちゃんと私を案内してくれて~仲良くなったら、もう、ダチだよ。へへ。おーい!子鬼~。どこ行くの?」


「お前、勝手に声とかかけるな!」


「なんで?」


「子鬼と絡むとえらい目に遭う!泣いたりしたら、親鬼が出てきて追いかけられるぞ!」


そんな言葉は、無視して声を掛け続けたら、子鬼が返事をしてくれた。


「おい、人間。生意気なやつだじょ。子鬼じゃないぞ!鬼だじょ!」


「だじょだって!うける。めっちゃ可愛いじゃん。」


大笑いしたら、うっうっと言って子鬼が泣きそうになった。


「おい、どうにかしろ!このままだと親鬼が飛んでくるぞ!」


「よし、逃げんなよ!河童さん。」


そう言ってから、皿からちょっとだけ手を離し、子鬼に駆け寄って、ひょいと抱き上げ、すぐさま、河童の側に戻り、今度は、子鬼に河童の皿に手を置かせた。


「いいか?ちゃんと手を置いて・・・そうそう。」


「こうか?人間?」


「そうそう。」


「やめろ。お、俺の皿で遊ぶんじゃねー。」


「河童さん、出発進行!」


「ちゅっぱちゅしんこう!!」


結局、子鬼と狸もつれて、歩き始めることになり、また、てくてくと進む。途中、へんてこな生き物が横切ったり、一緒に歩いたりしたが、河童がうるさいので、連れて歩くのは、子鬼と狸だけにした。


「河童さ~ん、まだなのか?」


「まだなじょか?」


子鬼もいう。子鬼の舌ったらずさに、笑いそうになるが泣かれては困ると、河童も堪えていた。そんな、やり取りをさらに続けて歩いていたら。遠くに見えていたはずの滝の傍までやって来ていた。


「もう、そろそろ・・・仙人様が現れても良いんだがな~」


河童がつぶやく。


「仙人?仙人がいるのか?長い白髪と髭のじいさんなのか?」


「あー、それは、天界仙人様だな。一丁目の仙人様は若いぞ。」


「んじゃ、イケメンか?」


「また、訳の分からぬ言葉を・・・。」


「いけにぇんか?」


子鬼がやっぱり真似して聞く。笑いそうになったその時だった、前にあった大きな樹が光って人が現れた。長い黒髪に色白で、麗しい顔立ちである。頭上にへんてこな、葉っぱの様なものを乗せ両手に何か持っていた。


「お前が落としたのは、この金の銀の斧か?それとも銀の金の斧か?」


そう言って、両手に斧を持っていたが、全く光っていない。


「その斧光ってないじゃん!うけるーーー。ひーーー金とかって!!」


「なんだ、お前、迷い人か?まあ良い、私の冗談に付き合ってくれてありがとう。迷い人。」


「仙人様、また変なこと言って。今度は、何を見てきたんですか?」


河童が呆れたように聞く。


「うむ。下界にちょっと、遊びに行ったときに見たものじゃな。」


「まぁいいよ。仙人様、とりあえず、連れてきたから何とかしてやってくれよ。はあ~これで、皿から手をのけてもらえる。」


ぼやきながら河童が言った。


「河童さん、どこ行くつもり?」


「もう、さっき言った場所まで来たんだから、道案内は終わりだ!住処に帰るだけだ。そこの川からな!」


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