第346話 大盤振る舞い

 ミーティングを終えた俺たちはスタート地点の選択をし、開始5分前には転移ゲートをくぐりそこへとやってきた。

 俺にとっては懐かしの、駒込さんとバディを組んで駆け回った場所だ。


 と言っても、今回駒込班のスタート地点になったのは大規模作戦時には縁のなかったエリア。

 ただ都会では感じることのできない森の匂いというか空気感が、俺を感傷に浸らせたのである。


「それが例の端末か」

「そうです、副班長」


 俺の問いかけに応える瀑布川。彼女が班員の中で転移ゲートを一番最初にくぐってここへとやって来ていた。

 大した時間差ではないが、拠点の壁を触りながら歩き、チェックを始めている。


 広さおよそ15畳の俺たちの拠点。

 窓なし、入口はひとつ。天井の高さは3階分がぶち抜きになっているような作りで、割と高い。

 備え付けの備品等は特に見当たらないな。あるのはこのタブレットPCのような端末と、それを支えるスタンドだけだ。


「…」


 俺は端末の前に立つと興味本位で自らの腕時計型デバイスを近づけてみた。

 ルール上自陣の制圧はできないことになっているから、てっきり何も反応しないと思っていたのだが…


『自拠点は、制圧対象外となります』

「おお…」


 車に搭載されている”ETC端末と同じ声“でアナウンスが流れる。(ETCカードが挿入されていませんのヤツ)

 まさかこんなパターンまで用意されているとは…芸が細かいな。

 そんな細かい配慮に感心をしていると、後から転移して来た火実が俺に声をかけた。


「副班長。自陣は制圧ポイントは入りません」

「ああ、分かってるよ。ただ、どうなるか―――」

「私が全部ルールを把握しているので、任せてください!」

「…」


 火実⇒才洲と畳みかけられる。

 ちょっと試しただけでとんだバカ扱いをされてしまった。

 ホラ、中央線のドア開閉ボタンをちょっと押してみた…的なやつなのに。開かないのは分かっているけど、手持無沙汰でさ。

 今の俺はそんな出来心な行動も取れないでいた。

 まあいいけどね。



「さて、開始まであと5分だ」


 テスト開始がいよいよ間近に迫ってきたタイミングで、火実が話し始めた。

 準備は万全。俺たちは全員標準的な装備を身に着けている。

 ベスト、通信機能付きヘルメット、ナイフに銃。

 能力発動のための特別な持ち込み物はない。必要な物は現地調達か、敵から奪い取るだけだ。


「おさらいだが、まずこの拠点の防衛に割く人員はゼロだ。制圧されても我々にマイナスは無いし、どこかのチームに僅かな点数が入るだけ。守る旨みはほぼ無い」


 俺と才洲(勿論駒込さんも)以外の三人で決めさせた作戦の内容が火実の口から語られていく。拠点制圧ポイントはくれてやる方針。

 今まさに語ったように、制圧されてもマイナスは無いどころか、守りに人員を割くことがマイナスと考えている。

 その考えには俺も賛成だ。


「次に、最初の相手には効率よりも“魅せ方”を意識すること。これは『早い段階』で特対が自分たちに唾を付けるようにする為の作戦だ」

「応用技で技術点を狙うわけですね」

「まあ、私の”模倣“にそこまで使い方の伸び代は感じませんが…頑張ります」

「僕も似たようなもんだね」


 能力はラベリングしてしまうと、大したことないように見えてしまう事がある。

 口には出さないが『なんだそれだけか』と内心ガッカリされたりもするだろう。

 しかし使い手の頭次第で大化けする可能性があるのが能力の面白い点だ。


 現段階では特対が気付いていない、思いついていない使い方を、彼らがいかにアピールできるかがこのテストの本懐である。

 そしてその思考力・発想力・応用力などは、道場で俺も一緒にできるだけ鍛えたつもりだ。

 俺も能力者として経験豊富な方では決してないが、足りない経験や知恵は創作物で補って、彼らに伝授できたハズ…。

 あとは1%の閃きで乗り越えよう。

 強い刺客が来ても―――


「最後に、副班長を狙いに来るかもしれない刺客は、全員でぶちのめそう!」

「当然です」

「普通木っ端微塵だよね」

「普通はバラバラですよ」


 鼻息の荒い彼らを見て口角が上がるのを感じる。

 連携のれの字も、使命のしの字もなかったような彼らがよくここまで成長してくれたと、思わずニヤけてしまうな。


「よし、行くぞ!」


 火実の音頭で皆のやる気も高まる。

 新生駒込班の初陣だ。













 _________________











『こちら火実。ターゲットを発見した。そちらと接触まであと2分』


 四人の無線機に班員である火実からの報告が入る。

 先行した彼は“上空から”別班の姿を確認すると、ヘルメットのスイッチを押しすぐさま仲間に報せた。

 このままお互いの班が歩みを進めると、もう間もなく接触する…そんな状況を簡潔に伝える。


『陣形は一人の職員を四人が囲んでいる形。恐らく真ん中がヒーラーか補助役だと思われる』

『了解。200メートルの地点で作戦開始します。カウントを頼みます』

『了解』


 一通りの報告を終えると、火実はポケットから石をいくつか取り出して両手に持った。

 皆川が予め爆弾に変え、自らの能力でその起動を停止させている石。当然ながら現在も彼の制限時間をグングンと減らし続けている。

 空中に上がるのにも何度も靴を固定、解除、固定と回数をガンガン減らしながら行った。

 宣言通り『出し惜しみ一切なし』の行動だ。


 しかしこれが様子を見ている特対職員へ、火実の斥候としての実力を認識させるに十分なアピールとなったのであった。


『3…』


 石を下に手放すと、火実がカウントを始める。


『2…』


 キャンプ中、何度も繰り返し体に染み込ませた秒読みは、僅かな狂いもなく仲間に開始の合図を伝えようとしていた。


『1…』


 そして、ターゲットの周囲数カ所で、大きな爆発が起きた。


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