第345話 ミーティング

「才洲さんは回数型ですね。時間経過による消費はほぼないみたいです」


 俺たち“駒込班”に割り当てられた控室では、とある確認作業が行われていた。

 それは班員の能力の”回数と時間の消費量“のチェックである。


 先の説明にもあったように、今回の試験では一人当たり10分か30回の能力使用で強制的に泉気を止められてしまう。

 そのため班員たちは『どういう使い方をした時に回数or時間が減るのか』を正確に把握する必要があった。

 ミーティングの時間中は担当職員に腕時計型デバイスのカウントをリセットする権限が与えられているため、こうして今のうちに調べているというわけなのだ。


「ということは、会う人間を細切れにしていたらあっという間に彼女はパンピーってことですね」

「気を付けます!」


 駒込さんに対する俺の返答に元気よく反応する才洲。

 何がそんなに楽しいんだか…。


 コイツはキャンプ中、どんどん顔つきが引き締まっていった他の奴らと違って、終始嬉しそうに俺の言う事を聞いて付いてきていた。

 まるで犬のように、尻尾があればブンブンと振っている勢いで…

 まあ思考力はキレキレだから別に文句は無いのだが、期待するような熱い視線がたまに居心地悪くなったりする。やり過ぎた…かな?


「次は私でお願いします」


 瀑布川が一歩前に出て自分のチェックを駒込さんに申し出た。

 彼女の能力は時間がどう消費されていくか、確かに気になるラインではある。

 技能を自分や他人に貼り付けている間ずっと時間消費されていくのであれば、使い所はかなり難しい。

 逆に使い切りならば、余程のスタイルチェンジを繰り返さなければ余裕はできる。


「えー…瀑布川さんは……瀑布川さんも回数型ですね。技能を模倣している間の時間消費はないようです」

「ありがとうございます」


 淡々とお礼を告げ下がる瀑布川。

 安心しているのか、それともなんとも思っていないのか。態度からは分からない。

 少なくとも時間消費でなくて良かったと、駒込さんの表情からは心情が見て取れた。


 その後、火実と皆川もチェックを行い、班員のチェックは無事に完了する。


 火実は単発の停止であれば回数を1消費するだけで済むのだが、遅延や停止の結界を展開している間は時間の消費もしてしまう。

 また、結界内の停止物体の数に応じて回数減少が確認できた。

 つまり飛んでくる大量の石を30個止めるとその時点で泉気切れとなる。

 班員では最も回数・時間燃費の悪い能力であると言えた。


 皆川は物体を爆弾にするのに回数を1消費する分かりやすい仕様だった。

 ただし爆弾を最大威力にするために10秒握り続けると、その分の時間は消費する。

 爆弾が手から離れて爆発するまでの4秒は時間消費にはカウントされなかったのは幸いかな。


「最後は副班長ですね」


 瀑布川がサラッとそんなことを言う。

 確かに、俺も一応測っておくか。

 試験中は使う想定はしていないが、後鳥羽の刺客に乱入された場合これが枷とならないよう最低限のスペックだけでもな…


 だが計測しようとした俺に班員の一人が異を唱える。


「必要ありません、塚田軍そ…副班長!」

「…火実」


 赤いスポーツ刈りの男、火実勝利が俺の計測を不必要だと断ずる。

 どういう理由かは分からない。それは周りもそうみたいで、みんな彼のことを見ていた。

 てか軍曹って言おうとするな。


「何が必要ないんですか? 火実さん」

「副班長が能力を使うことはないということだ、瀑布川。むしろ副班長に治療を使わせることは恥と知れ」

「はあ?」


 瀑布川の表情にさほどの変化はないが、声色からワケのわからないことを言うなボケ、と思っていることがひしひしと伝わった。

 しかし、今回の火実には味方がいた。


「いいこと言いますね、火実さん!」


 忠犬ミレ公こと才洲美怜だ。


「そうだろう」

「ええ。それに塚田さんには、温存してもらわないといけませんからね! 余計な消耗をさせてはいけません!」

「…」


 2対1の劣勢に押し黙る瀑布川…というわけではなく、思うところがあったのだろう。

 下を向き何かを考えている。


 彼らには、既に『俺が狙われている事』を話しているからだろう。

 試験と、俺への刺客をどう撃退するかについて一生懸命だ。

 ありがたい。


「皆さん」


 俺の計測から始まった議論が膠着状態に差し掛かった時、駒込さんから俺たち全員に声がかけられる。

 改めて伝えたいことがあるようだ。


「テスト前に言う事ではありませんが…特に火実さんと瀑布川さんと皆川さんには、担当職員としてかけるような言葉ではないのですが」

「なんだい? 班長」


 駒込さんの神妙なトーンに対し、これまで言葉を発さなかった皆川が対応した。


「……塚田さんを、頼みます」


 真剣な駒込さんの表情に、俺たちは思わず顔を見合わせて少し笑う。


「任せてください! 副班長は自分が責任を持って守ります!」

「火実さんに副班長は守れませんよ。降りかかる火の粉は私が…」

「瀑布川さんにも無理です! 副班長は私が…」

「なら僕は、副班長が通りやすいように道を爆破して切り開くよ」


 班員がそれぞれの想いを口にした。

 駒込さんに言われるまでもなく、俺を護衛してくれるようだ。


「頼もしい前衛がいるので、後衛の俺は安心して力を溜めておきますよ駒込さん」

「塚田さん…何かあったらすぐに駆け付けます」

「彼らが失格になるので、最終手段ということで」


 本当に飛び出しかねない駒込さんに釘を刺しつつ、俺たち班員は(表向き)メインの目的であるテストに向けてミーティングをするのであった。



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