第337話 キャンプ〜皆川の矯正?〜
『お父さん、いたんだ』
息子の素っ気ない返事が、帰宅した僕に浴びせられる。
いつからだろう。家族と向き合わなくなったのは…
最初は妻と息子にカッコいい自分を見てもらいたくて、必死に仕事に打ち込んでいた。
それがいつしか、家庭を顧みない駄目なパパとなっていった。
妻は、不満はあっただろうけど一定の理解を示してくれていた…と思いたい。
けど息子は大きくなるにつれ如実に態度が悪化し、今では嫌悪感さえ抱いている。
けどそれも仕方のないこと…。遊園地の約束も授業参観の約束も…あらゆる約束を破ってきたのは僕の方なんだから。
まだそれでも、カッコいい仕事の姿を見せていれば、周りから尊敬の眼差しを向けられる父に一定の好感度を持っていれたのかもしれない。
しかし、腰を痛めて救助活動もまともにできない、むしろ要救助者な父を尊敬する息子はどこにも居なかった。
能力に覚醒した時、これでワンチャンス威厳やら好感度やらを挽回できると期待した。
けれど僕に授けられた能力は、とてもじゃないが市民を守るようなモノではなかった。
むしろ周囲を壊すためにあるようなチカラだ。
僕の【
爆発するのは手を離してからキッチリ4秒後で、それ以上でもそれ以下でもない。
手で掴みきれない物体も爆弾に変えることは可能だが、例えば巨大な壁に手を当てて能力を行使しても、せいぜい30センチくらいの範囲が爆弾になるだけだ。
あと、生物には効かない。これは能力判定でラットを対象にやってみた結果である。この時は色んな意味でホッとした。
しかし、破壊のための能力であることは変わりない。
このチカラの消防官としての活かし方が分からなかった。
だから思い切って退職し、特対の門を叩いてみたのだが…配属されたチームは落ちこぼればかり。
そこで間接的に、特対は僕に何も期待していないと伝えてきていることを悟った。
確かに動くような訓練には参加できない。けどそれは仕方のないことだと不満を抱いていた。
でも特対からしたら、動けないのに4秒で爆発する爆弾を作る能力者など要らないということを、早いうちに悟った。
特対所属の回復能力者が治してくれれば…とも思ったが、治ってももう中年。要らないか…。
『お前のような腐れ※¥@♯に守ってもらうなんて、住民も迷惑だろう! さっさと隠居して■◯でもかいてるのがお似合いだ!』
強引にこの道場に連れてきた誘拐犯。諸悪の根源。
そしてヘルニアを治してくれた恩人だ。
『僕には他の二人みたいな優しい言葉はかけてくれないのかい?』
ある休憩時間。
厳しい言葉しか貰ってない僕はド直球にそんなことを聞いてみる。
二回りくらい年下の彼に、何を期待しているのかと笑ってしまうが。
すると―――
『あるわけないだろう』
と返ってきた。
『あの二人は若さからくる未熟な部分をアメとムチで矯正しているが、お前はもういい歳だろう』
おっしゃるとおりで。耳が痛いね。
ていうか彼ら…君と大して歳も変わらないんじゃ。
『だがそうだな…。取引ではないが、付いてきたなら約束しよう』
『約束?』
『ただの消防官や特対職員よりもずっと憧れを抱かれる、そんな男にしてやろう』
彼は自信満々にそういった。
男の、しかも年上の僕から見ても惚れ惚れするような態度だ。
一体何があったらこんな風になるのだろう。
彼は軍隊で教官でもしていたのか? この若さで?
『ちなみに、拒否権などないがな』
『そうかい』
この歳になると、やりたくない事を回避する術に長けてくるもんだ。
逃げ道がないのは逆にありがたい。
『そりゃ大変だ』
腰どころか全身ガタガタの体を起こして、訓練に戻った。
まさか残り半分のほうが過酷な訓練になるとは思わなかったなぁ。
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