第335話 キャンプ〜火実の矯正〜
「…終わった」
照明が煌々と照らす体育館内にブザーの音が響き渡ると、それに続くように拍手と歓声が聞こえた。
梅雨のジメッとした空気が全身を包む6月のとある一日。
高校バスケのインターハイ、その県大会の試合が終わった。
結果は75-11と、ほぼワンサイドゲームな内容となってしまう。
そして負けた高校のバスケ部員である俺は、その様子をずっと”観客席から見ていた“のだった。応援要員として、ずっと…
コート内やベンチでは、勝った高校も負けた高校もお互いの健闘を讃え合い、笑ったり泣いたりしている。
けど同じ部員であるはずの俺はそんな中に入ることもできずに、その様子を見ていることしか出来なかった。
県大会の初戦で負けた高校の、観客席の応援要員…それが俺のバスケットボールプレイヤーとしてのゴール地点だった。
大差がつくと控えの3年生は記念にコートに立てるのだが、その資格すら無い。
さらに悲しいことに、ウチに勝った高校も次の試合で恐らく負ける。
相手はインターハイの常連校で、奇跡でも起きない限りは、勝てない。
そんな2回戦負け濃厚な高校に大差で負けた我が校は、一体どれだけインターハイから離れているのだろうか…。
『ま、こんなもんだよね』
『そーそー。県大会行けただけでも大したもんだよね』
観客席では同じ高校の女子生徒がそんな感想を漏らしている。
冷たいように聞こえるが、まあ当事者以外の人間からしたらそんなもんだろうな…
むしろよく応援に来てくれたもんだと、感心までしている。
「…何してんだろうな」
頑張った
よくやった
こんなもんだよ
勝利を掴めるのは一握りだから
趣味で続けて、これからは別の楽しいことを見つけよう
親も、友達も、親戚も、クラスメイトも
みんなそんなことを言う
俺の置かれた状況は特段珍しいことではなく、大多数の人間が“そう”だと言うのだ。
普通に考えりゃ、そうだ。
甲子園優勝校は1校だし、インターハイ優勝も1校だ。
それは分かってる。
でも
バスケに夢を見た
青春を捧げた
9歳から18歳
およそ今までの人生の半分だ
『よくあることだ』と流すには悲しすぎるくらい、バスケに時間を費やしてしまった。
照明が眩しい。眩しすぎる。
勝って喜んでいる相手校の生徒も
負けて泣いている我が校の生徒も
観客席からは眩しすぎて見れない。
きっと向こう数年、スポーツ番組やニュースで流れるバスケの試合もまともに見れないだろう。
そして俺は、こう思ってしまった。
”努力はコスパが悪い“
こんなことを考えている時点でズレているのは分かっている。
でも、そう思わずにはいられなかった。
決して不真面目なんかじゃないが…
『おめでとうございます。能力が覚醒しましたね』
免許を取得する為にバイトをして貯めた金で受けた“覚醒サービス”は、見事に俺を能力者へと昇華させた。
あれよあれよと気泉が開き、固有能力に目覚め、そして高ランク認定を受けることに。正直トントン拍子過ぎて笑ってしまうほどだ。
でもこれが、俺の求めてたもんだった。
最低限の労力と時間で最大限の成果を得る。コスパ最強の人生だ。
能力が公表されて間もないが、個人サイトやSNS・動画サイトでは早くも『能力者Tier表』なんてものが出回り、強い能力者が如何に人生の勝ち組になれるかなんて事が語られた。
特に俺は『表に当てはまらない高ランク能力』に該当することが多く、天辺まで登りつめる可能性すらあるのだとか。
俺は何度もそういったサイトを見てはほくそ笑んでいたのだと思う。
でも…
『よお、おい。兵器が居眠りとはいいご身分だな』
俺の鼻をへし折ったのが、この男だ。
俺の無敵の能力をあっさり破り、どういうわけか泉気を奪い、そして強制的にこんな修行をさせる…
治療のたびにわざわざこうして罵って、心を砕く。
(たまにカンペ見てるのを俺は見逃してないが)
こんなに走ったのは高校の時以来だ。
1ヶ月走らされ続けて、大分体力は戻ってきたが…それでもかなりキツイ。
タバコもずっと吸えないし、酒も飲めない。
なんで俺がこんな目に…
『お前のしてきたそれは努力ではない』
『…うっせ』
修行に多少付いていけるようになると、話す余裕もできた。
俺は飯時に、気を許し塚田に昔の話をしてしまった。
そこで返ってきた答えがそんなだ。話すんじゃなかったぜ。
『良かったな』
何が良かったのか。
嫌味を言っているのか?
とことん嫌なヤツだ―――
『努力してないということは、伸びしろしかないということだ』
『………………………うっせ』
このあとも滅茶苦茶しごかれた。
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