第329話 ツテ
【仮面ファイター(シリーズ)】とは
40年以上続く特撮シリーズに登場するヒーローの名称。また、そのシリーズ作品の総称。
名前の後ろに何も付かないただの"仮面ファイター"は第1作に登場するヒーローを指し、その後は1年ごとに異なるタイトルの作品が放映され、それと共に多くの種類のファイターが登場している。
歴史が長いだけあってファン層は子供から大人まで広く存在し、また平成に入ってから主役や敵役にイケメン俳優を起用する事が多くなり、主婦を中心とした女性のファン層も一定数存在していた。
(若手俳優の登竜門になっているとか、いないとか…)
むしろ30代以上の男女ファンの熱量の方が子供よりも高いとまで言われている。
そんな大人気作品である仮面ファイターだが、どの作品にも共通する"ある要素"が存在していた。
それがヒーローになるための"変身アイテム"だ。
ベースは第1作に出てくる"変身ベルト"で、今でも主役ファイターを中心に多くのバリエーションのベルトが登場している。
しかしたまにベルトではないガジェット(銃型・剣型・腕時計型など)が変身アイテムとして登場する為、それらを含めて"変身アイテム"と呼ばれることが多い。
そして今回、俺が阿佐ヶ谷博士に依頼したのは【仮面ファイターピンズ】に登場する変身アイテムで、メダルを使ったギミックが特徴のベルト型ガジェットである。
作中で主人公は頭・胴体・足に対応する"異なった能力を持つ3枚のメダル"を組み替えて様々な種類の敵に対応するという、シリーズでも珍しいただのゴリ押しではない相性を考えたタクティカルな戦い方をしていた。
しかもそのメダルは作中の敵怪人の体の一部(力の源)にもなっているので、本作はこれまた珍しい『力の奪い合い』というストーリーが繰り広げられていたのだ。
名前の由来は麻雀牌の
シリーズの中でも俺が一番好きな作品である。
「変身…!」
掛け声とともにメダルをスキャンする。原作の変身ポーズそのまま。
するとベルトから『ホーク! タイガー! ホッパー!』という音声が流れた。これはメダルのモチーフになった生物の名を読み上げるという、作中のベルトの仕様を再現したものである。
「おぉ…」
スキャン直後、体がうっすらと光りだす。作品のようなエフェクトは流石に無かったが、この装置の変身が完了したのだった。
「どう、着心地は」
「ピッタリですよ、これ」
「それはよかった」
俺の体には先程まで装着していた支給品のベスト、アームガード、レッグガード、無線機付きヘルメットが着けられていた。
そう、このアイテムはDX変身ベルトなどではなく、“瞬間防具装着機構”という特対の新発明…の魔改造バージョンなのだ。
実際はもっと小さい腕時計型で、ポーズなど取らなくても簡単に変身できるようになっている。
これならパトロール中やオフなどで装備一式を身に着けていない状態から、一気に臨戦態勢を取ることができる。
他にも、例えば潜入調査の最中で戦闘やむなしの流れになった時なども一定の備えになるだろう。
この試作品の話を聞き俺がふざけてリクエストしたところ、想像以上のクオリティに仕上げてくれた。
「で、こっちが真面目に頼まれていた方ね」
「あ、それが…」
博士が作業台に置いたのは黒い腕時計のようなものだった。
俺がお願いした変身ベルトよりも遥かに小さいソレは、本来のこのアイテムの大きさなのだ。
「では、こっちも失礼して…」
ベルトを外して変身を解除した俺は、今度は腕時計をはめてスイッチを押した。
すると再びボンヤリと発光し、全身を包むように時計に内包されたマントが装着されたのであった。
そのマントは、CB討伐作戦時にも世話になった、駒込さんの能力で生み出された透明化マントである。
キャビネットのガラスに目をやると、先程まで確かに写っていた俺の姿が消えているのが分かった。
効果は問題ないようだ。
というか、顔だけが宙に浮いていて気持ちが悪かった。実際は目の所だけ少し開ける以外全身を覆うように被るから、こんな光景にはならないのだけど…。
「こちらもバッチリですよ」
「よかったよかった。こっちは試作品と方向性が一緒だから君の注文よりも幾分か楽だったよ」
「いやホント…スンマセン」
俺の"
まあ、音声とか付属品とか、要らんもんばかり注文してしまったからな。
付き合ってくれて感謝な反面、少し申し訳ない気持ちに。
「まあ良い息抜きになったからいいんだけどね。作品も面白かったし」
「そう言ってもらえると助かります」
「迷彩マントも、防具同様問題なく展開できたことだし、いいサンプルになったよ。ありがとね」
「それは、良かったです」
技術開発局の発展が職員の生存率向上に繋がるとなれば、俺も協力は惜しまない。
それが例え、自分の目的に利用する為であっても、それを隠し上手くやっていく。
持ちつ持たれつな関係を築いていこうと思う。
「そういえば”アレ“…の試験日までもうすぐですね」
「ああ、アレね。そうだね」
俺は部屋の隅に置いてあるマネキンのような物を指さして話を振る。
室内でひと際存在感を放つその白い人型にこれまで触れてこなかったのは、知っているから。聞かなかったのは、アレが現在ここで開発中の“自動人形”であることを、すでに聞いていたからに他ならない。
「人間のように動き回る人形…俺からしたらファンタジー感すごいですね。能力使っておいてなんですが」
「あはは。と言っても、まだ簡単な動きしかできないんだけどね。せいぜい射撃訓練の的が関の山だよ」
「ということは次の試験も…?」
「ああ。射撃訓練に使ってもらうつもりだよ」
初見のような態度で聞いているが、これも知っていた。
このプロジェクトに噛んでいる駒込さんから直接聞いていたからだ。
そして、試験が中断しかけていることもな。
「でもねぇ、訓練に出てもらう予定だったチームが急きょ別の任務に駆り出されることになっちゃってね。困ってたとこなんだよ」
ほら来た。
だがここで『待ってました』という態度はマズイので、俺はあくまで”たまたま“ツテがあった風を装う。
「あー…大変ですね。色々と忙しいですもんね、みなさん」
「そうなんだよぉ。まあ、コレの訓練はいつでもできるから、いいんだけどさ」
人形の後頭部をポンポンと叩く博士。
まだ動力源のないその人形からは当然ながら反応はない。
「…もしよければ、試験に参加できそうな職員を紹介しましょうか?」
「え、いるの?」
「確定ではないですが、四十万さん派閥の方にお願いしようかなと…」
今回も協力関係にある四十万さんなら、その日に融通の効く職員を数人見繕うくらいワケないだろう。
俺はこの自動人形の試験が無事に執り行われるよう、話を進めた。
「じゃあ、人員が見つかりそうなら連絡しますね」
「はーい」
故障した部材を修理し終え、自動人形の試験の話をつけた俺は技術開発局をあとにすることに。
時間はちょうどお昼時。腹もいい感じに減っていたので、一度自室に戻り装備を脱いで食堂に向かうことにした。
「今の気分は…カレーだな」
先程志津香との別れ際にカレーという単語を聞いたせいで、頭の中はカレーで染まっていた。
夕飯はカレーというのは冗談だろうから、午後の訓練に向けて目一杯食べることにする。
カツカレーに、温玉とチーズなんかトッピングしようかな…
まだオーダーもしていないマイスペシャルカレーに思いを馳せながら、俺は自室へと向かう階段をゆっくりと登り始めたのだった。
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