第328話 技術開発局 局長
「12時前かぁ…」
伊坂と別れ端末で時間を確認すると、午後の訓練開始まではそれなりに余裕があった。
かと言って、昼ご飯を食べるにもまだ早いという状態。
腹は、減っていない事もないが。ベストな旨さで味わえない…そんな帯に短しな時間だった。
「…今行っておくか」
少し考えた結果、俺はとある場所へと足を運ぶことにした。
今日か明日のどちらかで必ず訪ねようと思っていた場所だ。
そこでは日々、特対職員が使う様々な便利アイテムや武器が生み出されている。人々の平和を守るのになくてはならないと言っても過言ではない、超重要な施設。
そう、特対の”技術開発局“だ。
予定を決めた俺は、早速目的の場所がある階へと向かうことにした。
「どーもー。塚田です」
技術開発局と書かれたプレートがある部屋の前。
入り口のすぐ横にあるインターホンを押してから名乗ると、少しして男性の返事が聞こえ扉が開き始めた。
今回ざっくりとしたアポしか取っていなかったが、都合が合ったみたいで良かったよ。
「しかしスゲェ扉だな…相変わらず」
訪れた回数は多くないので、未だに圧倒される。
多くの貴重な機材やアイテムが置いてあるこの部屋は、セキュリティの厳重な特対本部の中でもひときわ強固に守られていた。
目の前では重苦しい金属製の自動扉がゆっくりとスライドし、訪問者である俺を招き入れる準備をしている。
開いたことで確認できる扉の厚さが、この部屋の重要度と守りの硬さを物語っていたのだった。
よく画像で見るスイス銀行の金庫の扉。その横開き版みたいな感じ…というのがしっくり来る。
「やぁやぁ、塚田くん」
扉が完全に開くと、白い口ひげが特徴的な恰幅の良い男性が俺を出迎えてくれる。
この人こそ、技術開発局 局長の【阿佐ヶ谷(あさがや)】博士その人であった。
眼鏡をかけ白衣に身を包んだ彼は、ベタなイメージの博士という役職(?)に相応しい出で立ちと言えよう。
「よく来たねぇ。今回も直してほしい部材が沢山あるんだよぉ」
「この短期間でそんなに増えたんですね」
「いやぁ、やっぱり能力者が増えたからかなぁ…。消耗がね―――」
「あー…確かにそれは―――」
買い物帰りの主婦のように、入口で立ち話をする俺たち。
他愛もない世間話。最近の世の中の様子に対しての感想やら意見やらをお互いに語る事数分。
博士の方から『立ち話もなんだから、どうぞ』と、入室の許可が下りた。
こんな分厚い扉開けっぱで立ち話なんて、セキュリティよ…って感じだしな。
そこに透明化した敵が…なんて。各種センサーがあるから大丈夫らしいが。
「ささ、入って入って」
「失礼します」
他の職員がパソコンやら謎の装置とにらめっこしている研究室然とした場所を通り過ぎると、俺は局長室へと通される。
中にはパソコンが3台と謎の装置の置かれたデスク。
分厚いファイルや文献が収納されているキャビネットに、発明品が雑多に置かれた作業台。何度か見た光景である。
そして、作業台の横に積まれた段ボールが、今回の俺のノルマかな。
「あの段ボールの中身を直せばいいですか?」
「うん。4箱あるんだけど、頼むね」
片方の手を顔の前に持ってくる阿佐ヶ谷博士。そして軽く申し訳無さそうに、拝むようにして俺に道具の修理を依頼してきたのだった。
道具の修理。
これこそが、俺と阿佐ヶ谷博士が知り合うキッカケになった要素である。
8月の嘱託期間のあと、打倒ネクロマンサーに向けヒートアップする特対に手を貸すため、俺は何度か本部へと足を運んでいた。
収容所の中にいるハガキ男の泉気を復活させたり、本部治療室にいた怪我人を治したり、その他諸々…
そんな中で人だけでなく物質も直せるという俺の能力に着目した鬼島さんから、色々と貴重な資材を消耗している開発局に手を貸してほしいと頼まれ、それを受けることになった。
そして責任者である博士と知り合うことに。
俺は数々の発明品に童心に帰ったように心躍らせ、また博士は俺の規格外の治療術に関心を寄せ、意気投合するのにあまり時間はかからなかった。
前回、殺し屋から逃れるために特対に身を寄せたときも技術開発局に立ち寄り、『ある情報の取得と、あるお願いを取り付けた』のである。
「そういえば塚田くん、“例のモノ”、できたよ」
「おお、本当ですか」
先程から俺は、段ボール箱に入れられた壊れた部品を直して別の段ボール箱に入れるという作業をしていた。今となってはやり慣れた仕事だ。
そして、直しては箱に入れ直しては箱に入れを繰り返している時に、阿佐ヶ谷博士から話しかけられた。
例のモノ…俺が博士に頼んだ超個人的なお願いの完了を伝えてくれたのだ。
「はい、コレ」
博士が手に持っていたものを作業台に置くと、ゴトっという重厚感のある音が聞こえてきた。
重さ自体はそれほどでもない。だが、『おもちゃには出せない音』という意味で重厚感たっぷりに聞こえた気がした。
一見すると、腰に巻くベルト…に何やら装飾が付いているモノ。
しかし見る人が見ればすぐに『ある特撮作品に出てくるアイテム』であることが分かるデザインになっていた。
「…これ、試してみてもいいですか?」
「勿論だよぉ。作業は中断して、やって見せてよ」
「ありがとうございます」
ちょうど1箱分の最後の部品を直したところで、俺はそのアイテムのところへと駆け寄った。身に付けていたベスト等の装備品は外して、シャツとズボンというシンプルなスタイルに。
年甲斐もなくテンションが上がっているのが分かる。
なにせ、本物の”変身ベルト“なのだから…。
「……いいですね、この重さ。それにデザインも、本物そっくりですよ(実物を見たことはないが)」
「細部までこだわってるからねぇ」
腰に装着し、ベルトの手触りを確かめてみる。
プラスチックではなく金属の感触が俺のテンションをさらに高めた。
ベルト前面にあるパーツを指でなぞってみる。
大きめのメダルが入るスロットが横に等間隔に3つ並んで設置されており、他にスイッチや押しボタンなどは一切付いていない。
元々シンプルなデザインをしている上に、電動のおもちゃではないことがこの洗練されたスタイルを際立てていた。
「はい、これも」
「………いいですね」
追加で博士から手渡されたのは3枚のメダルだった。
受け取ると、手の上でメダルがぶつかり合いチャリっという音を奏でた。
これもプラスチックでは出せない質感・重さを出しており、思わず笑みがこぼれてしまう。
しかもちゃんと赤・黄・緑にそれぞれ着色されており、原作再現となっていた。
「じゃあ、いきますね…」
「はいはい」
俺が開始を宣言すると、博士が部屋の少し離れた位置に向かう。
それを機に、俺は手に持ったメダルの内、右手に赤色のメダルを。左手に緑色のメダルを持った。
そして、ベルトのスロットの右端と左端にセットする。
最後に右手で黄色のメダルを持ち真ん中のスロットに差し込むと同時に、スロット部分のパーツを斜めに傾けた。
「…こっちも、よくできていますね…」
「でしょ?」
メダルを装着し終えた俺は右腰部に付いている、丸い穴の開いていないドーナツくらいの大きさの"スキャナー"と呼ばれるパーツを手に持った。
スキャナーのくぼみに指を入れると、『キュイーン…キュイーン…』と規則的な待機音が鳴りはじめる。
そして、とうとうその時は訪れた。
「変身…!」
_________
あとがき
いつも見てくださりありがとうございます。
また、先日新しい読者様からギフトをいただき、大変感謝でございます。
引き続きお付き合いいただければと思います。
ただ、サポーターの方向けのコンテンツというのはほとんどなく、過去に何作品かショートストーリーを書いている程度…という状態になっております。
なので、折角のお金をギフトに使うのではなく、何か美味しいものでも食べる足しにしてください…というのも毎回言っております(笑)
それでもご支持してくださっている方には、いつも励まされておりますm(__)m
あまり更新頻度は高くないですが、引き続きよろしくお願い致します。
それでは
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