第323話 技能
ノピている火実の右足を掴み、引きずりながら駒込さんたちのいる場所へと移動する。
そして雑に火実を放ると、次の”生徒“を指名した。
塚田先生が矯正する幸運な生徒の名を。
「じゃ次、瀑布川な」
「は…?」
俺に呼ばれた瀑布川は指名された意味が分からず目を大きく開いてこちらを見た。
自分が呼ばれるなんて夢にも思わなかったのだろう。不意打ちにより、鳩が豆鉄砲食らったような顔をしているのが少し面白い。
しかしそんな表情も即立て直し、無機質な顔で俺に対応する。
「意味がわかりません。どうして私がアナタと闘わなければならないんですか?」
「意味が必要か?」
「当たり前でしょう」
バカなことを言う俺に呆れている様子だ。
勿論俺の方に意味はある。
コイツも火実と一緒で、駒込さんの言うことをまともに聞かない問題児だからだ。
どんな立派な能力かは知る由もないが、足並みを揃えないヤツは邪魔になる。話を聞く耳があるなら投薬治療も良しだが、無理ならさっさと切除しないと後々面倒なことになるだろう。
それにある先生も『精神的に向上心のない者はばかだ』と言っているしな。
駒込さんと俺のために、消えないでくれよ?
「キミ、班長の言うことを余り聞かないらしいじゃないか」
「ちゃんと訓練はしているからいいでしょう」
「自分より下の相手の言うことは聞けないか?」
「…………まあ、そうかもしれないですね」
多少濁したが、ハッキリと意思を口にする瀑布川。
そして見立て通りのヤツだったな。
弱い相手の言うことを聞かないんじゃなく、基本自分が正しくて周りが間違っていると思っているタイプだコイツは。
そして自分のミスを指摘されてもちゃんとは聞き入れず、他の要因のせいにして反省しない。反省もしないから成長もしない。
よっぽど尊敬する相手でもない限り話を聞くことはないだろう。
故に、矯正。同じ班員として共生するには矯正強制今日せい…ってな。うるせえか。
「キミのポリシーは結構なことだが、勘違いは訂正してやらんと、と思ってな」
「勘違い? 別にしてませんが」
「しているさ。キミはこの中で一番弱い」
「…………は?」
能力も実力も知らんが、そう断言してみると目を大きく見開く瀑布川。
俺はさらに畳み掛けることに。
「この中で一番弱いヤツが一番偉いと思っていることに耐えられんからな俺は。だからシバく。さっさと準備しろ」
「戦ってもいないのによくもそんなことが言えますね。私は弱くありません」
「それはこれから証明しなよ」
「時間の無駄ですね」
俺の煽りにこめかみがピクついたものの、少しクールダウンし戦いを回避する流れに戻ろうとする。
まあ、そうはさせないが。
「怖いか?」
「はぁ?」
「ヒーラーの俺に負けて、『戦えば本当は強いんだぞ』って火実と周りにしてたアピールが無意味になるのが、怖いか?」
「…!」
おー、ピキッてるピキッてる。
「まあ、そこの雑魚(火実)をすぐ始末しない程度じゃ、たかが知れてるか。ごめん、やっぱ戦いの件は忘れてくれ。もう吹っ掛けないから、またアピールに勤しんでくれ」
「………………はぁ」
とんでもない溜め息だ。
ドス黒いブレスが見えた…ような気がした。
「そこまで言うならいいですよ。やりますよ。ここまで言われて黙っているのは“冷静”ではなく”腰抜け“です」
「キミは違うってのか?」
「当然です。ところで井の中の蛙って言葉をご存知ですか?」
「知っているさ」
「あなたの事です」「キミのことだろ?」
見事にハモる俺たち。
そして無事に戦う流れへと持っていくことができて安心する。
火実とバチってたのはポーズではなく本当に血の気が多いからのようだ。
「まあ、いいや。じゃあさっさとやろうぜ」
「吠え面かかせてあげますよ」
そういうと、先程まで俺と火実がやりあっていた場所へと歩き出す瀑布川。
だがそれに続こうと俺も歩き出したところで、意外な人物が声をかけてきた。
「腰の治療費代わりにひとつアドバイス」
「皆川さん」
声をかけてきたのは、ずっと見物していた元消防官の皆川だった。
俺に瀑布川の能力の内容を教えるために呼び止めたようだ。
「彼女の能力だけど、塚田くんは聞いてる?」
「いいえ。全く」
「…よくそれであれだけ吹っ掛けられるね。ま、いいか。彼女の能力はね―――」
_______________
「遅いですよ。逃げるのかと思いました」
やると決めた彼女は、今度はここぞとばかりに俺を煽ってくる。
先程の俺の動きを見てなお、幾らか余裕がある様子だ。
「逃げないさ。理由がない」
「私に負けて恥をかくのが怖いでしょうに」
「はっ。言ってろ」
自信たっぷりな様子たが、皆川から能力を聞いた今、彼女が虚勢を張っているワケではないことを知っている。
恐らくヤツは…
「じゃあお望み通り、行きますよ」
「おう」
瀑布川は先程の戦闘で俺が投げた石を足元から拾うと、こちらに向けて投げてきたのである。
そして正確に顔面へと向けて放たれた石をすんでのところで躱すと、既に高速で懐へと潜り込んできていた瀑布川の拳が俺目がけて繰り出された。
「おっと…」
手のひらで拳を受けた俺は、その勢いを利用して距離を取る。
そしてしっかりと構えを取ると、正面にいる瀑布川も“同じ構え”を取ったのだった。
皆川の説明の通りだな…。
『彼女の能力はね、他人の
先程のやり取りで、どうやら俺の体術は模倣されてしまったらしい。
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