第320話 険悪な顔合わせ

「さて、全員そろいましたね」

「…」×4


 俺の隣りにいる駒込さんが自身の班員に集合確認をするも、返事は返ってこない。

 ダルそうにする男に、目を閉じどこ吹く風と言った様子の女。顔色をうかがい声を発さない…発せない女に、柔和な笑みでナチュラルに無反応な中年。

 チームワークは抜群だな。


 そして駒込さんも、大して気にした様子もなく話を続けている。

 普通はビシッと注意すべきところを、上からの指示で『お客様を刺激しないよう』穏便に済ませていた。

 だからビシッとするのは、戦力が欲しくて、外部の人間である俺の役目だ。


「今日は班員同士の能力を知り、連携を深めるためにこの”第27訓練場“を押さえました。特に塚田さんには、皆さんの能力を実際に見ていただきたく思います」

「お願いします」


 駒込さんの説明に会釈を交え返事をする俺。

 昨日の段階で、他の班員の能力をいずれ説明すると言われていたが、まさか“こんな島”で行われるとは思わなかった。


 27訓練場…その名の通り、特対にある27番目の訓練場。

 しかし特対本部の敷地内にあるわけではなく、転送装置を使って移動する”人よけの結界が張られた無人島“が訓練場として使われているのだ。ちなみにここは長崎県にある特対保有の無人島を改造して作ったのだとか。


 能力を使った訓練を本部の中だけで行うのは不可能なので、職員はこうして全国各地にある島や廃墟を“訓練場化”させた場所に行き腕を磨く。

 ここならある程度強い能力が“制御できなくても”被害を最小限に抑えることが可能だ。

 加えて実力判定テストが控えているインターン生にとっては、敵チームに能力が知られることなく訓練できるというのも大きな利点となっている。

 武道場みたいなオープンスペースで使えば、いつどこで誰に見られているか分からないからな。(ちなみに武道場は能力使用禁止)


「まずは、塚田さんの能力をみんなに見てもらいましょうか。いいですね? 塚田さん」

「勿論です」


 駒込さんからの提案を呑む俺。事前の打ち合わせどおりである。

 まずは皆に認めてもらうため、自ら能力の程度を晒すという筋書き。もちろん治す相手も決めてある。

 俺の腕をちょん切ってくっつけても良いが、グロいし、それよりかは“体験させる”のが良いだろうと話し合って決めたのだ。


「皆川さん、少しいいですか?」

「ん? 僕かい?」


 俺が指名したのは、元消防官のヘルニア親父 皆川みなかわ 明宏あきひろだ。

 彼の腰痛を治し、俺の能力がどんなもんかをまずわからせる。そしてそこから徐々に横へと浸透させる…というスプレッド作戦だった。

 ただまあ、コイツらは普通のチームと違い横の繋がりが希薄すぎてあまり効果が期待できないのが難点だが。


「どうすればいいの?」


 俺の近くへとやってきた皆川が問いかけてくる。

 一応、素直に言うことを聞いてくれるようで助かった。


「手を貸してもらえますか? 触れることが能力発動の条件なので」

「男とスキンシップする趣味はないんだけどなぁ」

「気が合いますね」


 肩をすくめながらも手を差し出す皆川。お互いの意思も確認できて観念したようだな。

 つか治してやるんだからさっさとしろよ、とは言わないが中々めんどくさいな、コイツも。


「いきますよ」

「はいはい」


 手を握って能力を発動させると、腰部にダメージを発見する。

 これのせいで、平時でも無視できないくらいのそこそこの痛みが常に付きまとうというわけだ。

 まあしかし、このダメージを消してやるだけで良くなるんなら簡単なハズだが…


 俺は腰部のダメージをゼロにし皆川の手を離した。

 そして


「治療は完了しました。痛みはありますか?」

「お…?」


 最初は腰を庇いながら恐る恐る上半身を回す皆川。

 しかし痛みが一向にやってこないと見ると、激しめに屈伸や前屈なども交えてストレッチをし始めた。

 最後にその場でのモモ上げダッシュを終えると、ピタッと止まりこちらを見る。


「本当に痛みが消えてる…」

「それはよかった。おそらく、完治したと思いますよ」

「いやぁ、大したもんだね…!」


 興奮する男。相当腰痛がネックだったようだ。

 もう一人の男(火実ひみ)は目線を皆川に送りつつも、相変わらずの仏頂面。

 そしてよく分からない表情をしている瀑布川たきがわと、才洲は…何でそんな表情をしているんだ…?

 俺が才洲の浮かべている『焦ったような、困っているような』表情に疑問を浮かべていると、駒込さんが場を進行し始めた。


「これで塚田さんの能力のほどは分かっていただけたかと思います。彼には明後日の能力判定演習に治療担当として参加してもらいますので、当日や前日までに体の不調があるようでしたら遠慮なく申し出てください」


 駒込さんの話にうんうんと頷く皆川。どうやら治療の効果は俺にもばつぐんだったようだな。あとは他の三人との距離だ…

 それと当日まで詳細が明かされない"能力判定"の件も気になる。

 小出しにされている情報から『チームで臨む事』や『単純な勝ち抜き戦ではない事』は推察できるが、果たしてどんなことをやらされるのやら。


 駒込さん本人は否定しているが、この結果は彼の査定にも響くだろう。

 無理を言って協力してもらった手前、なんとかこのやる気なし部隊を矯正し良い成績を残させないといけない。



「ま、そんな治療、俺には必要ねーな」


 俺が自分のミッションを再確認していると、火実がそんなイキリ発言をしたのだった。


「火実さん…」


 俺以外の四人はいつものことと言わんばかりに呆れたような表情を浮かべている。

 しかし俺はこのチャンスを逃さないよう、動き出すことにした。


「いや、きっと役に立つと思うよ」

「あ…? いらねーって。そもそも怪我しねーし」

「いやいや、油断していたらあっという間にリタイアだよ?」

「やけに絡んでくるなオイ…」


 俺がしつこく食い下がる事で、段々とイライラを募らせて来る火実。

 そりゃ『お前は怪我をする』と言っているのと同義だもんな。ウザいわな。


「俺はなぁ…無敵なンだよ…!」

「っ―――これは…」


 威勢を張りながら俺に近付くと、火実は肩に触れる。すると次の瞬間、俺の体が動かなくなった。これは…動きを止める能力か?

 意識はしっかりある。痛みは無い。

 単純な金縛りかと思ったが、手先は動く。一体何を止められた…?


「火実さん!」

「おーっと、怒らないでくださいよ駒込さん。俺は治療なんていらねーってのを教えただけでしょ。ホラ解除した」


 軽く怒っている駒込さんをたしなめると、火実は軽く手を上げた。すると先程までガチガチに動かなかった俺の身体が、まるで縛られていた紐が切れたかのように急に開放され動くようになった。

 止められたのは…服か。


「俺の【遅刻魔スロウスターター】は無敵なんすよ。分かったら俺は戻りますね」

「あっ、ちょっと」


 自分に訓練など必要ないと、島を後にしようとする火実。行きに使ったゲートのある場所へと歩き出す。

 そしてそれを止めようとする駒込さんだったが…


「いやぁ、大したもんだ。確かに強力な能力だ」


 そんな二人に、俺は大げさに感想を述べた。白々しいくらいの大声で。

 そしてそんな評価に気を良くした火実は足を止めこちらに向いた。

 計画通りだ。


「アンタは駒込さんと違って物分かりが良いな。どうだい? 全然動けなかったろ?」

「ああ、あの一幕だけでとても強力な能力だと実感したよ」

「ならアンタからも俺に訓練なんて必要ないって―――」

「本当に勿体ないな、術者がこんなゴミで」

「―――は?」


 俺は大絶賛した。彼の能力を。

 俺は大痛罵つうばした。彼自身を。

 すると柄の悪い顔、特に眉間にすごいシワが寄る瞬間を見ることが出来た。


「今なんつった、アンタ…」

「いくら能力が優れていても術者がカスだと戦力にならないどころか、むしろマイナスだからそのまま帰れって言ったんだよ」

「……おもしれぇこと言うじゃねえかテメエ…」

「そういうお前はつまらない事しか言わないな。早く帰って地元でイキってろよ。ケロケロってな」

「上等だコラァ!!!!!!!!!」


 俺の罵りについに怒りが限界に来たらしく、島には彼の大声が響き渡った。


「そんなに言うならボコってやるよ。こっち来い」

「さっきみたいな不意打ちじゃなきゃ無理だろ」

「テメ…」


 面白いように乗ってくれる火実が少し好きになって来た。

 まあ、これから矯正わからせするんだけど。














_________




あとがき(というか愚痴)


決算が始まり、帰宅がテッペンを超えてばかりで疲れました…

癒しは日曜に見る薬屋のひとりごととシャングリラ。フロンティアと16びットセンセーションのアニメくらいなもんですよ。

ボスケテ…


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