第313話 A なごみルート 『デートとナイフ』

「今なんて書いたかわかる? たっくん」

「……………メシ?」

「ぶっぶー。正解はぁ…スキでした♪」

「あちゃー…」


 現在、絶賛授業中。

 にも関わらず、後ろの席のなごみは教師の話を聞かずに俺の背中に愛を綴っていた。

 一応“気持ち”声を小さめに、俺に回答を求め、そして答え合わせをする。


「えへへ♪」


 なごみは先日の告白以来、ずっとこんな感じでとろけている。もう表情筋も声もフニャフニャだ。

『え?! この水炊きの骨付き鶏、骨まで食べれるんですか?!』ってくらい、煮込まれて柔らかい。それくらいデレデレだった。


 実は俺の『付き合ってくれ』は”買い物に“という意味で、勘違いしたなごみをからかい意識させるつもりだったのだ。

 ところがネタバラシの直前に白黒ギャルズに捕まり、耳元で


『おめー、余計な駆け引きすんな』

『もうベタ惚れだろが。分かれよ』


 と凄まれてしまい、その直後になごみに『今の、本当…?』と確認され首を縦に振ってしまった。

 こうして一組のカップルが成立したというワケだ。まあ結果はオーライなのだが。


 その後連絡先を交換し、お互い呼び名を『たっくん』『なーちゃん』に決め、交際がスタート。

 今や恋愛強者の面影はどこへやら。いつでもどこでもデレデレななごみが誕生した。


「じゃあー…第2問ね」

「授業中なんですけどォ?!」


 教師がキレるまでやるなごみだった。



「はい、あーん」

「あー…んむ」

「美味しい?」

「美味しいよ」

「良かった。たっくんの口にあって」


 そりゃ合うよ。購買のありふれたウインナードッグだもん。

 毎日多くの生徒が食べており、それがずっと繰り返されてきている。

 それは現実世界でも大差ない。


 しかし人の…恋人の手から食うとまた一味違うのも確かだ。

 まさかこの歳でこんな事をする羽目になるとは思いもしなかった。

 なんというか、青春をリプレイしているような気分だ。

 気持ち次第でこんな楽しい人生もありえたのかもしれないと、そう思う。

 当時は、覇気とかエネルギーが無かったからな。家の事とかで、なるべく目立たないように振る舞っていた。

 勿体ない事をしたなと思う。


「なあ、塚田…」


 なごみと飯を食べていると、隣の席でひとり食べていたバスケ部の生徒が話しかけてくる。

 心なしかゲッソリしている。体調でも悪いのだろうか?

 しかしそのゲッソリの理由もすぐ判明するのだった。


「どうした? 元気ないな」

「俺さ…カレーパンを食ってるはずなのに、口の中が甘くてしょうがないんだ。どうしてかなぁ…?」


 俺等の甘ったるいやり取りのせいだと、彼は伝えてきている。

 確かにこんなのが近くにいたら鬱陶しいことこの上ないよな。スマン…。

 しかしおいそれと中断できない俺は、適当に誤魔化すことに…。


「それはおかしいな。不良品なんじゃないか? そのカレーパン…」

「そうかな…?」

「そうだよ」

「そうかぁ…」


 そういうと彼は再び前に向き、甘ったるいカレーパンを食し始める。

 スマン。今は耐えてくれ。


「ねえ」

「ん?」


 心の中で生徒に詫びていると、今度は目の前のなごみに声をかけられる。

 しかも、そのなごみはとんでもないことを言い出すのだった。


「彼女を前に浮気なんて、ひどいよ」

「浮気ぃ?」


 まさかの、俺に浮気の容疑がかけられていた。


「浮気って…俺がいつそんな事をしたんだよ?」

「だって今、私以外の生物と楽しそうに会話してたじゃない…」

「えぇ…」


 浮気のハードルひっっっっく!

 普通に歩いていても躓かないレベルのハードルだぞ、その条件は。すぐ達成しちまう。

 つか生物って、俺の守備範囲どうなってんだ。


 だがここで突っ込んでも、彼女が激昂するか落ち込むだけだろう。

 冷静に…


「………確かにさっきのは俺が悪かったな。ごめん」

「…うん。分かってくれればいいよ」

「だが残念だな」

「残念…?」


 俺の言葉に首を傾げるなごみ。

 何がどう残念なのか理解していないようだ。

 まあ俺も思いつきで適当に話すから分かるわけはないのだが。


「今後なーちゃんの家族や、大切な友人とも話が出来ないのは、非常に寂しいなと思ってな」

「いや、それは…」

「誰とも触れ合わずに生計を立てる手段も確保しなくちゃな。相談もできないから、インターネットで探さなくちゃ」

「う…」

「いや、なーちゃんは我慢しなくていいよ。寂しい思いはさせたくないからね。なーに、俺がその分頑張れば良いだけさ」

「…」


 だいぶ芝居がかった言い回しとなってしまったが、言いたいことは言った。

 要は、相手に我慢を強いるような縛りは歪だということだ。

 それでもいいというのなら、それは自己愛の変形に違いないが、なごみはどうかな?


「ごめんね」

「何が?」

「私以外と話さないなんて、無理だよね」


 理解のある子で良かったよ。


「でも、たっくんが他の女子と話しているところを見ると、居ても立っても居られなくて…。こんなこと初めてで、どうすればいいか分からないの」


 俯きそう話すなごみ。

 俺の手の上に乗せた彼女の白く美しい手が、不安を表すように震えている。自分でも抑えられないのか。

 さて…


「…一緒だな、俺たち」

「一緒…?」

「俺もなーちゃんが歩いて、喋って、微笑んでいるだけで、不安になるんだ。『ああ、俺だけのなーちゃんの魅力に、皆が気付いちゃう』ってね」

「たっくんも?」


 歯が浮きそう…

 それに俺の口の中は致死量の糖分で溢れている。

 だがコウリャクのためだ。我慢我慢。


「でも同時に、もっと魅力を知ってほしいと思うんだ。こんなに素敵な人が、この世には存在するんだぞってさ」

「…えへへ」


 俺の褒め言葉に照れくさそうに、しかし満更でもなさそうに笑うなごみ。

 あとひと押しだ。


「それに、なーちゃんは他の人のところになんて行かないって信じてるし」

「…! それは私も―――」

「俺も、他の誰にも負けないようこれからも頑張るからさ」

「――――――――!」


 渾身のスマイルとともに、そんなキザで健気なセリフをひとつまみ。

 自らの恥ずかしさと引き換えに放った渾身の技だ。

 なごみは無言で俺の方を見つめている。笑うでも照れるでもなく、感情が無くなった? ように見えるがどういう状態だ?


 すると…


「! なーちゃん、鼻血出てる!」

「あれ…?」


 脳に無限の情報を送られたかの如く、なごみは数秒間停止した後鼻血を垂らし始めた。


「え、具合悪いの?」

「しゅきしゅぎてやばぃ………」

「…」


 このあと鼻血はすぐ止まったが、さらにベタベタしてくるようになったなごみ。

 俺たちはこのあともベタベタして過ごす事に…。


 ここでふと気になるのが、このルートの『ゴールはどこなのか』ということだ。

 なごみと恋仲になって、普通のギャルゲーであればここから紆余曲折を経てエンディングを迎える。

 ゲームによっては恋敵が現れたり、病にかかったり、すれ違いが起きたりと展開は様々だが。学園モノならこのあとはひたすらイチャイチャして終わるなんてことも…

 この世界もそんな感じなのか?


 ……………いや、そうは思えないな。

 ただでさえプレーヤー優位な世界観で、出るための条件がそんな易しいハズがない。

 警戒しないとな。














_______












「おまたせー。待った?」

「いや、今来たところだよ」


 土曜日。

 少し離れたところにある大きな駅。そこに併設されているペデストリアンデッキでなごみと合流した。

 合流というとちょっと固いか…。デートの待ち合わせが完了したと言うべきだな。


 先日俺は何か状況に進展があればと思い、なごみをデートに誘ってみた。

 すると彼女は二つ返事をしてくれ、早速近くの土曜日大きな街に出てきたというワケだ。

 一応スケジュールとしては、お昼ちょい前に集合しそのままランチ。そのあと軽く街をぶらついて映画を見る。

 映画の後にはショッピングをしつつディナーを満喫し終了…という運びだ。


 飲食店や買い物など、あまり大人過ぎるチョイスをしないよう気をつけないとな。


「じゃあ早速行こっか♪」

「おう」


 こちらでははじめて見るなごみの私服姿。

 年齢にしては非常に大人っぽい、落ち着いたコーディネート。しかしとても似合っている。

 こんな可愛らしい彼女を持てて、俺はかなりの果報者ではないだろうか。


「…いいよね、これくらい。彼女なんだから」

「もちろん」


 歩き出そうとした俺の右腕になごみがそっと自分の腕を絡めてくる。

 恥ずかしそうにしながら、少し控えめに俺に許可を求めてきた。

 断るハズもなく、俺も彼女が組みやすいように腕の位置を変えてみると、パッと嬉しそうに笑顔になり全身を預けてくるのだった。


「これじゃ歩きにくいって」

「いーの。その方が長く楽しめるでしょ!」


 歩く時間が増えるだけで過ごす時間は変わらない…などと野暮な事は言うまい。

 俺は右腕に可愛い彼女の重みを感じながら、目的の飲食店まで進もうとした。


 その時―――


「なんだぁ…見たことあると思ったら、お前らかよ」


 近づいてきた六人組のウチの一人が、俺たちを見てそう言葉を発した。なんだコイツは…

 男が四人に女が二人。年齢は全員俺たちと同じ位だろうか。

 その中心に位置する、目つきの悪い男がニヤニヤと俺たちを見ている。


「…あんたは」


 俺はこいつに見覚えがないのだが、なごみは男を見て表情が険しくなった。

 というか相手の態度も併せて、どうやらコイツは俺たちと因縁のある相手のようだ。

 ピンときていないのは以前の記憶が存在しない俺だけらしい。


「つか、やっぱりデキてたんだな、お前ら」

「…! ま、まだデキてないわよ。これからよ…!」

「はぁ?」


 俺だけ状況についていけないまま話が進む。

 よく観察してどういう間柄なのかを把握し、大きくズレ過ぎないように準備をしていると、男はこちらにも話を振ってきた。


「てかなにボーっとしてんだよオイ。俺はテメーへの恨みを忘れちゃいねーからな」


 あれ、俺恨まれてる。

 何をやらかしたんだ、以前の俺は…。

 …でもまあ、こんな態度のやつだから正しいのはこっちだろうな、うん。

 無理に合わせず堂々としていよう。


「俺なんかやったっけ? 忘れちまったよ」

「テメ…!」


 俺の言葉に青筋が浮かび始める男の顔。もう怒り心頭だ。

 俺の言葉も煽りだと取られているだろうな。

 いいけど。


「見た目は少し変わってるけど、ハシバって選手よ、全中テニスの…。ホラ、2年前に練習試合した時に私達と当たった」

「あー…」


 全然ピンときてないが、それっぽいリアクションをしておく。


「マジで忘れてたのかよコイツ。お前のせいで中学最後の試合出れなかったんだからな!」

「え…」

「それはそっちがラフプレーばかりしてるからでしょ! 自業自得じゃない!」

「え…」


 結局俺は悪いの? 悪くないの?

 どっちなんだい!


「…ま、今更中学の大会なんてどうでもいいがな。それより、随分と可愛くなったじゃねーか。女ぁ」

「あ」


 男はニヤニヤしながら俺を無視して隣りにいるなごみに手を伸ばしかける。

 それは通らないな。


「イデデデデデ…! 何だテメーゴラァ!」

「人の彼女に触ろうとしてんじゃねーよ」

「たっくん…」


 俺はなごみに触ろうと伸ばした男の右手を捻り、反対方向に向かせると後ろから語りかけた。

 男は右腕を極められ、痛さに悶えながらこちらに怒号を飛ばすというチンピラムーブをかましている。


「分かってんのかぁ!? 今の俺の右腕を壊すってことは、テニス界の未来を壊すってことだぞ! 2年前とはワケがちげえぞ!!」

「明日からサッカー界の未来を頼む」

「ハシバくん…!」


 ハシバの後ろにいた男のうちの一人がこちらに走ってくる。

 ガタイが良い。おそらくラグビーだかアメフトをやっていると見た。

 俺は向かってくるソイツにハシバを突き飛ばすと、なごみを少しだけ後ろへと下がらせて


「危ないから少し下がってて。でもあまり離れすぎず、俺の後ろにいて」

「う、うん…でも大丈夫?」

「ヘーキ。慣れてるから」


 笑顔とピースサインでなごみを安心させると、前に出て相手と向き合う。

 目の前にはハシバを受け止めて心配そうにする男と、右腕を押さえながら俺を睨みつけるハシバがいた。


「おい、コイツ殺せ」

「お、おう」

「お前らも! やれ」

「わ、分かった」


 ハシバの指示で他ニ人もこちらへと近づいてくる。

 それぞれ皆、違うスポーツや格闘技をやっているような体型をしていた。

 それと柄が悪そうだ。不良仲間かな。


「オラァ!」


 ラガー(仮称)が再び俺めがけてダッシュしてくる。もうハシバを捕まえていないから、今度は両手を広げ本気のタックル。

 あっという間に距離を詰められるも、俺はあえて動かずにいた。

 正面から受けて立つ姿勢だ。


「吹っ飛べぇ!」


 そう叫んだラガーだったが、すぐに素っ頓狂な声を上げる。


「あ、あれぇ?」

「どうした? 吹っ飛ばすんじゃないのか?」

「な…んで…!」


 ラガーの脱法タックルは俺に接触し完全に勢いが死んでしまった。

 その事に動揺している内に、俺に抱きつくようにして絡みつく男のボディに膝を叩き込む。


「がぁ…!」


 口から透明な液体を吐き出した男は腹を抱えて膝から崩れ落ちた。女の子座りのようにペタンと地面にへたり込むと、そのままアスファルトに頬ずりしたのだった。


「テメ…!」


 次に拳を張り上げながら別の男が迫ってくる。


「お前は何の未来を背負ってるんだ?」

「くっ…! この…ヤロ!」


 男がパンチを2発、3発と繰り出してきているが当たらない。すんでのところで躱しているからだ。

 鋭いパンチではあるが、俺が現実世界で相手してきた中にはもっと強いやつもいたし、なんなら師匠の見えない拳に何リットル鼻血を消費したか分からない。

 身体能力が落ちても、これくらい躱すのは昼飯前だ。


「なんで…! はぁ…当たらないんだ…よ…」


 少しすると肩で息をするようになる男。

 体力切れが早すぎる。練習不足か、あるいは隠れてタバコでもやっているな。

 経験者ゆえ素人には無双できても、同じ競技者には歯が立たないだろう。


「もっと基礎をやれよ…な!」

「オロロロロロ…」


 レバーに一発拳をいれると、マーライオンばりに派手に吐き、その海に顔からダイブした。

 水泳界の未来を担っていってくれ。


「おっと!」

「オロロロロロ!」


 コソコソ回り込んでなごみに近づこうとした男の脇腹に蹴りを叩き込むと、同じく吐いて倒れる。

 水のないところでこれほどの水遁を…。世が世なら里の長になれた逸材かもしれないな。



「汚いから離れようか」

「たっくん」


 改めてなごみを汚い水陣壁…もとい相手から離れた場所に移すと、ハシバの方を向く。


「さぁ、お友達はみんな倒れたぞ! まだやんのか!」


 残りはハシバと女が二人。

 女二人が格闘技のバリバリ強者ならまだしも、とてもそんなふうには見えない。

 ハシバ本人も格闘技未経験なら、さっさとお友達を片付けて帰って欲しいところだ。


「どうすんのよ…。アイツヤバいよ……」

「三人秒殺って、むりじゃん…」


 女はしっかり戦意喪失してくれている。

 このまま彼女らと一緒に降参してくれるか…?


「…う、うるせェー!」

「おぉ…」


 なんと男は胸ポケットから折りたたみ式ナイフを取り出すと、こちらに向けてかざしたのだった。


「ヤバいって…! それ犯罪じゃん…」

「付き合ってらんないよ、マジ」


 男の奇行を目の当たりにした女二人はそそくさと退散してしまう。

 そして残されたのは俺となごみとハシバの三人だけとなる。(気絶中のやつは除く)


「俺はなぁ、舐められるのが許せねえんだよ! テメエのその目が! 最高に気に食わねえ!!」

「それでナイフかよ。呆れるぜ」

「黙れ!」


 興奮で目が血走っている。もう言葉では止まりそうにないな。

 そんな男の危険性を感じ取ったなごみが俺の袖を控えめにつまんで話しかけてくる。


「ねえ、怖いよ…」

「大丈夫。すぐ終わらせてくるから」


 頭を撫でながらそう笑いかけると、なごみを少し離れさせハシバに近付く。


「いいのか? それを振ったらもう冗談じゃ済まないぞ?」

「いいから来いよ! それともビビって動けねえってか!?」

「そんなワケ無いだろう…」


 俺は待っていた。

 先程からの騒ぎを見て“走り出した名も知らぬ一般人”の帰還を。

 この場を収めるために必要な人物を。


「なら来いよ! あぁ!?」

「…! じゃあ遠慮なく」


 遠くに求めている人物を捉えた俺は、ハシバの挑発に乗り進みだした。


「オラァ!」

「おっと」


 遠慮なく刺突を繰り出すハシバ。その手を捌きながら立ち回る俺。

 もう一般人のカテゴリーには括ってやれないところまで精神がイッちまってるみたいだな。

 コイツに何があったか知らないが、このまま放流するワケにはいかない。


「クソがっ…! 当たれ!」

「無駄だって。そんな扱い方じゃ」


 突き、袈裟斬り、唐竹割り…

 名前だけはそんな分類ができるが、実際はただナイフを手に持ってブンブン振り回しているだけのハシバ。

 そんなヌルイ攻撃じゃ、毒でも塗ってなきゃ当たっても大したダメージにならない。


 最小限の動きで躱す俺に対し、ハシバは常に大振り。

 そうなると当然、徐々に体力は減っていき…やがて。


「ハァっ…ハァっ…ハァっ…!」

「はい、お疲れサン」


 膝に手をつき、かがんだ状態で必死に息を整えるハシバ。

 そしてようやくその時は訪れた。


「取り押さえろ!」

「はい!」


 清野と驟雨介、二人の警察官がハシバを取り押さえにかかる。

 ギャラリーの一人が呼んできてくれたのだ。まさかこの世界に二人がいるとは思わなかったが。


「なーちゃん、行くぞ!」

「え? え?」


 俺はその隙になごみの手を取り走り出した。

 当たり前だがなごみはワケが分からないといった様子だ。

 しかし構わず俺はこの場を離れるために走り続けたのだった。











 _______













「はぁ…はぁ…」

「ごめん、なーちゃん」


 先程の現場から離れたとろにあるコインパーキングでようやく一息つく俺たち。

 なごみは呼吸を整え、俺はそれが終わるのを少しだけ待つと話を切り出すことに。


「いやー、デートの邪魔をされたくないから、ついな」

「えぇ…」


 あまりに目茶苦茶な回答に呆れ顔のなごみだが、やがて吹き出して


「もう…。しょうがないわね。お昼ご飯のんびり食べてる時間が無くなっちゃったから、映画館でポップコーンでも食べよっか」


 と、すぐに切り替えてそんなことを話すのだった。


「だな」

「あとで何であんなに喧嘩慣れしているか、説明してよね」

「おう」

「ちょっと髪直してくるわね」

「ここで待ってるよ」


 ここに来るまでのダッシュで乱れてしまった身だしなみを整えに、近くの店に向かうなごみ。

 俺からするとほとんど変わらないように見えるが、そこは女子。常に百パーセントでいたいのかもな。



 彼女が離れて数分。

 近くにあった自販機のラインナップを見ていると、後ろに気配が。

 俺はなごみが戻ったのだと思い、振り返り声をかけようとした。


「お、なーちゃんおかえ―――」


 おかえり

 そんな短い言葉を、俺は言い切ることができなかった。

 その前に腹部に強烈な違和感が襲ってきたからだ。


「え―――? ごボッ!!!」


 鉄の匂いと味―――そして暗いアカ…

 腹には熱と痛みと、飛び出る鋭利なサバイバルナイフ。

 後ろから一突き。懐かしい感覚が俺を襲う。


「テ……メ………!」


 何とか振り向こうと首を動かすも、体から勢いよく抜かれたナイフで今度は両肩と両大腿部を次々と刺され、さっきのハシバの仲間のように地面に転がる羽目になった。


「痛…て…」


 もう体は動かせない。

 かろうじて口は動くが、だから何だと言ったレベルである。

 もう助からないことはとっくに頭で理解していた。

 この世界で死んだらどうなるんだろう。現実では、脳だけ死ぬのかな?


 そんな事を考えていると、遠くになごみの叫ぶ声が聞こえた。

 体を揺すっているから近くにいるハズなのに、声が遠くに聞こえるのは、もうヤバいな。

 声を出すだけの力もない。寒い。痛い。熱い。


 消えゆく意識の中、最後に俺が見たのは


 彼女の泣き顔だった











_________



いつも見てくださりありがとうございます。

久々の更新となってしまいました。


評価や、2週間くらい前にギフトもくださり、ありがとうございます。

お礼も出来ずにすみません。


あー、仕事が忙しくてメンドクサイ…

と、愚痴ってみたり。


石油王かなんかが間違って口座に3億円くらい振り込んできて

返そうとしたら『いいって!手数料かかっちゃうから!』とか

言って、私に全額くれないかな?

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