第310話 A なごみルート 『カラカイ』
一人目の攻略、の分岐
どちらから見てもOKです。どっちかだけ見ても話は分かりますよ。
仮想現実でやりたい放題です。(私が)
本当はもう1ルート考えていたのですが、手が回らず…いつかどこかで…
_________
「塚田くん」
物理の授業中。
バスケ参加者の中で唯一真面目に起きて授業を受けていた俺を、後ろから小声で呼ぶ生徒がいる。
窓際の後ろから2番目という”いかにもギャルゲ主人公“な席を獲得した俺の後ろ、つまり”いかにもギャルゲヒロイン“の席に座るのは、現実世界でも知っている人物。【風祭なごみ】だった、
「なんだよ、いま授業ちゅぶっ…」
「やったー♪」
振り向こうとした俺の頬になごみの人差し指がヒットする。
最近よくある授業中のいたずらの1つだ。
彼女はどういうワケか俺に対し、授業中…いや休み時間でもちょっかいをかけてくる。そして俺がちょっかいにかかると、彼女は大層愉快そうに笑うのだった。
特に凄いちょっかいが”背中文字当てゲーム“だ。
読んで字の如く、授業中に彼女がこっそり俺の背中に指で『スから始まる2文字の言葉』を書き、俺がそれを当てるという内容である。
『ねー、何て書いたでしょう?』
『“スキ”』
『ぶっぶー。正解はー…スシでしたー♪ 塚田くんってばナルシストー』
『わぁ…』
とまあ、こんなふうに男子生徒の純情を弄ぶのが日常茶飯事。罪作りな女の子だ。
周りよりもスカートを短くし、長めのショートボブと唇には控え目にリップグロス。オシャレでイケイケなクラスの中心的立ち位置を見事に確立しているなごみ。
彼女は現実世界でも女子力が高く、周囲の人間の恋愛やファッションの相談に乗ったりしていると聞く。
だからこの世界でも、恋愛強者として俺の前に現れたのだろう。
ならばこちらも立ち向かわねば無作法というもの…。最初にコウリャクするのは彼女にしようと思った。
無作法というのは建前で、彼女を落とす理由はちゃんとある。
まず距離の近さだ。
いくら仮想空間といえど、高等部2年の俺がいのりや紫緖梨さんに会いたくて何度も中等部に通うのは気が引けるし、周りから不審がられてしまうだろう。
そして同じ高等部の生徒でも学年が違えば、中等部よりは多少マシだがそれでも抵抗がある。
その点なごみと愛は学年で、なおかつ同じクラスだ。
"千人斬り"と"クラスのヒエラルキートップ"という障壁はあるものの、会うだけなら簡単である。
さらになごみは後ろの席。必然的に話す機会も他より多くなる。
…まあ予想よりも距離の詰め方がエグいが、計画に支障はない。彼女を落とし、俺は新世界の落とし神となる。
「いたずらすんなよ…」
「いやー、いつも引っかかるから面白くてつい」
小声でそんな事を言うなごみ。
授業中なので真後ろを向くことはできないが、笑顔なのは確認するまでもないだろう。
「…ったく」
一本取られた俺は後ろに集中していた意識を再び前に戻すことに。
教卓では物理教師が懐かしい単語を交えて授業を進めている。
そういえば物理とか化学って、その道に進まないと全然聞かない単語が多いよな…。モル濃度とか、あったなそんなのって感じだ。
クイズ番組でも国語や英語や歴史は題材として扱われるけど、科学とかあんま出ないしな。せいぜいメスシリンダーとか道具の名前を答えさせる問題くらいだな。
以前会社の飲み会で理系出身の人たちが"キムワイプ"とかいう単語で大盛り上がりしていたのを思い出す。
あん時は特定の人以外はポカーンとしていたな。専門性が高いのだろう、理系の方が。
「ねえ、塚田くん」
「ん?」
授業を聞きながら関係のないことまで考えが飛んでしまった俺の意識を、ひそひそ声のなごみが呼び戻す。
俺は正面を向きながら返事をすると、左側の耳の近くからなごみの声が聞こえてきた。
「さっきのバスケ、凄かったよ」
「見てたのか」
どうやら彼女もあのギャラリーの中にいたらしく、俺の活躍を称えてくれた。
しかし俺としては貢献できたのはたったの3点。傍から見たら光輝や黒瀬の方が断然目立っていた。
ここで自らを誇ってしまえば、きっとまたナルシストだの自意識過剰だのとからかわれることは必至。
そう、これはなごみとの恋愛頭脳戦。彼女を攻略するには、彼女のからかいを上回らなければならないのだ。
「うん。飲み物買いに行ったら人だかりができてたからねー。いやー、カッコよかったよ」
「ああ。皆凄いよな。バシバシ点入れてさ。俺なんてたったの3本だ」
「でも、点入れるだけが全てじゃないんじゃない?」
「だな。やっぱりバスケ部三人は動きの一つ一つが只者じゃ無かったよ。流石といったところだ」
主語のないなごみの言葉に、誘導する気満々なのが分かる。
少しでも自分のことのように受け取ればアウツだ。
そうは問屋がおろさないぜ。
「………少しは素直に受け取りなさいよ」
「え? なんだって?」
少しの沈黙の後、なごみが何かを呟いたようだがよく聞こえなかった。
元々授業中ということもあり耳元で話してくれないと聞き取れないレベルでの会話だったのだが、彼女が姿勢を正してしまったようで何を話したのか聞き逃す。
「何でも無いわよ」
再び耳元で聞こえたのは、つまらなそうな彼女の声。
きっと誘導が上手く行かずに悔しかったのだろう。その後は向こうから話しかけてくることはなかった。
とにかく、俺は今日からなごみ攻略へ向けて動き出すことに。
そしてさっさとこの仮想空間からオサラバだ。
_________
『ねえ、なごみんさ。塚田のことイジりすぎじゃない?』
『ほんとそれなー。好きすぎっしよ』
休み時間。
お手洗いから教室に戻ろうと廊下を歩いていると、俺の耳にそんな会話が入ってくる。
廊下の雑踏の中で普段は聞こえないような音量での話だったが、自分の名前が聞こえてきたのでたまたまキャッチしたのだろう。
黒ギャルと白ギャルの声だ。
黒ギャル・白ギャルとは、普段なごみと仲良くしている女生徒二人だ。
片方は日焼けして褐色なので黒ギャル。もう片方はベースメイク白めの金髪だから白ギャル。
どちらも俺の中でのあだ名である。
『だって塚田くんて、からかうと面白いんだもーん』
続けてなごみの声が聞こえた。いつもの仲良し三人組での会話のようだ。
白黒がなごみを茶化し、彼女がそれを否定している。
俺をまるで玩具のようにしていることが分かった。
自分の話題で盛り上がっているところ登場するのは若干気まずいが、休み時間も残り僅かだし遠慮するのもなんか癪なのでここは堂々と入ろう。
「お、噂をすれば塚田じゃーん」
俺の存在にいち早く気が付いた黒ギャルが触れてくる。白ギャルとなごみも存在に気が付きこちらを見てきた。
三人の女子から注目を浴びる俺だったが、構わずどんどんギャルたちの方へと歩みを進めていく。
何故なら
「やっほ、塚田くん♪」
なごみが俺の机の上に腰掛け、その周りにギャル二人が立っているという状況だったからだ。
自分の席に戻るには自ずとギャルたちの方へと進まざるを得ない。俺はやかましいのにイジられる覚悟でそちらへと進む。
少し進むと、なごみが『机の上に腰掛けている』という表現は少し違うことに気が付く。
彼女のお尻と、短いスカートから見えるFUTOMOMOの多くが俺の机の茶色い天板に接地しているではないか。
これはケツ付けていると言っていい状態だ。
わざわざ真後ろに自分の机がある状態で、白黒ギャルズを座らせるならともかく自らが座るという事は俺に対する挑戦で相違ない。
その挑戦、受けて立つ。
「何の噂をしてたのかは知らないけど、そこにいられると座れないんだけど?」
「塚田くんの為に温めといたんだよ、つ・く・え♪」
俺が近くまで行くと机からピョンと降りて自分の机へと戻るなごみ。
そんな温め方、藤吉郎が黙っちゃいないのだが…
要するにJKが今しがた座っていた机を使えるもんなら使ってみろ、ということだろう。白黒どももニヤニヤとこちらを見ている。
甘いんだよな、発想が。見てろ…。
「なんだ、温めといてくれたのか…。確かに春先とはいえ、時折冷えるもんな」
そんな適当な事を言いながら椅子を引き着席すると、俺は机に突っ伏した。
「なっ…!?」
「アララ…」
「やるわねぇ…」
三人の驚く声が聞こえる。ひときわ大きいリアクションは真後ろからだった。
寝ているので表情までは見えないが、カウンターを受けて悔しがって―――
「ちょっと…! 何してるのよ…!」
「うぉっ」
なごみに思い切り腕を引っ張られて起こされた。
頬が赤く、照れているように見える。
「どうした?」
「どうしたじゃないわよ! 人が座ってた場所に…寝て…なんて…」
「いや、温めといてくれたんなら寝なきゃだろ?」
「っっっっっっ!」
ゴニョゴニョと最後の方は聞こえなかったが、どうやら反撃は成功したようだ。
こうやってコミュニケーションを重ねて、彼女を意識させて、最終的には落とす。
覚悟しろよ…女子力の化身…!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます