第309話 中休みの遊び

「―――さん! 兄さん―――さい! 兄さん!」

「ん………………………」


 騒がしい声と体を揺すられる感覚で、徐々に意識が覚醒していく。

 重い瞼をゆっくりと開けると、朝日とともに制服姿の我が妹の姿が視界に入った。

 あれ、何で目覚ましより先に真里亜が…

 半分寝ぼけている頭でそんなことを考えていると、真里亜が勝ち誇った顔で俺に告げる。


「”賭け“は私の勝ちですね。仕方ないので今日から一緒に登校してあげます」

「………………っ!?」


 妹の言葉を聞いた俺はガバっと勢いよく起き上がり、ベッドから少し離れたところにある勉強机の上の目覚まし時計を見る。


「マジか…」


 3000円くらいのアラーム付き置き時計…の上部にあるボタンが押され半分くらい本体に沈んでいる。つまりアラームがオフになっていた。

 それほど音量は大きくないが、目を覚ますには十分な音だ。少なくともここ5日間は問題なく起きることが出来ていた。

 しかし6日目の今日、とうとう真里亜に起こされてしまった。電波時計だから突然狂ったりもしないし…(電波じゃなくてもそうだが)

 つまり自分でアラームを止め、真里亜との賭けに敗北してしまったというワケか。


「寝坊はするし口元はヨダレで汚して、ほんと手のかかる兄さんですね」


 呆れるように、しかしどこか嬉しそうにする真里亜の言葉通り、口の周りが濡れている。

 余程良い夢でも見ていたのだろうか。

 俺はそれを手で拭うと、改めて真里亜に向き直る。そして―――


「俺の負けみたいだ、真里亜」


 と敗北を宣言するのだった。


「では、下に朝食の準備ができていますので、早く着替えて降りてきてくださいね。あと、約束…くれぐれも忘れないように」

「…………………ああ」

「タメが長いです。三点リーダーはひとつまで」

「…ああ」

「よろしい。では」


 そう言うと真里亜は一足先に部屋を出ていく。

 一人残された俺はため息を吐きながら、制服に着替えることにしたのだった。


「まさか、もう…とはな」


 ワイシャツの袖に手を通しながら、改めて時計を見る。

 俺の目覚まし時計。その半分沈んだボタンを見て、まだ納得していない頭で考える。

 位置的には、五月蝿いからといってベッドから手を伸ばして届く距離には無い。

 つまり一度立ち上がり机の前まで行って止める必要がある。実際昨日まではそうだったからな。


 だが今日は止めた記憶すら無い。完全な形での寝坊だ。

 真里亜の妨害かとも考えたものの、流石にそんなことをするような子じゃないだろう。

 特にこっちの世界の真里亜は現実世界とは若干異なっていて、そこまでベタベタしてきていない。たかが一緒に登校するためにそんなことをするだろうか…?


「緊張が解けたか…?」


 ここ数日間は緊張しっぱなしだったから、つい緩んでしまったのかもしれない。

 この世界が一先ず俺に害するような場所ではないことが数日に渡る観察でそれとなく分かり、催眠系にかかってしまったという緊張状態から一気に緩和状態へと移行したことによる影響だ。


 まだ油断は全く出来ないが、そろそろ例の“コウリャク”とやらに取り掛かることにする。

 今のところ、ここから脱出する唯一の手掛かりがこれだからな。

 その辺りの調査も同時に進めていた。


 この何日間か、俺は普通に学校に通いながら校内や街の様々な場所を探検した。

 ギャルゲーでいうところの”出会いイベント“を求めて…。

 そしてやはり、イベント(のようなもの)は発生した。


 高等部図書室では物静かな下級生の竜胆志津香がおり、中等部には3年の南峯いのり、1年の紫緖梨さんがいた。

 さらに、篠田は体育教師、星野さんは養護教諭として学園に在職していたのである。

 なんか、二人の設定の方が年相応なんだが…申し訳ない気持ちが。ごめん、俺だけ若返って…。


「ほら、早く食べてください。遅刻しますよ」

「お、おお…」


 身支度を終えて席につき、食べながら勝手な罪悪感を抱いている俺に、真里亜からの催促が入る。

 なので一旦思考を止め、目の前の真里亜が用意してくれた朝食に集中することにした。

 今朝は和食。ご飯に味噌汁に納豆にほうれん草のおひたしに小さい焼き鮭の切り身というラインナップだ。


 男の一人暮らしの食卓と比べると、贅沢極まりない内容である。

 朝からこんな手間暇かけてもらうのは申し訳ないと真里亜に伝えたのだが、前日に大体仕込みは終わるので問題ないとのことだった。

 現実世界の俺であれば『朝からこんなに食べられないよ』と言うところだが、高校生俺の胃腸はとても丈夫で朝からこのラインナップでも最後まで美味しく食べられる。だからもう、素直に甘えまくることにした。


「…味噌汁、旨い」

「そうですか。良かったです」


 ズズッとすすると、赤出汁の香りが口いっぱいに広がる。

 丁寧に処理されたイチョウ切りの大根とワカメもGOOD…。本当に朝からこんな贅沢な食卓でよいのだろうかと思う。

 真里亜も、別になんてこと無いといった感じで澄ましているし。できた妹だ。


「………………」

「なにか…?」

「いや、別に」


 食事をしつつ真里亜の様子をうかがっていたら見抜かれてしまったので、俺は適当に流しつつ頭の中で考察する。

 ツンツンしている…とも違う、距離感のある態度。現実との大きな違いだ。


 ゲームじゃ妹キャラといえば攻略対象のド定番とも言える。

 しかも大体は義理の妹で、現実の俺と真里亜の関係性そのもののようなシチュエーションであることが多い。

 しかしここで気になる点が2つ生まれる。


 まず、この世界の真里亜は義理の妹なのか? ということだ。もしかしたらこっちでは本当の兄妹かもしれない。

 だがまさか本人に『お前は本当の妹か?』と聞くわけにもいかないしな…。変な行動で脱出不可になるのだけは避けたい。


 それともう1つは“攻略対象”というものがあるのかどうかだ。

 ゲームでは初めから恋愛関係になるキャラクターは決められており、それ以外はいわゆる”モブ“と呼ばれる存在で名前や顔や声が無かったりする。

 しかし当然だがこの世界では、現実で知り合いだった人以外にも見た目や声や名前がある(クラスメート全員なんて覚えていないが)


 果たしてそれらの人たちと恋仲になったとして、この催眠から抜け出せるのかどうか。それとも知り合いの子たちしか駄目なのか。

 その辺りの設定に確証が持てないでいるのだった。


「………まあ、考えていても仕方ないか」

「何がです?」

「いや、何でも無いよ」

「変な兄さん」


 小さく呟いた言葉に反応する真里亜。

 俺はそれを誤魔化し、密かに決意を固める。

 真里亜を口説いて脱出なんて初めから考えてないし、対象が誰かなんてやってみるしかないもんな。

 あーだこーだ考えず、まずは行動あるのみだ。














 _________
















「なぁなぁ、塚田」

「んー?」


 2限目と3限目の間の中休み。授業で使った教科書をしまい、次の授業まで校内を探検しようとしていたところ声をかけられる。

 相手は同じクラスの男子生徒だ。確かバスケ部だったかな。

 一体何の用だろう?


「実は中休みに軽く3on3やろうと思ったんだけど、相手が授業の準備で来れなくなっちまってさぁ。黒瀬と鷹森と三人で相手してくんない? 他校との練習試合も近くてさ」


 彼曰く、うちのクラスのバスケ部三人と別のクラスのバスケ部三人で休み時間に遊ぼうと思っていたのだが、相手が用事を頼まれてしまいキャンセルに。

 そこで同じクラスの俺たちに急きょ声をかけたのだという。


「光輝たちはなんて?」

「塚田がやるならやるって」

「へぇ」


 何故俺に委ねる…。いいけど。

 まあ大人になって気軽に球技ができる機会も無くなったので、俺は軽い気持ちでOKをすることにした。

 すると―――


「え、マジでいいの?」


 意外そうなリアクションをされたのだった。


「マジで…って、そのつもりで声かけたんだろ?」

「いや、省エネ主義の塚田からまさかOK貰えるとは思わなかったから。半ばダメ元、みたいな?」


 省エネ主義って…

 俺はあれか。前髪目隠れ無個性やる気無し男か。

 昔の主人公にありがちな設定と見た目だったんだな。

 そして、現実の俺の学生時代ともさほど離れていないパーソナリティだ。

 そりゃあバスケの誘いになんて応じようものなら驚かれるわな。


「たまには運動したいときもあるんだよ、俺も」

「そっか。なら良かった」


 ここからは、攻略のためにもアクティブにならないとな。

 斜に構えててやる気がなくて、なのに何故かモテる主人公はいないんよ。


「じゃあ早く行こうぜ。先に場所取ってもらってるからさ」

「おう」


 こうして、25分の中休みを使って3on3で遊ぶことになった。



「まあ、3on3にも本来は細かいルールが色々あるけど…そこまで細かくやると面倒くさくなるから、めちゃ簡易的にやるな」


 野外コートにて、うちのクラスのバスケ部の一人がドリブルをしながらおさらいをしてくれる。


 攻守は先程、俺のフリースローが入ればこちらが攻撃側、外れればバスケ部チームが攻撃側というところで残念ながらリングに弾かれてしまい、バスケ部チームが攻撃側になった。

 なので俺と黒瀬はゴール前で相手を迎え撃つ態勢に、光輝はボールを持ったあいてのマークにつく。


「スリーポイントラインは“ツーポイントライン”で、この外からのシュートは2点、内側からは1点な。んで攻守の交代はシュートが決まった時とハーフコートからボール出た時。それ以外はそのまま続行で。得点はその時にシュートした人のチームのってことで」

「オッケー」

「ファールと得点カウントは私がするね」


 スコアラーは、バスケコートへの道すがら途中でたまたま会った同じ学年のバスケ部マネージャーにお願いして来てもらった。

 彼女は車輪付きのスコアボードの横に立ち、手を上げている。

 小柄で可愛らしい子だ。きっと部内でも人気に違いないだろう。


「時間は15分1セットにしようと思うんだけど、いける?」

「俺は問題ない。二人は?」

「俺もだ! 親友は?」

「多分いける」

「じゃそれで。行くぜ…」


 おさらいが完了したところで、ドリブルのストロークがゆっくりから早いものに変わる。

 その様子がゲームの開始を知らせていた。


 俺は一瞬だけ足元を見る。

 制服のブレザーだけ脱ぎ、靴は運動靴に履き替えた。よくある遊びの時のスタイルだ。

 学生時代からバスケの技量は全く上がっていない。それはさっきのフリースローでも分かった。

 肉体も、今は普通。一応こっちの世界に来てから家でできる簡単な筋トレは始めたものの、1週間弱では効果は何も期待できない。

 だが俺の頭には戦いの経験と体の動かし方が蓄積されている。

 それを活かせば、みっともない結果にはならないハズ…!


「始め!」


 スコアラーの女子が開始の合図を送る。するとボールを持つ男子生徒が動き出した。

 対峙するのは光輝。こっちでもバスケの経験は無いらしいが、野球部で鍛えている運動能力で対応する。

 しかし…


「ホレっ!」


 経験者の華麗なハンドリングとステップで光輝のマークを難なくあしらった。

 そして俺も一生懸命マークしていたがやはり現役選手のテクニックには叶わず、一瞬のスキを突いてボールをキャッチされてしまう。


「よしきたっ」


 ボールをキャッチした生徒は、シュートを撃つため素早く体をリングの方へと向けた。


「シュー……………え?」


 シュートを撃とうとした生徒はすぐに異変に気付く。

 左手を添えていたボールが、こつ然と姿を消したのだから。

 当の本人は何が起きたか把握するのに一瞬遅れていた。


「取られてるぞ!」

「っ?!」


 ボールをキャッチした直後の緩みを突いて、俺が素早くボールを奪っていた。

 きっと運動部でもない俺が相手で油断していたというのもあるだろう。

 ガバガバディフェンスを抜けた直後から意識が俺から外れていたのを利用し、ボールを頂いた。


「よっ!」


 ボールを手にした俺はその場からシュートを撃つ。レイアップなんてカッコよく決められないからな。

 そして手から離れたボールは綺麗な放物線を描き、ゴールに入―――らなかった。


 俺のノーコンシュートは高さも狙いもまるでダメで、リングにすら届きそうにない。このまま行くとネットをかすめるかどうかという感じだ。

 しかしそんな情けない球に接近する影が1つ。

 チームメイトの黒瀬だった。


「しっ!」


 入らないことを予期して飛んでいた黒瀬が、俺の放った勢いの足りないボールを空中ですくい上げるとそのままゴールにねじ込む。

(確か)フラフープとかそんな名前の技が華麗に決まり、ガシャンという音とともに力強くゴールを揺らした。

 そしてまさかの俺たちのチームに先制点が入った。


「ナ、ナイッシュー」

「ナイスパス親友!」


 お互いサムズアップする。俺はパスじゃなくて本当はシュートなのだが…

 外したので、今のは黒瀬の活躍による得点といえる。

 しかしいかにも合体技のように振る舞ってみたり。


「…まだ1点だ! これからこれから!」


 攻撃は再びバスケ部チームに。

 先程と同じように光輝がボールを持った生徒と対峙している。だが、今度は明らかに状況が違った。

 見事に光輝を抜いた生徒が、今度はかなり苦しそうにしている。

 必死にボールを取られまいと左足を軸に向きを変え、なんとかパスを放つ。

 そしてそれを俺がマークしていた生徒が素早く動き受け取った。


 先程は不意打ちのようなものだったが、今度はガチンコ正面衝突。

 しかし俺には光輝のようなテクニックは無いので、相手はドリブルをしながらじっくりと考える余裕がある。パスか、シュートか。

 他の四人の様子を見ながら、最適解を導き出す実力も猶予もある。

 だから俺に出来ることは、その“後の先”を行くことだ。


「―――!」


 相手が目線を黒瀬たちの方へと移した。なので俺も瞬間それを追い、体と目線を傾ける。

 しかしそれは相手の罠。パスをする姿勢から一瞬でジャンプシュートをするべく体の正面にボールを持ち跳躍した。

 次の瞬間―――


「なっ…!?」


 俺は目線と体を右側にいる黒瀬の方へ向けたまま、左手でシュートをしようと掲げていた相手のボールを射抜いた。

 バスケの知識や技術、シュート精度…

 俺には足りないものだらけだが、ぜ。


 ボールが使われていないコートの向こう側に落ち、2回3回とバウンドし転がっていく。

 俺が出したので当然相手ボールからのスタートとなるが、これでいい。

 15分という限られた時間の中で、俺にシュート能力がない以上今はサポートと防御に回る。

 俺の前では1本もシュートは決めさせない…そんなスタンスを貫くことが出来れば、相手チームの攻撃バリエーションを狭めることが出来るハズだ。

 もちろん隙あらばシュートは狙っていく。でないと『塚田は攻めない』という安心感を与えかねないからな。


 なんか、楽しくなって来たな。

 現役時代とは考え方も出来る事も違う中での立ち回り。

 1回と言わず、何回でも誘ってほしいくらいだ。

 年甲斐もなくそんなことを考えていると、皆の様子がおかしい事に気付いた。


「…あれ? そっちボールでしょ? 早くやろうよ」

「…」


 そう声掛けをするも一向に動く気配がない相手チームの三人。

 すると少しして、俺と対峙していたクラスメートが口を開く。


「悪い塚田」

「んん?」


 突然の謝罪。

 てっきり具合でも悪くなり中断したいのかと思ったが、そうではなかった。


「俺、お前のことを舐めてたわ。てっきりこの中で一番出来ないもんだとばかり思ってた。二人もそうだよな?」

「ああ…」

「まあ、な」


 クラスのバスケ部三人が口を揃えてそんな事を言う。

 それに対し俺は


「いや、事実じゃん。一番バスケ出来ないし」


 同意見と言うことを伝える。

 黒瀬のような豪快なダンクや、光輝のようなマークもできない。というかドリブルもたどたどしい始末だ。

 パチンコ玉は正確に弾けてもシュートの精度はイマイチだ。

 せいぜい俺が出来るのは自分の体を上手に使えるのと、相手との読み合いに負けない事くらいだ。

 だが、相手は俺が思う俺の評価ほど安くは見てくれないようだった。


「確かにバスケのテクニック面はそうだよ…。でも今の2プレーで分かった。塚田にはバスケではない何か別の"スゴ味"があるってことが…」


 見ると黒瀬も光輝も相手の言葉にうんうんと頷いている。黒瀬はいつも俺のこと全肯定マンだからいいけど。


「俺はもうお前を下手くそな相手とも、前髪目隠れ無個性やる気無し男とも思わない」

「思てたんかい」

「ここからは"リブロン・ジェームズ"のつもりで相手する…!」

「過大評価が過ぎる…」


 ベテラントッププレーヤーだぞ…。

 まあいいや。俺もそっちの方が楽しいし。

 相手的にも、弱いやつで勢いを付けるのは大事だけどそれじゃあレベルアップはしないからな。

 良い相手と思ってもらえたんなら、光栄だ。


「じゃあ、やろっか。続き」

「おう」


 こうして、たかが中休みの3on3は大げさな決意表明と共に再開したのだった。

 そしてあっという間に時は過ぎる。



「左手はそえるだけ…」


 ウチのエース黒瀬が攻め込む脇で、シュートの準備をする俺。

 するとシュートモーションを取っていた黒瀬が急きょ俺にパスを放つ。

 それを受けた俺はゆっくりと、落ち着いて、他の皆がやっていたようにジャンプシュートをする。


「…っ」


 開始直後のとは違う。今度こそボールは綺麗な放物線を描き、リングに触れることなくパサッと静かな音を立ててゴールの中心を落ちていった。


「…っし」


 本日3得点目に小さく喜びを表現していると、自分をマークしていた相手チームの二人をかき分けて黒瀬が俺へと近づいてくる。

 そして、俺たちのハイタッチ音がパン!っと響いたところで


「そこまでー!」


 スコアラーをしてくれていたマネージャーの試合終了の合図が聞こえたのだった。

 結果は25対18でバスケ部チームの勝利。まあ、良かったんじゃないのかな?


「お疲れ、二人とも」

「ナイスプレーだったぞ、親友!」

「試合中に成長していたな」


 俺たち三人はお互いの健闘をたたえ合う。

 するといつの間にか集まって来ていたギャラリーから『ナイスファイ!』とか『カッコ良かったよー!』といった称賛が飛んできた。

 見ると野外バスケコートを囲むフェンスの外に結構な数の生徒たちが集まっている。男女問わず、学年問わずだ。


「はあ…はあ…お疲れ…三人とも」

「おう、お疲れ」


 相手チームの三人ともたたえ合う。

 その疲れっぷりは、とても遊びを終えたような様子には見えない。


「かなり疲れてそうだけど、大丈夫か?」

「ああ…。クソ…どこが15分間"多分いける"だよ……。体力有り余ってるじゃねーか」

「まあ、抜けるところは抜いてたし。そっちは、ギャラリーのせいで必死になってたな」

「他人事だと思ってよ…」


 バスケ部の意地のせいで、途中からは常に全力プレーを強いられた彼ら。

 もちろん俺たちも手は抜いていないが、あっちは精神的な疲労がかなり蓄積しているのだろう。まだ肩で息をしている。

 対してこっちは光輝と俺が多少の疲れ。黒瀬はまだまだ元気いっぱいだ。


「またやろうぜ」

「ああ。次はダブルスコアつける」

「おーコワ…っと、予鈴だ。急がねーと」


 授業開始3分前の予鈴が鳴り、ギャラリーも俺たちも急いで教室へと戻る事に。


 しかし、俺以外の五人が授業に参加する事はなかった

 3on3に全てを出し尽くした彼らは

 続く3限目 物理の授業でウソのように爆睡した―――


 まさに9.8gの勢いで意識が落ちていったとさ。


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