第269話 1課の頼れる仲間
「中々大変な事になっているねぇ、君は」
「だろぉ? 参ったぜホント」
俺の話に和久津が共感してくれる。
食堂の片隅で話す俺たち六人は、それぞれ晩御飯やらコーヒーやらジュースやらを持ち寄っていた。
俺の左右には志津香と美咲、正面に光輝、光輝の両隣に和久津となごみという何ともカオスなメンツで、俺が特対本部に来た理由と置かれている現状について説明した。
俺が話している間、和久津は積極的に相槌なり質問なり反応見せてくれているのだが、美咲となごみは何故かあまり会話に入ってこなかった。ちなみに志津香と光輝は相変わらずそれほど喋らない。
そして全ての内容を説明し終え、今に至る。
「殺し屋の存在はウワサ程度では聞いたことあるが、そんなのに狙われている人間が身近に出るとはねぇ…。しかも複数人から」
「しかもしかも、今のところ狙われているという事しか分かってないんだ。もしかしたら今も人員がどんどん増えているかもしれないし」
「能力を配る能力者…だね。
「ああ。そいつのせいで一般人はおろか殺し屋たちまで能力者となっている可能性が高いから面倒なんだよ。俺としても早くとっ捕まえて、かかっている懸賞金をキャンセルさせたいところだが…」
「向こうの刺客が君を襲う方が遥かに速いと」
和久津の見立てに対し頷く。
そう、襲われる側の俺は残念ながら後手に回ってしまっているのが現状だ。
だからこうして特対に身を寄せ少しでも時間を稼いで、その間に解決策を探したいワケである。
一番早道なのはもちろん、敵戦力の増加を担いかつ依頼主であると思われるカード野郎を叩くこと。報道で逮捕された事が流されたのなら、多くの人間に『三千万円の件は無くなったんだ』と思わせることが出来てベストだ。
しかしカード野郎も巧妙に姿や情報を隠し、足がつかないよう動いている。
元凶を叩くのが無理ならば、迫りくる刺客を次々と倒し『三千万円じゃ割に合わない』などと思わせていきたいところだが…。事はそう単純でもない。
正直欲に駆られカードを引いてしまった連中が自らのペナルティで消えるのは自業自得だと思うのだが、とはいえ無暗に一般人から被害者を出したくはない。中には三口や末吉みたいに付け込まれた未成年の被害者だっているハズだ。
そこで特対に立てこもり、大多数は諦めさせて余計な動きを制限しつつ、その間に廿六木にお願いしようか悩んでいる"例のプラン"を進めカード野郎を叩く…。
しかしこれも実りがあるか分からないし、成果まで多少の時間を要するから、どうしても殺し屋連中や命知らずな元一般人との衝突は避けられないだろう。
完全平和的解決は難しいかぁ…
「卓也」
「おう、なんだ光輝」
これまで喋らなかった光輝が俺を呼ぶ。
何か良いアイデアでも浮かんだのかと期待して言葉を待っていたのだが…
「懸賞金三千万円なんて、カッコいいな」
「…おう。当事者じゃなきゃ俺もそう思っていたよ」
期待した俺の気持ち弄ぶやん。
「でも改めて、凄い額だねぇ…三千万円。私怨にしては高すぎる」
「そう。そこが俺も分からない。最初はイタズラの線も疑ったが、殺し屋なんてものが出てくると『冗談でした』じゃ済まないしな…。そうまでして俺を殺したい人物に心当たりがない」
犯人特定の妨げとなっているのが、その大きすぎる懸賞金額だ。
これまでの任務からして誰かしらに恨まれていること自体は否定しないが、冗談で無くそんな金額を突っ込んでまで復讐してくる人物には覚えがない。
怨恨なので、損得は度外視しているんだろうけど…
「君がこれまで関わったとされる【手の中】【CB】【ネクロマンサー】の残党にそれほどの資金力があって、尚且つ君を最も恨んでいる…私財を投げ打ってまで殺したい人物か…。確かに、ここからホシを辿るのは骨が折れるねぇ」
「だよなぁ…。でもカードの能力がリスト登録外だから、居るとしたらその辺の連中のハズなんだよなぁ」
「うーん…」
俺と和久津で犯人のプロファイリング(?)をするため必死に頭を捻っていると、美咲が食べる手を止め、口を開いたのだった。
「卓也さんに昔、心身ともにボロボロにされ捨てられた女性の復讐じゃないですか?」
「は?」
「ああ、それねきっと」
「なごみまで…」
「それで決まり」
「志津香…」
廿六木が以前冗談で挙げてきた理由を、
そしてそれに乗っかる女子二人。志津香に関しては"カフェボーイ"の漫才ばりに断定してきているし。
「そんなヤツはいないが」
「どうして言い切れるんですか?」
「女性を捨てたことは無いからだ」
「自覚がないだけかもしれないじゃん」
「だとしたら記憶喪失レベルでないよ」
「治療が必要」
「いやいや、その線を追うなって」
どうしてここまで攻められているのか…。ともかく彼女らの機嫌があまりよろしくない。
いつまでも有り得ない線を追う論議などするのは不毛だと思うのだが…
そんな時、俺のナナメ前の席から助け船が出航して来た。
「つまり塚田くんは、女子とそういう関係にはなったことが無いと、そういう事だね!」
「「「っ…」」」
「いや、大学の―――」
「だとしたら恨まれようがないなぁ!だって無いんだもの!!」
「いや、声デカ…」
俺が詳しく話そうとしたが、やたらとでかい声の和久津に阻まれてしまう。
そこからも主導権は和久津が握り…
「なあ美咲くん。理論的に考えて、そういう付き合いが無いなら無理だよなぁ?」
「…そうですね。私としたことが、単純な理屈を見落としていました」
「恋愛マスターと名高い風祭くんなら、この恋愛方程式、解くのは造作もないだろう?」
「…そうね。この程度の式、ピースの初期に履修済みだったわ」
「竜胆くん。ウチの塚田が言うには、そういう関係の女子はいないそうだよ」
「…なら女性の復讐と違う」
何かドンドンと説得されていき、全員意見を180度変えた。
「と言うワケで、女性の怨恨の線は消えたぞ、塚田くん」
「え、あ、ああ…」
急に沸いてきた無理筋なんだけどな、俺としては。
「私に感謝したまえよ、塚田くん」
「ありがとう…」
とりあえず感謝した。
その後は、ようやく喋るようになった美咲やなごみと、事件の事から最近の身の回りの出来事などを聞き、いつの間にやら雑談をするようになっていった。
広報として動いている光輝と美咲、異能力庁勤務のなごみ、そして件数が増えた能力犯罪に対応する志津香となごみ。
それぞれの変わった世界後のあれこれの話が聞けて、とても有意義な時間が過ごせたと思う。
またその流れで、俺は和久津からの伝言の内容を思い出し質問をしてみた。
「なぁ、そういえばさ、和久津」
「なんだい? 塚田くん」
「なんか、相談がどうとかってアレ、なんだったの?」
「ああ…」
俺の問いに『そういえば…』といった様子の和久津。
緊急では無さそうだが。
「私の上司で、"異能力庁副大臣"が君に会いたいと言っててね。そのセッティングを一任されたんだよ」
「副大臣が、俺に?」
「ああ。鬼島部長代理のご子息で、鬼島修一郎副大臣だ」
「え、鬼島さんのお子さんて、そうなん?」
鬼島さんて子供居たんだ…。
年齢的に大きいお子さんが居てもおかしくはないんだろうけど、そういう雰囲気無かったしな。
しかもそんな重要なポストに就ける程の人材…。たぶん能力者…だよな?
「何の意図があって君を呼んでいるのかとかは私も分からないんだ。ただ、どこかで会わせてくれと」
「ふむ…。それは全然いい…というか光栄だけど、この件が解決しない事にはなんともなぁ…」
「そうだね。今日の話を聞いて私も思ったよ」
もし何か頼み事関係だとしたら、とてもじゃないが受けていられる余裕もないしな。
「余裕が出来たら声をかけるよ」
「ああ。そしたらまた居酒…どこかで打合せしようじゃないか」
「おう」
相談事も保留となり、この場で話せる事はもう無くなったかなといったところで、ふとある人物から声をかけられる。
「おう塚田ぁ、珍しいな」
「あれ?」
ゲーム好きおじさんの一人だ。会うのは4ヶ月ぶりだな。
「どうも。今から食事ですか?」
「そうだよ。あ、丁度いいや。今定例アンケートを取っててさ。ゲームの」
「アンケート?」
「そう。ヒロイン三人の誰を選ぶかみたいなヤツをさ、有志で」
「あー」
そういえば盛り上がってたな、嘱託期間の時に。
おじさんの話によると、あんなような選択を定期的に課して、その答えを集計しているのだとか。
これまでも何度か開催され、光輝もたまに加わっていたんだと。
「今回はどんなテーマなんです?」
「ああ。"
宙のキュービィ…テンニンドーの誇る人気キャラクターが主人公のゲームタイトルだ。結構前のヤツだったよな。
一部の敵キャラを吸収する事で、その敵の能力が使えるようになるというキュービィを操作して進めるゲームで、中でもこの"ハイパーデラックス"はシリーズ随一の人気作だ。
セーブデータも良く消えるんだよな。
「ちなみに光輝は?」
「俺は…"プラズマ"だな」
「鷹森隊員はプラズマと…人気だな」
メモを取り出し記録するおじさん。
確かにプラズマは強いしカッコいいし、人気なのもうなずける。
「塚田は?」
「俺は…」
昔一番好きだった能力を思い出し、そして…
「スープレックスで」
一番ボスへダメージを与えられる能力を答えた。
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