第261話 塗り性能が高い彼

【登場人物】



・塚田 卓也…本作の主人公。あらゆるモノの数値を操る能力者。能力が公表された世界でもこれまで通り会社に勤務し、一般人には能力者であることを隠して生きていく事に決める。『幸せとは何か』を模索中。


 クリスマスも近くなった年末のある日、昼食を食べに宝来へ行った際玄田から『一般人に能力を配る能力者の討伐』の依頼を請ける事となる。そこで後日いのりと一緒に早速調査を行うも、その日は何も成果が得られなかった。しかし、引き上げて夕食へ行こうと一旦自宅に戻った際に"謎の六人組"の襲撃にあう。

 襲撃者の内の二人を難なく無力化した卓也だったが、六人の代表として話していた男が突如全身結晶化し死亡してしまう。それが事件の資料に記載されていた『取調べ中に死亡した犯人』と同じ死に様であった事から"何者かによる口封じ"を警戒するも、襲撃者の一人である【三口美園】という女子高生の口から真実を知る事になる。


 追っていた事件の主犯とはお互い狙い合っている事を知った卓也だが自宅の住所が相手にバレていたので、駒込の提案で事件解決まで特対本部で過ごす事に決める。

 その後卓也が殺し屋に狙われていると伝えに来た特公の廿六木梓に"あるお願い"をしようと話を持ちかけたところ、特公の職員の討伐を交換条件として提示されるのであった。


 能力を配る能力者、複数の殺し屋、そして特公職員と倒す相手が次々に現れ、卓也の明日はどっちだ。



・南峯いのり…テレパシー能力者にして、探偵卓也の相棒。能力が公表された世界で母親にも自身のテレパシーを打ち明けることができ、環境がどんどん良くなっていっている。しかし卓也と同じ世界に生きると決めた決意は固く、アフロディーテの手ほどきでこっそり特訓中。


 玄田に『卓也が依頼を請けたら知らせる』よう事前に約束しており、今回の案件も玄田からの連絡を受け知る。そして卓也が動くであろう日を読んで家にサプライズ訪問し、共に調査すべく街に出かけた。

 一日かけて半蔵門線沿線を回ったが成果は0で、結局ただデートしただけに終わる。しかし卓也の家に戻ると六人の訪問者がおり、調査は急展開を迎えた。


 特訓やこれまでの経験が生き、街中でテレパシーを使い心の声を探るのもお手のものとなっていた。まだ自分の力だけでは人を操ったり脳を破壊することは出来ない。



・水鳥美咲…特対職員にしてピース出身者。強力なサイコキネシス使い。特対の広告塔としてメディア出演や公開パトロールなど精力的に活動する。その可愛らしい見た目と凛々しい勤務態度から、老若男女問わず人気者となった。一部男性ファンから写真集の発売を熱望されている。

 二本橋近辺をパトロール中に同僚とランチをする卓也を発見し、女性陣への牽制の意味で声をかける。『卓也の家に行ったマウント』を取り満足気にその場をあとにしたが、隣に居た光輝の方が訪問回数は圧倒的に多い。



・鷹森光輝…特対職員にしてピース出身者。光の能力を使う特対でも最強クラスの職員。美咲と同じく広告塔として精力的に活動する。そのおかげで多忙を極め、最近卓也の家に行って"ペル伝"が出来ないことを不満に感じている。3体目の神獣のダンジョンで止まっている。



・和久津沙羅…特対職員にしてピース出身者。相手の能力の内容がわかる。

 国の新たな取り組みである『能力者へのライセンス発行』の為、二本橋にある"異能力庁"へ出向中。一般人と交流を深めていく中でこれまでの自分の世界とのギャップを感じストレスを抱えていた。

 偶然街中で卓也と出会い居酒屋へ行くことになりそこで盛大に愚痴るも、話をする内に自分の悩みの小ささに気付く。しかし卓也も『幸せとは何かを探す』という大きなテーマを抱えていることを知り、たまにこうして居酒屋で話をしようと約束した。

 物凄い下戸で、カシスオレンジグラス半分でベロベロに酔っ払う。ねらい目。



・三口美園…都内の進学塾に通う高校3年生。能力【味を変える】NG行動【自分の年齢の数以上の階層に行けない】

 模試の成績の事で母と折り合いが悪くなっているところに声をかけられ、カードを引き能力者となる。戦闘向きの能力では無かったが、NG行動を踏んだときのペナルティを確かめるため卓也討伐作戦に参加した。

 ペナルティの内容が死だと分かり卓也に交渉を持ちかけるも、決して自分が優位に立てることはないと悟りお願いに切り替える。話を聞き能力解除に協力してくれることになった卓也から、能力は使わずNG行動に気を付けながら普段通り過ごすよう指示を受けた。

 大学進学のため勉強しているが、本当は料理の道に進みたい。



・末吉来也…三口と同じ進学塾に通う高校3年生。能力【空間転移】NG行動【体温が40℃を超える】

 昔から母に虐待まがいの扱いを受けており憎んでいた。そんな時学校の帰り道に声をかけられカードを引いてしまう。

 様子見のつもりで卓也の家に行こうと準備をしていたところ、些細な会話からこれまでの不満が爆発し能力で母親を殺害してしまった。三口から卓也への説明が一通り終わった段階でそのことを自ら暴露し、大人しく特対に捕まっていった。そのついでに三口が襲撃者の中には居なかったという偽装工作に一役買うことに。

 塾の同じクラスというだけでロクに会話もしなかった三口が、卓也家襲撃の際に『危害は加えないように様子見だけしようね』と気遣ってくれたことに少なからず感謝しており、庇うような行動に出た。



・須藤亮二…能力【右手で触れた物を半分に割る】NG行動【教えていない相手から名前を呼ばれる】

 卓也の家に襲撃してきた六人のリーダー格の男。右手で掴んだものは対象の硬さや材質等に左右されず半分に割ることができ、その能力で自分の恋人を奪ったヤクザ(矢川 辰彦)を殺害した。

 ヤクザを殺したその足で塚田家に向かうも、ちょうどすれ違い留守にしておりその日は失敗に終わる。翌日改めて家で待ち伏せをし、調査デートから帰ってきた卓也といのりを六人で襲撃しようとするも返り討ちにあう。その際卓也の能力で名前を見抜かれ呼ばれてしまった事でペナルティが発動。全身が結晶化し砕け散ってしまった。



・矢川辰彦…炎を操る能力者。親がヤクザの若頭で、その威を借りて好き勝手していた。

 昔から我儘で傍若無人な振る舞いをしており周囲から疎まれていたが、本人は微塵も気にしないような性格だった。能力が公表されると親にお願いし、真っ先に覚醒サービスを受ける。そして僅か数日で能力が発現するという天才ぶりを見せた。

 能力を身に付けてからはそれをチラつかせ、気に入った女性を脅しては手を出していた。須藤の恋人もそれで奪い、ビデオや写真で脅して飽きるまで付き合わせていたが、同じく能力を身に付けた須藤本人に報復される。生きたまま体を真っ二つにされるという凄惨な最期を迎えた。自業自得だが。



・藤林驟雨介…特対職員。粒子を操る能力者。特対の広報活動によく使われており多忙を極める。

 本合三丁目で矢川が殺された際、たまたま近くをパトロールしていた為現場に駆けつけ卓也から情報提供を受けた。代わりに矢川の調査内容を卓也に横流しして貢献した。



・廿六木梓…特公職員。生命力を操る能力を有する。

 卓也にとある報告をするため家の前で待ち構えていた。庭にいる襲撃者には当然気付いていたがスルーし、ゴタゴタが終わって夕食をとるタイミングで改めて『卓也を狙う殺し屋』の話をする。

 その後卓也から能力を配る能力者を確保するためのお願いをされるが、交換条件として不正を働く特公職員の討伐の依頼を持ちかけた。現在保留中となっている。



・篠田可憐…卓也の同期の社員。恋に奥手で、中々一歩が踏み出せないでいる。しかし卓也への好意は周りからバレバレで、卓也が積極的であればとっくに結ばれていたかもしれない。

 二本橋通り沿いのカレー屋でランチをしていたところ、パトロール中の美咲から煽られた事で憤慨。卓也の家へ押しかけ料理を振る舞うことに。

 凝った料理はそもそもしないが、料理の腕は高い。



・佐々木雄大…卓也の同期の社員。篠田が卓也を好きなことを知っていて応援している。が、余計な口出しはせず静観するというスタイル。



・小宮あおい…卓也の後輩社員で社長室所属。星野の直属の部下。

 篠田と同じくカレー屋でランチをしていたところ美咲に煽られ卓也家に押しかける。手料理を振る舞い卓也に褒められるが、実は猛特訓していた。



・星野ひかり…卓也の先輩社員で社長室所属。篠田も小宮も可愛がっているが、直属の部下である小宮贔屓。

 小宮の付き添いで卓也家を訪問し、究極の漬物を振る舞った。予定があり早く帰る事になっていたので卓也に最寄駅まで送ってもらう最中、矢川から声をかけられる。普段ならナンパは軽くあしらうのだが、相手は能力を使って脅してきたため恐怖した。しかしあまりにも簡単に撃退する卓也を見て、もしかして能力者なのではと疑うようになる。



・五十里…能力【ノーペインノーゲイン】能力とNG行動が書かれたカードを1枚ずつ引かせる事で、対象にその能力と枷を与える。内容はどちらも引いた時ランダムに決定し、それは五十里本人も知らない。

 異能力庁政務官の日高からの依頼で一般人を能力者にしてまわっている。また、その過程で卓也に懸賞金をかけ刺客となるよう動いていた。フードを目深に被った少年の姿で活動しているが、それは能力で変えている仮の姿であり、正体は不明。



・日高芳…異能力庁政務官。能力公表の前まで裏で色々と活動しており、今も暗躍している。物腰柔らかで人当たりの良さそうな好青年に見えるが、腹の中は黒より暗い暗闇だ。

 五十里に能力を配らせ、卓也の襲撃を不特定多数の人間に依頼するよう指示を出した張本人。卓也を試すような行動を取り、遂には殺し屋まで雇っているが、協力者の五十里ですらその目的は知らされていない。












 ________












「お待ちしておりました、塚田さん」

「わざわざありがとうございます、駒込さん」


 月曜日 18:45

 特対本部の外門には駒込さんがわざわざ俺を迎えに来てくれていた。

 しかも今回の俺の宿泊予約をはじめ各種許可取得と、その全ての手続きを彼ひとりで行ってくれたらしいのだ。おまけに出迎えまで…頭が上がらないな。


「簡単な手続きがありますので、早速受付に行きましょうか」

「はい」

「部屋に荷物を置いたら夕飯でも一緒にどうですか?」

「ええ、行きましょう。またあの美味しいご飯が食べられるかと思うとテンション上がりますね」


 食堂とは思えないクオリティの高さと、クオリティの高さに見合わない低価格設定。

 特対ここで働く職員にとって最高の福利厚生といっても過言ではない。


「入職して貰えれば、毎日でも食べられますよ」

「ははは。それは魅力的な誘い文句ですね」

「はは…」


 俺は駒込さんと談笑しながら、数ヶ月ぶりの特対本部宿泊に向けて受付へと向かうのであった。













 ________














 今日は社長が福岡へ出張に行っているので、自分の事務仕事が片付いたタイミングで会社を後にした。

 時刻はまだ18時をちょっと過ぎたくらい。いつもより1時間以上早く家に着きそうだ。


 ランチも、普段なら必ず誰かが社長室デスクに待機して、社長あての電話対応などをしなくてはならなかったのだけど。社長が不在な事と、『年末だしたまにはね』という専務の計らいで後輩の小宮ちゃんと一緒に行くことができた。

 彼女は一昨日、私が帰った後の飲みの席でかなり三人と親睦を深めることが出来たらしく、嬉しそうにその日の話をしてくれた。


 色々な部署の人と仲良くなるのは、小宮ちゃんにとってとても良い事だ。三人とは年齢も近いし、業務で何かあった時に職場に頼みやすい人が居るというのはプラス面が非常に大きいと思う。

 キッカケはなんであれ、塚田くんのおかげで良い関係が築けたことに感謝だ。


「塚田くん…か」


 口から出たのは、この2日間油断するとすぐに私の頭の中を支配する人物の名前だ。

 早く帰宅する私を駅まで送ってくれた際に起きた"ハプニング"以降、気を抜くと私の脳内の仕事や趣味といった色を上からベチャベチャと塗りつぶしナワバリを広げていく。

 あの時の強烈なシーンが忘れられない。


「だめだめ…!本人が違うって言ってるんだから、追及は失礼よね」


 私はドツボにハマらないよう無理矢理頭を振り払うと、神多駅の改札近くにある"ちょっと良い目のパン屋さん"へと足を運ぶ。

 月に何回かの贅沢。昨今の高級食パンブームの前から素材にとても拘っていた美味しい食パンと、体重の事を考えるとあまり頻繁には食べられないバターをたっぷり使ったクロワッサンを、トングを使って清潔な白いトレーへと乗せた。

 開封していないのに香ばしい香りと甘い香りが鼻孔をくすぐる。おかげで脳内がパン一色に染まっていった。


「あれ…?」


 あともう一つくらいパンを買おうかなと吟味していると、ガラス張りの店の外に見慣れたスーツの男性が見えた。

 引っ越してからは丸の内線を使うようになったので、JRの駅こっちの方へ来ることは無いハズの彼が改札の中へ消えていく。

 そんな彼を、私は急いで会計を済まし、視線だけでなく自然と追いかけていく。


 別に、ただ遊びに行くだけかも。

 ていうかこれってストーカー?されたことはあっても、するのは初めて。されている時より鼓動がうるさい。

 今までも帰りに見かける事はあったよね。何で今日に限って後を追うの?

 後を追って、それでどうするの?


 何人もの"脳内ワタシ"が色々と発言しているが、足を止めるワタシは居なかった。

 自然に、何の気なしに、私は彼の後を追ったのだ。

 そこに何があるのか、気になって。



「どうして…」



 だから、目的地にたどり着いた時



「どうして塚田くんが…特対本部に入っていくのよ…」



 私の中の疑念は、確信へと一気に近づいたのだった。




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