第257話 情報収集
三口の話を静かに聞いていた俺だが、途中で気になる内容があったので思わず口を挟む。
「NG行動を破ったときのペナルティは"分からない"って言ったのか?その男は」
「え、ええ…」
「…」
「それがどうかしたんですか…?」
「いや、その部分は十中八九ウソだろうな、と思ってな」
「ウソ…ですか」
男の話すルール説明に引っかかったので、その根拠を聞かせることに。
「能力を覚えたてのヤツならともかく、俺を殺すのに人を増やして周到に準備して…って人間が、ペナルティを把握してないってのは考えづらい。多分それを話すと相手が二の足を踏むと思って、とぼけてるんじゃないかな」
「確かに…私も死ぬと分かっていたらカードは引いていなかったと思います」
「だよな」
他人だけならまだしも、自分の仲間に付与するかもしれないのにペナルティを把握していないのはおかしい。こういうヤツは絶対に誰かで試している。
中には『それでも能力が欲しい』ってヤツもいるかもだが、効率よく刺客を増やすには邪魔な情報だ。
であれば、その部分を隠してしまうのが一番手っ取り早い。
「恐らくそいつは説明に虚実織り交ぜることで相手に全てを晒していると思わせ、カードを引く抵抗感を減らしているんだと思う。もしかしたら全てを話さないと能力が使えない事そのものがウソの可能性がある」
「そんな…」
そうなると、キャンセルの条件など他の項目全てに信憑性が担保されなくなるな。
実際は"いつでもキャンセル可"ならこちらにとって都合が良いが、"そもそもキャンセル不可"であれば…能力を消すか最悪殺さなければ三口たちを助けることは出来ないか。
俺がこの依頼を請けた際、資料によると能力を配る能力者は特対のデータベースに存在しないとのことだった。
しかし今回の手口から、能力を身に着けて間もない人間ではないことが分かる。
つまり相手は闇側の人間だと見ていいだろう。
なぜ急に表立って活動してきたのか……何か大きな陰謀を感じてならない。
「話の腰を折ってすまない。とりあえず結論は話を一通り聞いてからだな。続きを頼む」
「はい…」
「そんな落ち込むなって。方法はきっとあるから」
「…ありがとうございます」
自分の軽率さに対する後悔と、もしかしたらこの枷を一生背負わなければならないんじゃないかという不安が表情に出ている。
三口の話ではルール云々は別にしても、今回自分の意志でカードを引いているので責任が無いとは言わない。
だが自分の目的のために未成年の心の隙をつくような真似をする敵は卑劣極まりないな。
このまま野放しにはできない。必ず止めなければ。
「えーと…それでカードを引いたところまで話しましたよね。それからその人は、私にある提案をしてきたんです」
「提案ね…」
「はい。もし手に入れた力が攻撃したり捕獲するのに向いているなら、いい儲け話がある…と」
「それが俺…か」
三千万円の賞金首。砕け散った男曰く、ただのリーマンを殺してその金額が貰えるなら、特対の捜査能力を知らないビギナー能力者は乗っかるかもな。全員ではないだろうけど。
殺人という本来であれば躊躇うような行為も、その前に滅茶苦茶憎んでいる
敵はどんな方法かは分からないが、そういう"
「どれだけ恨まれているんですか?塚田さんは」
廿六木が笑みを浮かべながら、おちょくるようにそう聞いてくる。
「別に誰からも恨まれて無いって…多分」
「ほんとですかぁ?」
Neighborの連中とは関係はまあ、良好だし…
【手の中】は全員檻の中。メンバー以外の人間(新見兄妹)とは普通に仲良し。
しいて挙げるならば、CBの残党かネクロマンサー関連か…。その辺の人間が、俺に多額の懸賞金をかけてまで命を狙ってきている…?何故だ…?
皆目見当もつかない。
「…と、また話を逸らしてしまったな。すまん」
「いえ平気です。それで…儲け話を持ち掛けられたのですが、さっきお見せしたように私の貰った能力は攻撃とか捕獲には全く使えませんでした」
「そうだな」
お世辞にも戦闘に向いているとは言えない。
「でも"ペナルティ"がどうしても気になった私は聞いたんです。『他に依頼を請けている人はいるんですか?』って。すると『何人かは実行しようとしている』と言って、その内の一人の実施日が土曜日…昨日だって教えてくれたんです」
「ああ。割る能力のヤツね…」
「それで私は戦う気は全くなかったんですが、同じようにカードを引いた人と話がしたくて『私も儲け話に興味がある』と伝えたんです。すると塚田さんの名前とここの住所を教えてくれて、確認している間に姿を消していました」
「おいおい…」
俺の個人情報弄ぶやん。
そして、肝心の男の連絡先は聞きそびれてしまったと。
俺を殺したかどうかを判断するのは、どこかで見ているのか?嫌すぎ。
「そして昨日の夕方ごろ塾の前にここに来てみたら、その割る能力者の人が貴方の家を訪ねているのが見えたんです。なので近隣住民のフリをして近くを通ったら、塚田さんが留守だっていうやりとりが聞こえてきまして、その日はそのまま諦めて塾に向かいました」
サッさんが言っていた、訪ねてきた客のことだな。
時間的に、既にヤクザを殺した後だ。
「割る能力者とは顔見知りだったの?」
「いえ…カードの能力者の人に見た目の特徴をざっくり聞いていたので、それで『あ、この人がそうなんだな』って」
「ふーん」
随分と親切だな。配った者同士共闘でもさせようとしていたのか?
でもCBや尾張の関係者だとしたら、俺の実力…というか何をやったのかは知っているはずだから、その上で俺を"ただのリーマン"と教えるのはおかしいな。味方を油断させてどうするって話だ。
あるいは、この子らはもしかして…
まあ一旦置いておこう。
「割る能力者がウチを訪ねる時間も事前に?」
「それはたまたまでした。というか、昨日は夕方くらいしか行けなかったんです。もうすぐ大学受験ですし。その時は『ペナルティを確認できたらいいな』くらいに思っていましたので、まさか破ったら死ぬなんて思わなかったんです…」
「なるほどね。なんなら割る能力者でペナルティ試してやろうくらいに思っていたと」
「…なくはないです」
恐ろしい子…
「それで今日も、家に自習するって言って昼過ぎくらいにここへ来たら、人が増えてたってワケです。末吉くんともここで会って、ペナルティを調べに来たって言ったら『僕もそうだ』って」
「そうなのか?末吉」
「そうですね…」
「なるほどな」
殺されたヤクザと割る能力者、そして三口の話をまとめると、大まかな流れはこうだ。
事の発端はヤクザが割る能力者の恋人を無理矢理奪ったところから始まる。
それに腹を立てた男は復讐の為能力を受け取り、『ドタキャンされた』とボヤいていた事から恐らく恋人に頼んでヤクザを俺の家の近く(本合三丁目駅)に呼び出した。ヤクザのあとにすぐに俺を殺すためだ。
しかしヤクザを殺したところまでは良かったが、俺を殺しに家へ来たとき俺は死亡現場におり、すれ違ってしまった。
その時、三口も家へ見に来ていたという。
ただし見たかったのは俺ではなく、俺を殺しに来た割る能力者の方だった。ペナルティがどんなものかを確認したかったのだ。
そして今日、俺がいのりと半蔵門線沿線を捜査していたときに我が家には六人の能力者が集結し、そこに満を持して俺が帰宅した。
それぞれが懸賞金の為襲いかかってくるなか二人だけが観察に徹していたのは、昨日と同様誰かがNG行動を破るのを待つ為だ。
念願叶ってペナルティ発動の瞬間を拝む事ができたが、予想以上に重い内容でとっさに解除を願い俺に声をかけた。
これがここまでの事件の内容だ。
敵の目的も名前も不明だが、能力と『お互いがお互いを狙っている』という事が分かったので、まずは一歩前進だ。
ただ相手は俺の名前も家の住所も知っている為、捜査の点でかなりのビハインドなのは間違いないが。
「末吉も三口と似たような経緯か?」
「そう、ですね。僕も母とは上手く行ってなくて、先日学校帰りに声をかけられました。その後の流れは彼女とほとんど一緒です。ここに来たのは今日が初めてですが」
「分かった」
彼の能力も積極的に攻撃するタイプでは無いからな。観察目的なのは間違いない。
やろうと思えば殺せないこともないが、まともにやり合うならば相手より高い身体能力を要する。
少なくとも初見の相手に堂々と姿を晒すメリットはない。
「ちなみに言える範囲で良いから、どんなNG行動を背負ったのか俺に教えてもらえるか?日常生活にかなり不便なら便宜を図ることもできるかも知れない」
「この場で対策を皆で考えることもできるわね」
ここまでしてペナルティを確かめたかったという二人の枷の内容。俺が提案し、いのりが乗っかる。
俺たち三人がここまてで信用されていれば聞くことができるが、果たして…
「私は言えますよ…。私のNG行動は『年齢以上の階層に行ってはいけない』です」
「マンションとか商業ビルの…ってことか?」
「そうですね。今が18歳なので、私は19階以上の建物に登ったら死にます」
地味に嫌なNG行動だな。
一人なら気をつければなんの問題もないが、家族や友人と出かける際に高い場所にある施設には行けないということになる。
それこそ来年から通う大学もキャンパスによっては高い棟があるから、支障をきたす場合もあり得るな。
いつまでも放置できるような枷ではない。
「末吉は?ペナルティ」
「僕は…『体温が40度以上になる』です」
「………辛いな」
「そんな内容だったんですね、末吉くん」
こっちは派手に嫌なNG行動だ。
風邪などひけぬ体になってしまったというわけか。
こっちも早く解決しないとな。
「二人共色々と教えてくれてありがとうな」
「いえ。私達も早く枷から開放されたいので」
「…」
「話を聞いて、やっぱりその配る能力者を捕まえて直接話すことが最優先だな」
三口たちへ渡した能力と枷の解除と、何故俺を狙うのかの確認をする。
「そしたら、これから特対の人を呼ぶが、君らはどうする?」
「どう、というと…」
「玄関で寝てる二人は住居不法侵入と能力による俺への暴力行為、あとここに来る前に恨んでいる人間を既に手にかけているかもしれないから、それらの容疑で引き渡すが、君ら二人はこのまま帰宅してもらうこともできる。まだ二人は能力を受け取っただけの一般人に過ぎないから、今なら俺たちが何も言わなければ無関係で通る」
「なるほど…」
「その場合は今聞いた話をそのまま俺が職員に話すよ。適当にぼかして、別のやつから聞いたってことにしてな。俺は俺の依頼のために、取引相手の意思を尊重するよ」
四十万…三千万…
はぁ…
「じゃ、じゃあ…今日は一旦帰らせてもらいましょうかね…。私もいつまでも外に居られませんし。末吉くんはどうですか?」
「…」
「末吉くん…?」
「…?」
三口が問いかけるも、黙ったまま俯く末吉。
一体どうしたんだ?
すると少しして、彼はその重い口を開いたのだった。
「僕は…帰れません。僕も特対に行きます」
「え…どうし―――」
「僕は…僕も……ここに来る前に自分の母を殺しました。だから無関係の振りをすることはできません…」
「え…」
彼の口から語られたのは、衝撃の事実だった。
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