第232話 さよなら異世界 ようこそ"シン"世界
「松岡くんに…櫻井くんじゃないか」
「こんばんわー、塚田さん」
反対側のホームから声をかけてきたのは、ゲーセンで知り合った【プライムライブ】好きの高校生二人だった。
以前俺がゲーセンで遊んでいたところに松岡くんが声をかけてきて、そのまま限定カードを手に入れる為スラブレをプレイすることに…という経緯がある。
その時は三人組で、内一人の本多くんという少年は尾張によって蘇らされた"死者"だった…。
「そっち行って話してもいいですかー?」
「オッケー」
今の距離感のままでは話しづらいため、こちらに来るという櫻井くん。
そして少しして二人は俺の居るホームへとやってきた。
「どうも塚田さん」
「おう。驚いたぞ。こんなところで会うなんて」
「いやー、丁度電車に乗っていたら、ホームを歩く塚田さんが見えたので…。降りて思わず声をかけちゃいました」
「こっちもびっくりしましたよ塚田さん!」
「そんなこともあるんだな…」
俺はたった今起きた偶然に驚きながらも、二人が手に持っている派手な紙袋に目をやる。
そこには見覚えのあるキャラクターのイラストと【PRIME LIVE~3rd LIVE~】という文字が書かれていた。
これは以前ゲーセンで言っていた、松岡くんが当選したというライブのヤツかな。
「あ、コレですか?実はさっきまで、東京ドームでやってたライブを二人で見に行ってたんですよ」
俺の視線に気づいた松岡くんが、手に持っている紙袋を胸のあたりの高さまで掲げる。
「あぁ…隣の駅が後楽園だったね。道理で…」
「はい。で、帰ろうと思ったら~…ってワケです」
東京ドームでライブを楽しんだ二人は簡単に夕食を済ませ家に帰ろうとしたところ、ザギンでシースーを食った帰りの俺を見つけたということだった。
色んな偶然が重なった結果の巡りあわせ。面白いもんだ。
「にしても、結構買ったなー…」
改めて二人の持っている荷物を見る。
全部で紙袋が3つあり、それぞれからポスターが飛び出していた。
そしてどの袋も若干膨らんでおり、決して少なくない量のグッズが入っているのがうかがえる。
すると俺の感想を聞いた松岡くんが―――
「ひとつは翔琉の分なんです」
と言った。
「アイツ、このキャラクターが推しだったんですよ。【
俺に説明してくれるため、松岡くんがひとつの紙袋からいくつかのグッズを取り出してくれた。
タオル・パスケース・シャツ…そのどれもに青がイメージカラーの女の子がプリントされており、紙袋まるまるひとつに本多くん推しのグッズが詰まっている事が分かった。
「……本多くんは…行けなくて残念だったな」
俺が彼と出会っていなくて、尾張の計画を阻止していなければ。
永遠に生きることは無くとも、もしかしたら今日のライブに行けていたかもしれない。
自分の行いに後悔はないが、特に積極的に協力してくれた本多くんには"申し訳なさ"を感じずにはいられないな。
そんな俺に、二人が話をしてくれる。
「なんで塚田さんがそんな顔するんですか。翔琉のヤツ、塚田さんには感謝してましたよ?」
「そうですよ。俺たちも、塚田さんには滅茶苦茶感謝してるんですから」
「……ありがとな」
「翔琉が言ってたんです。本当は先の事を考えると不安ばかりだったけど、テレビとかで報道されている人を見てたら言い出せなかったって…。でも塚田さんが『本当にこのままでいいと思っているのか?』って切り出してくれたおかげで、素直な胸の内を明かす事が出来たんだって」
それは動画撮影に協力してくれる人を探すための、俺の決まり文句だった。
尾張の提唱する世界を良しとしない者を集め、表向きは感謝を伝える動画を撮影する"キャスト"を募るための…。
他のキャストは真里亜と街を歩きナンパのような形で声をかけたが、本多くんだけは連絡先を交換していたので真っ先に聞いたのだ。
「だから翔琉が生きる事を選ばなかったのを、塚田さんが気にする必要はこれっぽっちも無いですって!」
「そうですよ!ちゃんと自分で納得して決めたんですから。あとあと、ライブチケットを譲ってくれたのは嬉しかったけど、それは本来行くハズだったボクたちで行ってくれって言ったんです。その代わり"全力で楽しめよ"って」
「…はは」
櫻井くんの言葉に思わず笑ってしまう。どこかで聞いたことのあるフレーズだ。
「あとあとあと…!」
「お、おう…」
動画撮影の後に三人でガッツリと話をしたらしく、俺を励ますためにその内容を鼻息荒く教えてくれる二人。
そして最後に…
「翔琉は今回の件、失った物はないんだって」
「失った物?」
「両親にちゃんとお別れも言えて、俺たちと遊んで、好きだった作品が皆から支持されている様も見られて…。プラスしかなかったって」
「プラスか…」
「プラスしかないのに、それで誰かが悲しむなんておかしなことだよなって笑ってました」
「……だな」
二人の話す本多くんはただただ前向きだった。
きっと残される両親や二人を励ますために言ったのだろうが、俺も少しだけ救われた気がした。
________
土曜日 10:00
いつもより遅く起きた俺は、ひとり居間でテレビを見ていた。
というのも、二日前…四十万さんたちと寿司を食べた翌日の夕方頃に、今回のネクロマンサー事件について国から正式な発表があると各報道に通達があったのだという。
そしてその発表というのが、まさにこれから始まる。
「…
画面には現職総理である小林総理と、その横に座る小学生ぐらいの女の子が映し出されていた。
会見にはそぐわない人物の登場に、俺だけでなく会場の人間も驚いているようだ。
この子が、総理と並ぶほどの"何か"だというのか…?
(卓也さん)
(ん?)
(この女の子の中に上位存在が隠れています)
(は?それはどういう―――)
どういうことだと琴夜に投げかける前に、小林総理がテレビの中で話し始める。
そしてその内容が衝撃的過ぎて、思わず俺は釘付けになってしまった。
『えー、皆さま。わざわざお集まりいただきありがとうございます。時間も惜しいので単刀直入に申し上げますが。この度世間を騒がせた"死者が蘇る"という現象…そして多くの方がご覧になられたかと存じますが、それがある種の超能力により引き起こされた現象であるという動画の内容ですが…』
小林総理がネクロマンサーの事件と権田などのインフルエンサーが暴露した動画に言及し、ひと呼吸を置く。
そして―――
『それらの内容は全て事実です』
と、ハッキリと、キッチリと、聞き間違えないよう言い切った。
その瞬間、画面内は報道陣のたくフラッシュで満たされる。
そして俺は思わず心の中で"嘘だろ…"と呟く。
テレビを見ている多くの人たちは「そんなことあるんだ…?」の"ウソだろ…"を呟いただろう。
だが俺は「言うのかよ…」の"ウソだろ…"だった。
だって、これまでずっと秘匿して来たんだろう?それをそんな、アッサリと。
『私の横にいる彼女は動画でも出てきましたが、"能力者を取り締まる"特対という組織で現在部長を務めておられる方です』
『…はじめまして。只今総理よりご紹介に預かりました、【警察庁 刑事局 特殊犯罪対策部】で部長をしております、神楽 周と申します』
少女が優雅にカメラの前で
鮮烈な場面の連続に、頭が追いついている者は果たして何人いるのだろうか。
『繰り返しますが、この世には超能力と言うものは、あります。そして、この事実を公表すると同時に、新たな行政機関として【異能力庁】の設置を発表いたします』
それは、裏と表が混ざり合った、新しい世界の誕生の瞬間だった。
【死者に権利を 咎人には償いを】編 終
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