第227話 行いの結果は
「衛藤さんがいるってことは…特対がこのアジトの場所を突き止めたって事か」
突然の攻撃で壁が取っ払われ、外の景色が視界に入って来る。
と言っても、もう午前零時をとっくに回っている時間だ。
景色は暗闇しかなく、視覚から入って来る情報で場所を特定するのは難しい。
だが、鼻に入って来る"磯の香り"と僅かに聞こえる"潮騒の音"から、ここが海に近い場所に建てられているという事は分かった。
それともう一つ。
壊れた壁の下の方から照明の光を感じる。
つまり今俺たちの居るこの部屋は、地上から離れた高い位置のフロアにあるということだ。
能力的プロテクトの施されていた、人のあまりいない海沿いの場所にある建物。それが尾張のアジトのひとつに使われていたってことになる。
「卓也くん気を付けて。外にいる職員の何人かは、彼の命を狙っているわ」
能力で心を読んだであろういのりが俺に助言をしてくれる。
おそらく鬼島派と衛藤派が半々くらいの割合でここに押し寄せているな。
その中に、衛藤さんの指示でいつでも攻撃できる者が…。
「ありがとう、いのり。まずは俺が外の様子を見る」
「塚田さん…」
「特に尾張は、顔を見せた瞬間ズドンっ……という事も有り得るからな」
俺は警戒しながら外の様子を窺う為、壁(があった場所)に近付く。
そしてゆっくりと顔を出し下をのぞき込むと、こちらを照らす多くの大型バッテリーライトの中に特対職員を確認することが出来た。
パッと見ただけでも、鬼島さん・衛藤さん・四十万さん・駒込さん・大月・清野・護国寺などなどなど…。他にもネクロマンサー対策本部の面々が大勢こちらを見ている。
関係者総動員といった感じだ。
「…!塚田」
「塚田くん…」
「…どーも。鬼島さん、衛藤さん」
顔を出した俺に真っ先に衛藤さんが反応し、それに続き鬼島さんや他の多くの職員が俺を認識した。
俺がアジト内部に居る事は予想外だったようで、驚きの表情を見せている。
「何故キサマがここに…?尾張はどうした?」
「あー…尾張なら俺の後ろで保護者と一緒に待ってますよ」
「なに…?」
「もう抵抗の意思はありません。だから衛藤さんの部下が構えてる銃を下ろさせてください」
視界に入っている職員に武器を構えている者はいない。
しかしいのりが教えてくれた攻撃態勢の職員が居るという情報は、つまりは見えない所で待機しているという事だろう。
まずはそいつらを排除しないと。
「…それは出来ない相談だ」
だが衛藤さんは、俺の提案を拒否したのだった。
「…ちなみに、理由を聞いても?」
「今俺が話している塚田はとっくに殺されていて、操られている可能性があるからだ。そもそも、我々よりも早くそこにいて、とっくに解決しましたというのが妙な展開だろう?」
一理ある。
状況的には、追いつめられた尾張が俺という存在を盾に時間を稼いで逃げようとしているように見えなくもない、か。
早さについては、俺にいくつもアドバンテージがあったのと、謎の協力者が居たのだが、そこを議論している場合ではないな。
「確かに衛藤さんの言う通りですね。では泉気抑制剤をこっちに寄越してください。この場で摂取して、俺が死者でない事を証明してみせますよ」
俺もひとつ持っているが、そんなものを使用したところで難癖付けられるのは目に見えている。
であれば、手っ取り早くそっちの誰かが持っている物を目の前で摂取してやればいい。
「そんなことをしている内に逃げられるかもしれないだろう。もし抵抗の意思がないというのなら、さっさと姿を見せろ。こちらには銃を構えている職員は居ない。見れば分かるだろう」
俺の提案も無視し、そんなことを要求してくる衛藤さん。
だがこちらも、見えない場所に
ソイツらを下がらせない事には膠着状態が続く。
しかし、そんな状況を見かねた鬼島さんが助け舟を出してくれる。
「衛藤くん。もういいだろう」
「…鬼島さん。"もういい"、とは一体何のことですか?何がいいんですか…?」
「君の伏兵を下がらせなさい、と言っているんだ。塚田くんもそんなことは分かっているだろう。でなければずっとこのまま…いや、折角降伏した尾張も気が変わるかもしれないぞ」
鬼島さんは俺の考えまで代弁し、衛藤さんを説得してくれた。
しかし、そのことが衛藤さんの"スイッチ"を押してしまうことに。
「…降伏?抵抗の意思はない?それがなんだと言うんだ!あれだけ世間を混乱に陥れて、あれだけ無関係な人間を殺して、それで謝ったらもうおしまいか!?」
「衛藤くん…。何もおしまいとは……」
「改心した能力犯罪者の行く末は、我々に絶対服従で、セキュリティの厳重な檻の中でぬくぬくと過ごし続ける、だ。
「それは…」
「それではヤツに殺された矢次郎や、矢次郎の奥さんに申し訳が立たないだろう。"死者と暮らせる世界"などという
捕らえた凶悪犯罪者、そして現場で散っていった多くの同胞を知っている衛藤さんだからこその訴え。
尾張が降伏したという俺の話が本当だった場合の今後の処遇を予想し、そんなことは許されないと言う。
「だが…それでもわざと殺すというのは」
「やけに尾張の肩を持つな、鬼島」
「…別に肩を持っているワケでは」
「ヤツに生き返らせてほしい人でもいるのか?例えば、昔捜査している時に殺してしまった―――」
「!」
それまで冷静だった鬼島さんが、衛藤さんの言葉の途中で空気が変わる。
常に穏やかな鬼島さんから、今まで見たことが無い殺気が放たれていた。
それを受けた衛藤さんも臨戦態勢となってしまい、下はあわや同士討ちという空気にまで発展してしまう。
何が鬼島さんのセンシティブな部分なのかは分からないが、その"何か"を衛藤さんは知っており、思わず口を滑らせてしまったようだ。
かなり混乱しているマズイ状況だな…。
駒込さんや大月、衛藤派の職員も困惑した表情を浮かべている。
これでは尾張どうこうの前に職員同士での戦闘が始まってしまう。
しかし、どう収拾を付けようか考えていると、ある人物が声を張り上げた。
「おら塚田ァ!お前が尾張を引き渡さねえから大変な事になってんぞ!!さっさと尾張のツラ見せねえと、そのフロアごと爆破すんぞぉ!!!」
「…護国寺」
声を上げたのは、衛藤派の筆頭職員である護国寺真也だった。
彼が過剰なまでの挑発で皆の気を引く。おそらくこれは、彼なりの…
(ユニ)
(どうした?タク)
(融合するぞ。んでもってパワー全開で辺り一帯にプレッシャーをかける)
(いいのか?そんなことして。大勢いるぞ)
俺の提案に、ユニは確認をする。
今まで限られた人にしか明かさなかったユニの存在の片鱗をここで見せるというのだ。
そのことについて心配してくれているのだろう。
(……まあ、いいさ…。緊急事態だしな)
(タクがそう言うなら、やるか)
俺は護国寺とのプロレスを受ける為、ユニと融合をする。
髪は水色に変化し、額からツノがニョキニョキ生えた。
上位存在との融合で現れる身体的変化。黄泉の国でもやったし、先ほどはいのりのやつを目の当たりにしたばかりだ。
「……スゥ―――」
深く息を吸う。
全身に力が漲るのを感じる。人がたどり着けない領域の力。それが体を巡り、自分の意思で意のままに操ることが出来るようになった。
まだ開放していないにも関わらず、その膨大な波動は俺の体から溢れ周囲にいる者に主張する。
そして―――
「やれるもんならやってみろ!!!!護国寺ァ!!!!!!!!」
咆哮 雄たけび 怒号
言い方は色々だが、俺はリングの真ん中で「かかってこいよ」と自分の胸を叩く護国寺に、ロープを目いっぱい使い限界まで力を溜めたラリアットをかます。
その衝撃波は一触即発だった鬼島さんと衛藤さんの気を引くには十分すぎるパフォーマンスだった。
「塚田…くん」
「塚田…」
二人とも…いや、職員全員が大きく目を見開いてこちらを見ている。
それを確認した俺は、もうひと押しすることにした。
歯を思い切り食いしばり、眉間にシワを寄せ、目をかっ開いて、なるべく怖い感じで…
「どしたオラァ!!!やれよタココラぁ!!!!!」
二度目の叫び。
姿を見せていない衛藤さんの部下がブルって武器を落としちゃうくらい強めに。
少なくとも見えている職員は硬直しているので、いくらかの効果はあったようだ。
だがそんな俺に尾張が―――
「塚田さん、ありがとう。もういいよ」
と声をかけた。
そして、下に居る特対職員にも見える位置に自ら出てきたのだった。
「おまっ…!?」
「塚田さん、"終焉の地"で待つよ」
「え…」
尾張が俺にそう言うと、両手で頭から首にかけてガードをした。
次の瞬間―――
「ぐっ…!」
尾張の脇腹とみぞおちの辺りを、銃弾が二発貫いたのが見えた。
角度からして、真っ暗で見えない遠くの方からの狙撃と思われる。
「おわ…」
短く呻き声を上げる尾張に駆け寄ろうとしたところ、それよりも早く"手足を失った朽名"が近くに転移してきて、そのまま尾張を連れてどこかへ転移してしまった。
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