第219話 今更マスコットかよ
「…さよなら、西田。ありがとな……」
俺の腕の中で黒い霧となっていく西田を見ながら、ひとり呟く。
無感情で虚ろな彼女の表情を見るのは辛いが、4ヶ月前よりかはマシ…なんだろうか…。
自分の気持ちを整理したつもりでいたが、いざ…となるとやはり乱されてしまうな。
この後に本隊が攻めてくるとしたら、尾張は中々のやり手だ。
「…パイ」
いや、そうじゃないだろ。追撃がある前提で動かないと。
敵も本腰を入れてきたと見て、その上で、それを全部潰さないと。
「セン…ってば」
おそらく同時に特対なんかにもアタックをかけているだろう。
玄関に置いてきたスマホで四十万さんか志津香に連絡を…。いや、もう向こうから何かしら入って来ているかもだ。
そうと決まれば…
「ちょっと、センパイ!!」
「五月蠅いな!今考えて……る…」
「無視しないでくださいよー、もう」
「西田、なのか……?」
ソコには、"黒いリス"がいた。
「モモンガです」
モモンガがいた…。
そのモモンガから、西田の声がしている。
ぶっ飛び過ぎていて思考が追いついていないのだが、かろうじて質問を投げかけることが出来た。
「西田が…そのモモンガの中にいるのか?」
「はい!厳密にいえば、影に"感覚移譲"で意識を移して、その影でモモンガを象っている。というところです」
スゴイな。そんなことまで出来るのか…。
てか、何故モモンガ…?
「この前センパイにお会いした後に、やっぱりネクロマンサーが私の意識を奪って操り人形にしようとしたので、その前に意識を移しておいたんです。で、コッソリとアジトに潜伏していたと」
「そうだったのか…。なんというか、ファインプレーだったな」
「えっへん」
誇らしげに語る西田。
「で、さっきセンパイが倒した私は、先日と同様影で作ったダミーです。本体はずっとアジトにいて、ネクロマンサーから命令が与えられている操り人形、というワケなんです!」
本体は今だ健在か。
だからこうして彼女の意識が無事なままなワケね。
「でもなんで西田だけが、いわゆる影分身で活動して、本体は動かさないんだ?さっきの奴らは本体だったろ?」
「それはですねぇ、ネクロマンサーの泉気節約のために私の影人形を死者の触媒にしたからです。私の本体が消されてしまうと、再復活は勿論可能ですが、私の影人形を使っている他の死者まで同時に消えてしまうので、私は大事に大事に隠してある…ということです」
西田が復活した当初は彼女の意思でそれを行い、意識を奪われた後は自動で人形を生み出し続けたのだという。
それを別の影に意識を移した西田が、傍から様子を見ていたらしい。
(我が家への襲撃が決まった時に、自分の分身に張り付いたとのこと)
「ってことは…西田を消滅させれば、今巷に出回っている死者の多くは消えるって事か?」
「ふふ。ひどい確認ですが、その通りですよ〜」
あっけらかんと話す西田。たいして酷いとは思っていないようだ。
「というワケで、早速行きましょうか」
「行くって、どこへ?」
「もちろんアジトですよ」
「いや、それが分かれば苦労はしていないんだが…」
「分かりますよ。この前は感じませんでしたが、今は本体の位置をひしひしと感じています」
サラっととんでもない事を言う西田。それは今や誰もが欲しい情報だ。
「まじ?」
「まじです。あ、でもアジトはいくつかあるみたいなので、もしかしたら私の本体の近くにネクロマンサーはいないかもしれません…。でも、死者の数は大幅に減らせますから」
「…大分進展するな」
尾張が西田の本体近くに居ればベスト、居なくても西田を…消すことが出来ればベター。
これは行かない選択肢はないな。
「じゃあ、案内してもらえるか?」
「はい!」
西田が元気よく返事をした、丁度その時―――
「塚田さーーーーーん!!」
空から、俺の名前を呼ぶ声がしたのだった。
声のする方を向くと、暗くてよく見えないが飛行する物体がチラホラある。
何だ…?
「塚田さん!」
「あっ…お前ら」
大きな鳥に乗ってきたのは、チーム黄泉の面々だった。
結界を解除してやると、庭には二羽…ではなく三羽の鳥が降り立つ。乗っていたのは市ヶ谷・守屋・稗田の三人だ。
こんな…明らかな門限違反の時間に一体何があったのだろう。
何かのっぴきならない事態があったということか。
「塚田さん、大丈夫でしたか?」
「ああ、俺はね…。そっちこそどうかしたのか?守屋」
「実は…」
守屋は先程聖ミリアムで起きたこと、俺を心配して駆けつけて来てくれたこと、八丁・小川・岩城の三人が学園の留守番をしていることなど、これまでの経緯を簡単に話してくれた。
まさか尾張のヤツが学園にも刺客を送り込んでいるとは思わなかったが、何事もないようで良かった。
「塚田さんも襲われてたんですよね?」
市ヶ谷が心配そうに訪ねてくる。
「いや、こっちも問題ない。さっきまで十人来ていたが、全員帰っていったよ」
「…お見事」
苦笑いする稗田。
こちとら名探偵ですから、たかが十人に遅れを取るまい。なんてね…。
「ところで、その肩に乗ってるモモンガは?」
守屋が指をさして訪ねてくる。
確かに、こんな動物を肩に乗せるキャラじゃないしな。
しかし今から俺と西田の関係を話すのは面倒だし、あまり気乗りはしない。
端折るか。
「コイツはな、俺たちを尾張の居るところまで案内してくれるかもしれないお助けキャラだ」
「え?」
「キュキュー♪」
驚く三人と、それっぽく鳴く西田モモンガ。
ていうか、鳴き声それで合ってるのか?
「詳しい説明は省くが、守屋」
「は、はい」
「悪いがすぐに移動したい。鳥を用意してもらえるか?」
「分かりました!」
「鍵とかスマホ取ってくるから、少し待っててくれ」
俺は出掛けるために、一度家に入り必要な物を取ろうとした。
すると玄関先に置いておいたスマホの小さいランプが点滅しているのが目に入る。
「なんだ…?」
スマホを手に取り画面を点けると、俺が死者と戦い始めた直後くらいの時間に
いのりからの不在着信と、一通のメッセージが届いていた。
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From:いのり
助けて
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