第218話 今度は

 襲撃部隊を全滅させた特対の面々は、お互いの働きを称え合い、喜んでいた。

 そんな中…


「危ないところでしたね!駒込さん」

「あ、ああ…助かりました」


 朽名にラストアタックを決めた職員が駒込のもとに駆け寄る。

 会心の一撃を敵のリーダーに決められたことが嬉しいようで、若干鼻息が荒い様子だ。


 一方の駒込は、朽名が完全に"かつての先輩"に戻ったと思われた矢先の出来事に、少し悔しさを感じている。

 が、それはあくまで自分の感覚に過ぎず、攻め込んできた相手に容赦をしないのは特対職員として至極真っ当な行いのため、ただ礼を言う事しか出来なかった。


「いやー、でも清野さんの情報通りでしたね。奇襲作戦」

「ええ、そうですね…」

「最初は裏切ったんだと思ってましたけど、諜報活動のためだったなんて…。流石は能力者嫌いですよね!」

「……」


 男が語るように、今回の死者による奇襲作戦の情報は清野誠からもたらされたものであった。

 実際に場所、日時、大まかな編成など全て清野からの報告どおりの内容で作戦は行われ、特対はそれに的確に対応することができた。

 仮に不意打ちを決められたとして、制圧されるような戦力を有していなかった事は結果として感じたが、それでも被害を最小限に留められたことは彼の功績と言える。


 しかし駒込は、その"らしくない"行動に少しだけ疑問を抱いていた。

 駒込の頭の中の清野像は、潜入捜査などせず、相手が渦中のネクロマンサーの一味と分かれば問答無用で始末するような、そんな人物である。

 むしろこちらが情報を引き出すために生け捕りを命じても、それを無視して引導を渡すような、そんな人間であると認識していた。


 にも関わらず今回は数日間ネクロマンサーの仲間と行動を共にした上で、特対内で裏切りの噂がまことしやかに流れた直後の情報提供である。

 駒込はここに何かしら別の意思が介入していると疑わずにはいられないが、今のところ確たる証拠も証言もないため、湧いて出た疑問は一旦引っ込めることにしたのであった。



「…皆さん聞いてください!」


 作戦のリーダーを務める立場の駒込が、大きな声で部隊の注意を引く。

 すると今まで話していた職員たちはピタッと会話を止め、駒込の話に耳を傾け始めた。


「迎撃は無事成功しました。このような結果に繋がったのも、皆さんの尽力のおかげだと感じております。なのでまずは、お礼を言わせてください…。ありがとうございます!」


 駒込が頭を下げると、控えめだがハッキリと拍手の音が聞こえてきた。

 部隊の多くは彼よりも年上の職員で構成されているが、誰も彼を頼りない、未熟だ等と評価したりはしない。

 むしろ鬼島部長代理の補佐は彼こそが相応しいと、高く評価しているのだった。


 能力はどちらかと言うと補助向きだが、それを工夫と体術で最大限活かした高い戦闘力。

 常に公平かつ俯瞰的に物事を見ることができ、特定の思想に偏りにくくどんな時も動じることのない(ただしT氏関連は除く)優れた精神性。

 そして物腰柔らかく相談や報告がしやすい社会性を兼ね備えた職員。

 そんな彼が指揮を執るからこそ、周りも安心して戦うことが出来るのであった。


「えー、このあとは分析班が死者たちの残した遺留品を調べますので、我々は15分後に先程の会議室に戻って任務の報告を―――」


 少しの休憩のあと打ち合わせをするため、一旦解散することを指示する駒込。

 そして「解散」の一声で本部ビル前から撤収していく職員たち。

 朽名たちによる襲撃作戦は、失敗に終わったのだった。


 だがこのあと、ネクロマンサー事件は急転直下する…









 __________










「オラァ!!」


 俺が『物体を金属に変える能力』の青年の頭を砕くと、その体は他の死者と同様霧散していった。

 これで西田以外の九人は全員倒した。

 みな随分と攻撃的な能力を持っていたが、意志のない傀儡なら下手な補助能力を入れるよりかはマシだと考えたのだろう。


 とはいえ、一斉攻撃程度にやられる俺ではない。


「お待たせ、西田」

「…」

「順番に意味なんて無いけどさ…何となく、最後にしてみた」

「…」

「…って、言っても仕方ない、か。はは…」


 何を言っても反応しない西田。最早俺のただの独り言になっている。

 もう呼びかけても彼女の意識が戻ってくることは……無さそうだ。


「…懐かしいね、それ」


 俺が独り言を呟いていると、地面から影人形が数体現れる。

 それぞれ手の形状が刀だったり槍だったりハンマーだったり。まるで4ヶ月前の再現のようだった。


 能力者になった俺に、初めて死の恐怖を感じさせた存在。

 感情の分からない冷たいフォルムと殺意を体現した武器は、見る者の足をすくませ手を震えさせるに十分な威圧感を放っている。


 光を反射しない漆黒の剣や槍は、生身なら皮膚や骨や内臓など容易く貫く程の鋭さを誇る。

 体験した俺が言うんだから間違いない。あれは痛かった。

 でも―――


「…その攻撃は効かないって、この前も見せただろ?」


 複数の影人形が、体の一部となった武器で俺に攻撃してきている。

 しかし、その刃は俺の皮膚はおろか服にさえ傷ひとつ付けることが出来ていない。

 2度目の襲撃の際、本社の近くで俺が不意打ちを受けた時と似ている。

 あの時も、もう俺に影の攻撃が届いていなかった。


「…」


 俺に効かないのにも関わらずしつこく繰り返される攻撃を見て、目の前の西田には先日の経験思い出が蓄積されていない事を改めて実感した。

 少し、寂しい。


「っ―――!」


 まとわりつく影人形を吹き飛ばすと、俺はゆっくりと西田に歩いて近付く。

 西田は逃げたり距離を取ったりせず、体や地面から影を伸ばし俺に攻撃をしてきた。

 が、全て俺にダメージを与えることなく止まる。

 そして、俺が西田の目の前まで来ると…


「………」


 なんと、攻撃を止め、両手を広げたのだった。

 これが何を意味することなのか確認のしようがないが、超自分本意な解釈をさせてもらうとするならば―――


「今度は、ちゃんと送ってやるからな…」


 俺は、西田の胸を右手で貫いた。


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