第209話 【お願いネクロマンサー】 TT 230万回閲覧 2時間前

「ネクロマンサーさん…貴方に折り入って、お願いがあります」


 カメラの前でそう話すのは、学生服を着た青年である。

 机も何もない寂しい部屋で、椅子に座った青年がひとりで黙々と話す。、

 これは、真里亜の能力で顔を変えた稗田だった。

 制服も聖ミリアムの物とは若干異なるデザインとなっており、彼は"架空の学生"を演じ動画に出ていた。


「どうか…僕の母を…蘇らせてください…!」


 カメラ目線で、神妙な面持ちで、彼はネクロマンサーが動画を見ている事を願いそう話す。


「僕の母は、僕が小さい頃に交通事故で亡くなりました…。居眠り運転のトラックから僕を庇って…亡くなりました…!」


 青年が悲痛な叫びをしたところで、画面が切り替わる。

 左上には『※事故当時の再現VTR』と注釈が入っており、ある子連れの親子が路地を歩いているシーンが始まった。

 男の子はまだ幼く、母と手を繋いで歩いている。


 そして母親は、見た目が『尾張広恵』であった。


 買い物帰りと思われる二人が仲睦まじく話しながら歩いていると、そこに一台の軽トラックが走って来る。

 歩道と車道の境目が無いこの路地では減速して走行するのが普通であるが、そのトラックはスピードを緩める気配がまるで無かった。

 何故なら、運転手が完全に寝落ちしているからだ。


「!? ハルちゃん、危ない!!」


 母親がトラックの衝突から庇う為に、咄嗟に息子を突き飛ばす。

 そして直後、母親の体が宙を舞った。


 特対のデータベースに残されていた、尾張広恵の事故のドライブレコーダー映像。

 その"ほぼ完全再現"VTRなのであった。

 異なる要素は事故現場と男の子の年齢くらいで、他の部分に関してはかなりリアルに再現している。



 尾張悠人のトラウマを刺激するには十分な再現度であった。



「母は…僕の身代わりになって…!」


 場面は再び青年のワンショットに切り替わる。

 声色は今にも泣きそうなほどであった。


「母は皆から慕われていて…仕事も出来て…僕なんかの為に死んでいい人じゃなかったんです。僕のせいで…あの時僕が死んでいれば良かったんだ…!!」


 両手で顔を覆い、そう叫ぶ青年。

 母親が亡くなったのは自分のせいだと話す様子は、誰かに言い聞かせているようであった。


「…ネクロマンサーさん。もし僕の母を蘇らせてくれるなら、概要欄のアドレスにメールをください。必要なら、母の遺骨もあります。母が亡くなったのは14年前ですが、大丈夫ですよね?蘇った人のニュースを見ると、ここ10年くらいの人ばかりで…少し不安になって…。期限とかって無いですよね?」


 死んだ時期を強調する青年。

 しきりに自分の母は手遅れじゃない事を確認している。


「死者が普通に暮らせる世界、応援しています。どうか、僕の母を…よろしくお願いします」


 ここで動画は終わる。

 この十数分の短い動画はたちまち流行り、同じように大切な人を蘇らせてほしいという訴えをする類似動画が次々に投稿された。


 これがネクロマンサーに向けた卓也の3本の矢のうちの1射目である。


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