第210話 【ネクロマンサーさんありがとう】 プライバーT 530万回閲覧 2時間前

「まず、貴方のお名前をお聞かせ願えますか?」

「はい。ボクは本多翔琉と言います」

「ありがとうございます。本日はネクロマンサーへの感謝のメッセージ動画ということで、お付き合い宜しくお願いします」

「宜しくお願いします」


 動画が始まると、ある簡素な部屋に向かい合うように2つ置かれた一人用ソファにそれぞれ座る、ふたりの人物が映し出されていた。

 片方は真里亜の能力で少しだけ姿を変えた卓也。

 もう片方は、先日卓也がゲームセンターで知り合った"死者"の少年であった。


 動画内容は、卓也がする質問に本多が答えるという対談形式となっている。


「えー、ではメッセージの前にまず、本多さんについて、少しお話を伺ってみたいと思います。貴方はネクロマンサーに蘇らせて貰った"死者"、ということでお間違いないでしょうか?」

「はい。間違いありません」

「本多さんは約3年前、14歳の時に交通事故にあいお亡くなりになられ…。で、先日、ネクロマンサーに蘇らせて貰ったと聞きました」

「はい。薄暗い部屋で目を覚ましたボクは、ネクロマンサーの代理と名乗る人から、ボクが一度死んで蘇らせて貰ったことを聞きました。そして、そのまま家に送ってもらいました」

「その時、警察に行けとか、そういった指示は受けなかったんですか?」

「はい。また家族で幸せに暮らしてねって…。それだけです」

「なるほど」


 ここまでは、先日ゲームセンターで卓也が聞いた本多の現状の確認である。

 彼は戦闘要因でも広報要因でもなく、『ただ蘇らされ日常に戻った』死者であった。

 しかも本多だけが特別なのではなく、そういった境遇の者も一定数いるのだと、卓也はその後の調査で知ることができた。


「あ、でも…ひとつだけ、連絡事項がありました」

「それは、どんな内容ですか?」

「個人差はあるみたいですが、およそ1ヶ月ほどでボクらが動くためのエネルギーが切れるから、後ほどその補給のためのキットを送ると…」

「だむさんという動画投稿者の方が自身の動画で語っていたヤツですね。確か…泉気という」

「ああ、そうです」


 全ての死者に伝えられたであろう、活動するために欠かせない泉気の補給方法。

 今回尾張は蘇らせた死者の家に経口補給タイプのキットを送る形でそれを解消するようであった。

 恐らく転送能力か何かで足がつかないよう用心して送ると思われるので、そこから逆探知するのは難しい。

 もちろん卓也もそれを手がかりにしようなどとは考えていない。



「さて、本多さんには簡単な自己紹介をして頂きましたが。ここで、この動画の主旨であるネクロマンサーへの感謝の言葉を述べて頂こうと思います。それでは、あちらのカメラに向かってメッセージをどうぞ」


 卓也が本多を促し、カメラの方へ改めて向き合わせる。


「えー、ネクロマンサーさん…ありがとうございます。直接お会いしたことがないので分からないかもしれませんが、貴方に蘇らせて貰った者です。今日は貴方にお礼が言いたくて、動画撮影の場を設けて頂きました。塚本さんも、ありがとうございます」

「いえいえ」


 画角の外にいる卓也にもお礼を言うと、それに声だけで応える。

 ちなみに"塚本さん"とは、動画内で本名を言わないようにお願いした結果生まれた偽名であった。


「ネクロマンサーさんのおかげで、両親ともう一度話すことができたり、友達とまた遊ぶことが出来て、毎日楽しく過ごしています。だから、貴方には本当に感謝しています。ありがとうございます」


 頭を下げて礼を言う本多。

 それを微笑ましそうに見守る卓也の様子が、ワイプで映っていた。


「では本多さんはこれからも、泉気を継続的に補給して、このまま生活していくということですね?」

「……………いえ。それはないですね」

「おや…?」


 卓也の質問に当然「イエス」と返ってくると思っていたため、理由を聞くことに。


「何故ですか?話を聞く限り、今とても充実していると言う事でしたが…」

「今は、そうですね…。でも、この1週間、友達と過ごしてみて思ったんです。ああ、皆はどんどん成長しているんだなって…」

「成長…ですか?」

「はい。皆は高校に進学して、背も伸びて、新しい事をどんどん学んでいて…。でも、ボクは知識も、身長も、年齢も、3年前のままなんです…。ボクは学校に通えもしない。身長なんて当時はボクが一番高かったくらいなのに…」


『ははは…』と苦笑いする本多。

 その表情はどこか寂しそうだ。


「でも、ネクロマンサーさんの提唱する世界が実現したら、また学校にも通えるようになりますし、普通の生活が戻ってきますよ」

「でも、そこにはアイツら―――あ、友達は居ないんですよ…」

「…そう……ですね」

「他の人たちはどうか知りませんが、ボクは"ただ元の生活に戻れればそれでいい"ワケじゃないんです。両親と、友達と、一緒に歩いて行きたかったんです」


 うつむき、そう語る本多。

 彼のささやかな願いは、もう叶う事は決してない事を、彼自身が良く理解していた。


「…あ、でも。ネクロマンサーさんに感謝しているのは本当です。3年前はお別れの挨拶すらできなかったんで」

「そうですよね…」

「だから、何度でも言います。最後にちゃんと挨拶する機会をくれて―――」














 ________














 また別の相手との対談


「チビが生まれてすぐに、過労死しちまって…」


 本多とは別の、役割を与えられていない死者。

 30代中盤の男性。妻子持ち。

 5年前に子供が生まれて間もなく、家族のために気合いを入れて働き続け、そのまま亡くなってしまった。


「俺は、もう延長はしないかな」

「…何故ですか?」

「……家に帰ってよ、5歳のチビと一緒に寝たんだよ。そしたらよ、こーーんな↓小さかったチビが、こーーんな↑大きくなってたんだよ。いやぁ、子供が成長するのは早いもんだなぁ!」


 我が子の成長を嬉しく思う男。


「んでよ、そん時思ったね。ああ、俺が居なくても、子供はこんなに大きくなるんだなって…。もちろんこれから小学校の入学式とか、成人式とか、孫の顔とか、見たいもんはいっぱいあるよ?でもさ、やっぱ死んだ俺がこれ以上世話するのは不自然だと思うんだなぁ。このままじゃいつ働けるようになるかわかんねーし」


 死んでいるのにも関わらず底抜けに明るい男性を見て、卓也も思わず笑みがこぼれる。


「カミさんと最期に話した言葉が『行ってきます』ってんだから笑えねーわな。だから、ネクロマンサーには感謝してるよ。ちゃんと最期に『逝ってきます』ってお別れできるんだからよ!ガハハ―――」




 またまた別の相手


「いやー、帰ったらウチの猫ちゃんが怯えちゃって怯えちゃって!やっぱ死んでるかどうかって分かるのよねぇ!」

「はは…」

「でもまあ、最後に一目見られて良かったわよぉ。だからね―――」





「「「ありがとうネクロマンサー!もう思い残すことはありません!!」」」





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