第206話 チーム黄泉
「あ、兄さん」
「真里亜…」
指定された会議室に行くと、俺以外のメンバーは既に揃っていた。
市ヶ谷たち被害にあった生徒四人。
守屋と稗田。
そして呼んでいないのに当然のように居る真里亜の七人が、行儀よく着席していた。
「…その娘は誰ですか?」
そして当然のように、俺の隣に立つ廿六木に疑問を持つのである。
「あー…彼女は…特対職員で、俺の協力者だ。仲良くしてくれとは言わないが、一先ず信用してくれていい」
「廿六木 梓と申します。現在警察は尾張さんの件で複雑な状況になっていますが、私は塚田さんに全面的に協力するつもりで来ました。信用して、仲良くしてくださいね」
「……」
先程までの迫力を消し笑顔でアピールする廿六木に、男子(ていうか稗田)が鼻の下を伸ばしている。
あ、守屋に耳を引っ張られてる。
あの二人、事件後に付き合い始めたって言ってたよな…稗田から告って。
「本当に信用できるのですか?」
彼女の可愛さも女子には通用しないのか、真里亜はまだ訝しげな顔をしている。
「能力の高さと、少なくとも俺がこれからやろうとしている事を妨害しようだとか、そういった心配はないとだけ。生涯の友となりうるかは不明だけどな」
「信用してくださいよ。私は皆さんを信用しているからこそ、妹さんの10メートル以内にこうして無防備にいるんですから」
「…」
真里亜の能力は当然把握しているだろうが、有効範囲までとはな…
「…そうは言っても、貴女の能力を私達は知りません。一方的に知られている相手を信じろと言われても…」
「確かに、それもそうですよね。私は【生命力を操る】能力を持っています」
「あっさり話したね」
稗田が思わず反応する。そう言うのも無理はない。
報告義務がなければなるべく隠しておきたいと思うのは、一度でも戦いに身を置いたものであれば当然の思考だ。
多くの能力者にとって能力を知られるのは弱点を知られる事と同義。
それは固有能力の無い開泉者も同じで、固有能力が無いという弱点を知られてしまうからだ。
しかし真偽はどうあれ、廿六木は
嘘であれば信用を失うし、真実ならば弱点を晒すことに繋がる。
そこに躊躇いは無いのだろうか。
つか、そもそも生命力を操るってどんな能力なんだ…?
「抽象的すぎて分かりにくいですよね。私は泉気とは別のエネルギーを使って色々と出来るのですが、例えばその中のひとつに"残機を増やす"というものがあります」
「残機…?」
一同、まだピンと来ていない。
俺もだが。
「からあげだろ。サバイバルで困らないな」
「それはザンギです、兄さん」
「ふふ…。残機というのは、よくテレビゲームで使われる"挑戦回数"の別名ですね。緑のキノコで1UPしたりする」
「ああ、あるね」
「私は他の人からコツコツ集めた生命力を残機として溜めておくことができるんです。もし私が死ぬようなダメージを受けても、残機を消費することで元通り復活することができます」
「なるほど…」
何か凄そうだが、現状は『と言われても…』になってしまう。
「百聞は一見にしかず。能力をご覧に入れて差し上げます」
「…?」
そう言うと廿六木は、自然な所作で鞄から拳銃を取り出し、自らのこめかみに当てた。
「え…?」
「ちょ…」
「っ…」
多くの者が突然の行動に理解が追いつかず間抜けな声を漏らしている中、廿六木はサラッと―――
「妹さん、後片付けお願いしますね」
と言い、微笑みながらサラッと引き金を引いた。
直後、室内にパンっという発砲音が鳴り響く。
「…………どうして邪魔をするんですか?」
銃から発射された弾丸は廿六木の頭を貫通することなく、寸前で潜り込ませた俺の硬化した右手の中で止まった。
掌から伝わる衝撃と熱が、拳銃が紛れもない本物であることを示している。
「年端もいかない少年少女の前で、その証明は止めてもらえるか?」
「私もまだ18歳なんですけどね…あたっ」
右手で廿六木の頭をチョップする。
「だったら、尚の事そんな方法は止めなさい」
「…………はぁーい」
俺がペンや缶コーヒーを重くしたりするように、これが彼女の能力証明のパフォーマンスなのだろう。
視覚的なインパクトは抜群な上、超能力でなければありえない効果をもたらす。
最適なやり方だと思う。
しかし、こんなやり方は生徒たちに刺激が強すぎるし、命を粗末にするようであまり気分の良いものではないな。
「じゃあ、別の方法で」
結局彼女は手から剣のようなエネルギーを発生させ、俺の手帳の1ページを斬るという大人しめのパフォーマンスで済ませることに。
真里亜も突飛な廿六木の行動に驚きつつ、疑いの目を一先ずは収めたのだった。
「さて、話は大分逸れてしまったが、皆最近のニュースは見ているよな」
「大変な事になってますよね」
市ヶ谷が相槌を打ってくれる。
今の廿六木のパフォーマンスにも一切反応を見せなかったあたり、黄泉の国を経て最もメンタルが鍛えられた生徒だ。
個人的な理由で白髪を元に戻さないので、事情を知らない人からはメンタルをやられたと誤解されてしまっているのが少し可哀想だが、本人が気にしていない様子なのであまりお節介はしないことにした。
「そう。ヤツは今、引き篭もって新世界を創るため色々と画策している。居場所は分からず、電子的・能力的なサーチにも一切引っかからない状態だ」
「特対も人員を投入し、窓の無い建物や能力がかかっている建物を
廿六木の言うように、動画公開からもうすぐ1週間が経つが、未だに尾張の潜伏場所が掴めていない。
徹底した情報管理によるプロテクトは、特対の総動員でも看破できないのだ。
「そこで俺は切り口を変えてみることにしたんだが、その方法には皆の力が必要なんだ」
「どんな方法なんですか?兄さん」
「ああ、それは―――」
俺は皆に、やろうとしている事の概要を説明した。
正直あまり気持ちの良い方法ではない…そう思う者が出てきてもおかしくない内容なのだが、最後まで静かに聞いてくれた。
そして一通り説明が終わる。
「勿論強制はしない。キミらの中には、米原ないし尾張の事はもう忘れたいと思っている者もいるだろう。もしくは尾張の創る新世界に興味があるという意見もあるかもしれない。あくまでそれは個人の考えだから、俺が変えようとも思わない」
「「……」」
「俺が特対の手も借りず動いているのだって、個人的な理由によるところが大きいからな。でも…」
俺は皆を一度見て、言葉を紡いだ。
「死者といつまでも一緒にいる世界を、俺は良しとしない。誰かと死別するという事は悲しい事だが、それを乗り越えて今があるんだと思う。だからこれ以上混乱を招く前に、尾張の企みを阻止したい。どうか、力を貸してくれ」
座ったまま、俺は皆に頭を下げた。
メンタルケアと言いながら、事件に再び関わらせようとしているのだからひどい話だ。
せめて気兼ねなく断ってもらってもいいように、前置きをしつつ…だが。
俺は皆の反応を見るために頭を上げた。
すると…
「いやいや、水臭いですよ。今更」
と、市ヶ谷が笑いながら話す。
「そーそー。てか私たち、尾張に殺されかけてるからね。普通に恨んでるわよ。ねえ、小川ちゃん」
「そうですね…。命の恩人である塚田さんに協力しない理由はありません」
「僕もです。塚田さんが居なかったらと思うと、ゾッとしますよ」
八丁・小川・岩城の三人も市ヶ谷に続く。
「私もヒデくんも協力します。いいよね?」
「勿論です!そもそも萌絵を殺そうとしたこと、今でも許してませんからね!」
稗田・守屋ペアも了承してくれる。
稗田の鼻息がかなり荒いな…。
「私も当然OKですよ、兄さん」
「ありがとう。真里亜の能力は動画制作とフィールドワークで重要だから、頼りにしてるぞ」
「はい!」
真里亜には別でお願いしようと思い10時からの打ち合わせには呼んでいなかったが、結果的には良かったかな。
「では、私は機材やロケーションの準備等を進めていきますね。撮影は明日でしたっけ?」
「ああ、ここのみんなで撮影する動画は明日用意しようかと思う。でももう一つ、撮影したいのがあって、それは準備が出来次第追って廿六木に連絡するってことでいいか?」
「はい。編集なども担当いたしますので、いつでもお申し付けください」
「助かる」
「では、私の準備が出来ましたら塚田さんに場所と時間をお伝えしますので…。今日の19時頃にはお伝えできると思います」
「ああ。皆には俺から連絡するから、各自外出の準備を頼む」
皆から元気な返事が聞こえた。
一先ず尾張炙り出し作戦のひとつの目処が立った。
同時進行で聞き込みと捜索もしないとな。
あ、廿六木の情報収集能力を利用してもうひとつ探しものを…
「塚田さん」
俺が脳内で今後のプランを考えていると、市ヶ谷が声をかけて来る。
「おう、どうした?もし用事があるなら授業に戻っていいぞ?道場は昼飯食ってから―――」
「いえ、もう残りの授業はサボるので、今すぐ行きましょう」
「お…おう。そうか。じゃあ、行くか?」
俺は市ヶ谷に言われ、予定を少しだけ早めることにした。
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