第175話 超一角獣タクヤ
黄泉にある巨大闘技場
(ごめん、タク…)
闘技場の中心で肩甲骨ストレッチをしている俺に、ユニが滅茶滅茶申し訳無さそうに謝罪してくる。
(あー…まあしゃーない。別にユニのせいって感じでもないしな)
(うん…)
(あのおてんば娘が大半悪い)
おてんば娘とは、琴夜の事である。大変だったんだ、あれから。
閻魔大王がキレちゃって、娘を簡単にはやれん!って…
結婚の挨拶に行ったら父親に殴らせろと言われる、昔のドラマにあるような展開だ。
こっちは琴夜を連れて行く気はさらさら無かったので丁重にお断りすると、それはそれでキレるし。
どうしろって言うんだ…
それでまあ、閻魔大王と戦うことになってしまった。
琴夜を連れ帰る条件は、閻魔大王に【良い一撃を与える】こと。
"倒す"ではないところに救いがある気はするが、"良い一撃"という曖昧さは少し怖いな。
しかもジャッジは閻魔大王に委ねられているから、向こうに琴夜を渡す気がなければ俺が倒されない限り永遠に終わらない。
流石に『負けたから全員現世に帰さない』何てことは言わないと思うが、安易に負けたフリをすることも難しいな。
はぁ…
(…なぁユニ)
(なんだ、タク)
俺はユニにあることを確認する。
(俺の"超人モード"で、閻魔大王に勝てるかな?)
(…)
ユニから見た閻魔大王と俺との実力差を聞く。
それによってスタートダッシュを切るかどうか決める。
そして少しの沈黙のあと、ユニが話し始める。
(百パー勝てない…どころか、かすり傷一つ付けられないと思う)
(そっか)
俺の予想通りの返答が聞けて安心した。
先程から時折見せる閻魔大王の怒気は、人の領域を逸脱している。
もしユニが俺に気を使って希望をもたせるようなことを言い、舐めてかかって1発KOなんてことになったら笑えない。
でもユニが正確な情報を伝えてくれたから、安心して最初から全力が出せそうだ。
向こうは譲歩して『全員でかかってきてもいい』と言っているが、流石に生徒たちは巻き込めないし、七里姉弟くらい強くないとかえって足手まといになってしまう。
ここで求められる強さは、能力の複雑さや緻密さではなく、純粋なパワーだ。
「本当にやるおつもりですか…?閻魔大王様」
「しつこいぞ…!お前は」
向こうでは葛さんとジャージ姿の閻魔大王が話している。
シュールな絵面だが、閻魔大王のデカさと威圧感がヤバイ。
あんなのと戦うのはモンスターハンティングだ。
しかも闘技場に設置された大砲とか大型槍とか駆使して倒すタイプのクエスト。
でも、見たところ使えそうな兵器はここには無いな。
「卓也さん、頑張ってください!」
閻魔大王を見ながら屈伸していると、琴夜が飛んでやって来た。
「お前はもう喋るな」
「えーーーー!」
俺のぞんざいな扱いに不服そうな琴夜。
閻魔大王に謁見できたのは他でもない彼女の手柄だが、その後の発言が本当に余計だった。
俺たちが帰った後こっそり業務に行くフリでもして来てくれればまだ良かったのに、どうしてあの場所で…ていうか親父の居るところで喋るんだよ。
「お前が余計な事を言うからこんな事になっちまったんだろうが…」
「大丈夫ですよ。お父さんは一度帰すと言った事を後から覆したりはしませんから」
「本当かよ…?」
「私が大手を振って卓也さんのところに行くための試練という事で、ひとつ。あとはお父さんの八つ当たりです」
「巻き込まれ事故感ハンパないな」
ていうか、大半は後者の意味合いだろう。まあ、帰してくれるんならいいけどさ。
でも、舐めた姿勢じゃやれないよな…
「準備は出来たか、小僧ォ…!」
あっちはメチャ本気だもん。
体から出るエネルギーが、全力では無いにせよ、『試してやろう』とか『指導してやろう』の感じじゃない。
娘の前で不届き者をワンパンしてやろうってハラが見え見えだ。
仕方ない、やるか。
(ユニ)
(あいよ)
(最初から出し惜しみは無しだ…あのモードでやるぞ)
(ほいきた!あたしとタクは一蓮托生だかんな!)
俺は閻魔大王に正面から向き合うと、全身から泉気を放出する。
「はぁぁぁぁぁ…!」
そして次に全身を巨大化させ、上北沢との戦いのときに見せた"超人モード"へと移行する。
予め上半身は脱いでおいたので、下着やスラックスだけ体と一緒にデカくする。
「ほぅ…」
大勢の生徒が見ているが、能力を隠している余裕もない。
俺は超人モードへの変身を完了させた。
「中々強そうじゃないか…。だがそんなものでワシは―――」
「慌てないでくださいよ。まだこれからです」
「何…?」
「ユニッッッッ!!」
俺が叫ぶと、ユニと俺は融合する。
CBの炎使い戦の時のように"一緒に戦う"のとはワケが違う。
完全に一体化する事でお互いの能力を【たし算】ではなく【かけ算】にする戦型。
「はぁぁ!」
気合いの叫びを放つ。
直後、全身にとんでもないパワーが漲って来る。
それを一気に爆発させ、開放させる。
俺の額からは、ユニコーンのシンボルであるツノが生えてくる。
そこが最も強く、エネルギーが凝縮されている場所だ。
そのツノが伸びきった時点で、変身は完了する。
体は超人、顔にはツノを携えた異形の姿。
超一角獣モードのお出ましだ。
「お待たせしました…」
まだ身長差は大きいが、先程よりも目線が近づいた閻魔大王へゆっくりと歩く。
「なるほど…それがさっき娘の言っていたお前の霊獣、ユニコーンか。素晴らしいな。完全融合を果たせるなんて、中々ないぞ」
完全融合とは霊獣と宿主、そのどちらかがどちらかを"支配"するのではなく、どちらの意識も存在しつつ一体となる状態の事を言う。
協力関係にある分、そのポテンシャルは凄まじい。
「面白い…!さぁ、かかって来い、小僧ォ!」
「行きます…!!!」
俺と閻魔大王、そのどちらもが相手に向かって走り出した。
琴夜を賭けて、お互いの力をぶつける。
スゲ~不本意。
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