第165話 葬送イイことなんてない

「あら、昨日の探偵さん。今日は早いのね」

「おはようございます寮母さん」


 俺と駒込さんと大月で、昨日も一度訪れた高等部寮へと足を運ぶ。

 そして入り口で寮母さんに調査だと言い、服部理事長から貰った特別な許可証入りのネームホルダーを見せると快く対応してくれたのだった。


「ちょっと話を聞きたい生徒が居るんですけど、今って生徒はみんな朝食の最中ですかね?」

「うーん…もうほとんど終わっているんじゃないかしら?一応食堂覗いていく?」

「あ、では…」


 寮母さんの提案で1階にある食堂を見させてもらったが、広めのフロアには生徒が数人いるだけで米原の姿はなかった。名前が隠れているような生徒も一人もいない。

 やはり部屋に直接行かないとダメだな。


「どう、いた?」

「いえ…」


 入り口まで戻り、寮母さんに目的の生徒が食堂に居なかったことを伝える。

 そして改めて米原の部屋の場所を聞き、早速向かうことにしたのだった。



「ここですね」

「ええ」


 寮母さんに教えてもらい辿り着いた、米原と書かれたドアプレートが付けられた部屋。

 外観は市ヶ谷や他の生徒の部屋となんら変わらない。ドアプレートで個性を出すような事もない。

 至ってシンプルである。


 「まず初めに私が行きますので、駒込さんと大月は少し離れていてください。まあ、いきなり襲い掛かっては来ないでしょうけど、念のため…」

 「分かった」

 「ん」


 俺だけが葬送の小太刀による攻撃を受けやすいよう、さり気なく二人を誘導する。

 そして――――


 ピンポーン…


 ドアの横に備え付けられたチャイムを押して、住人を呼んでみる。

 だが昨晩尾張を襲ったのが米原だとしたら、立て続けに二人の人間を黄泉に送った直後に来客など受け入れてくれるだろうか。

 もし警戒して出て来なかったら、ドアをぶち破って引きずり出そう。そうすれば抵抗して刀を使ってくるかもしれない。


『……はい』


 少しして、スピーカーから声が聞こえてくる。米原の声だ。昨日何度か話したから分かる。

 思えばカフェで俺に話しかけてきたのも、真里亜に近付く見知らぬ輩に探りを入れる…と見せかけて、イレギュラーな存在の様子を見に来たのかもしれないな。

 友人に囃し立てられて…って感じでも無かったし、彼は真里亜じゃなくて春日に気があるワケだしな。


 待てよ……、一見すると対象ではない尾張も、"怨恨"だとすればどうだ?


 傍から見ても春日の良き理解者であり、パートナーのような立ち位置の尾張を

 アプローチが伝わらず春日から煙たがられている米原が、疎ましく思い葬送した。

 小太刀はその手段として貸与され、ネクロマンサー陣営は貸与の見返りとして寮暮らしの完醒者を消させた。


 ハッキリ言って、そんな下らない嫉妬の為に五人の生徒を手にかけるなんて釣り合っていないが…

 米原が操られていないとして、強引に尾張失踪をこの件に組み込むとしたらこういう筋書きになる。

 まあそれも、このドア1枚を隔てた向こう側に居る本人に確認すればいいだけの事だ。

 少し無責任になってしまうが、少し離れた所に待機してもらっている二人に確保から取り調べまでを頼もう。


「朝早くに済まない。塚田真里亜の兄の卓也だ」

『あ、どうも…』

「実は君に、失踪した五人…いや"六人"の生徒について話を聞きたいと思って来たんだ。少しだけ時間を貰えないだろうか?」

『……………少々お待ちください』


 あえて最新の犠牲者数を言うことで、『俺はお前が犯人だって知っているぞ』と伝える。

 米原も、もし無関係ならば『四人じゃなかったでしたっけ?』とか、『そんなに失踪しているんですか?』と"即答"できるハズだ。

 たっぷりと溜めて答えたって事は、俺の問いかけを肯定したようなものだろう。

 お互いに『盟約に誓って』は済んだ。


 さらに俺は準備する時間をそれなりに与えている。

 獅子の面の男に話を聞いたかは不明だが、俺に対して部屋の中の物を能力で飛ばしたくらいじゃダメージは与えられない。飛ばすなら【葬送の小太刀】しかないぞ。

 それくらい分かっているよな…?


「塚田さん!左!!」


 ドアを正面に見据えている俺の右側から駒込さんの叫び声が聞こえてくる。

 声に従い左側を向くと、そこには昨日と同じく黒い刀が、空中で俺に照準を定めていると言わんばかりに亜空間のような場所から現れていた。


「っ!?」


 動揺した振りをして刀の方へと向くと、右手で部屋のドアに触れ能力で柔らかくする。これで後ろに居る二人はスムーズに部屋へと突入できるだろう。

 そして柔らかくしたのと同時に刀が俺へ向け発射された。

 咄嗟に左腕で防御の姿勢を取るが、当然刃はガードを貫通し俺の体を刺し貫く。


「塚田っ!」

「塚田さん!!」

 (タク!)


 三種類の声が届く。二つは心配の声。もう一つは"融合の合図"だ。

 俺は遠くなる意識の中、ユニと融合したことで得た浄化の力を使って、葬送の小太刀を粉々に砕く。

 これでもう、二人がやられることは…ないな。


 俺の意識はそこでプツリと途切れた。












 _________________












 卓也が葬送の小太刀に貫かれるのとほぼ同時刻。

 聖ミリアムの校門で護国寺たち四人チームが登校・出勤する人を確認する中、全員がある異変に気付く。


「ねえ、ゴっちん…」

「ああ。誰かがこの結界内に転移してきたな」


 学園内に入ってすぐ彼らが張った『転移で出ていこうとする者をある地点に飛ばす』結界に、何者かが事を感じ取っていた。

 あえて、入るのは容易に・出るのは厳しく設定したこの罠に何者かがかかった事を察する。


「俺は第一グラウンドに向かう。お前らは引き続きここの見張りと、"無関心の陣"を展開しておけ」

「了解っと…」


 護国寺は仲間に『範囲内の一般人が近くで起きるあらゆる出来事に関心を示さなくなる』結界を張るよう指示をした。

 同時に自分は、転移しようとする者が強制的に飛ぶよう設定した第一グラウンドへと向かうことにする。

 誰かが能力で逃げようとするところを叩こうという作戦だ。


「釣れるのはどいつだ…」



 彼らもまた自身の目的の為に策を講じ、網を張り巡らせているのだった。




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