第163話 決戦は土曜日
「コレ、さっき兄さんが言っていた…」
「…
突如何もない空間から
そして貫かれると稗田のように跡形もなく消え去る。生きたまま黄泉の国へ送られるからだ。
黄泉の国へ行くとやがて魂だけの存在となり、死ぬのと同じになる。
被害にあった生徒がみな完醒者だったことから、目的はおそらく『ネクロマンサーの手駒の補充』だ。
直接殺さずに黄泉に送るなんて回りくどい方法を取ったのは、痕跡がキレイさっぱり消えるのが都合が良かったと思われる。"通い"ではなく寮暮らしの生徒を狙ったのも、大事になるのを遅らせる意図があったんだ。
「まさか米原くんが能力者だったなんて…」
「知らなかったのか?」
「ええ。私も学校ではサーチなんて使ったことありませんから」
「まあ、何も無ければそうだよな」
「生徒会の時に使っていれば、何か怪しい動きが分かったかもしれないですね…」
「いや、この犯行を始めた時には必要な時以外は泉気は常に消していたと思うぞ」
逆に俺が能力で名前を探っていれば、【個人情報保護砲】の効果で隠れていただろう。
そこから犯人とは分からないまでも、警戒くらいは出来たかもしれない。俺の落ち度だ…。
ネクロマンサーの使いである獅子の面の男が米原をそそのかし、米原が能力と刀を使い次々と目標を消していった。
米原は何故あんな胡散臭いおしゃべりクソ男に協力したのか…。
彼自身がこれまでの被害者の特徴である『完醒者で寮暮らし』なのだから、被害にあっていなければいずれ特対から容疑者として疑われる。
そうなれば"尻尾切り"にあうのは予想できそうなものなのに。そうまでしてやり遂げたい何かがあったのか…。
もしくはもう、殺されて操られているだけか。
どちらにせよ米原はこの事件の重要参考人だ。
明日朝イチで寮に行き、話を聞く。そして…
「でも、この能力でどうやって対象を別の場所に飛ばしたんでしょうかね?」
真里亜が当然の疑問を口にする。
そして真里亜の疑問の通り、米原単体の能力では先ほど説明した稗田のような状況になる事はない。
かと言ってバカ正直に刀のことを話すわけにもいかないので、ここは上手く誤魔化す必要がある。
「…おそらく刀に転送能力が付与されていたんだと思う。特対にも【技術開発チーム】っていう、物体に能力を付与する能力者の集団が居るからさ。ちょうどコイツみたいに」
そう言って取り出したのは、先ほど獅子の面の男が使っていた二本の泉気ソード。旧部室棟を掃除した時に回収しておいたのだ。
今は作動していないので柄の部分だけだが。
何故奴がこんなものを持っていたのか…。
見た事の無い型だが、特対職員から奪ったのだろうか…。
これだけでも疑問は尽きない。
技術開発チームに渡して解析して貰えば、何か敵の手がかりが掴めるかもしれないな。
今度鬼島さんに相談してみよう。
「物体に能力を付与ですか…そんなことが出来るのですね」
「ああ。だからどのみち米原本人に聞いてみないと分からない。目的も、手段も、動機も、生徒たちの居場所も、全部な」
「そうですね」
何とかなったな…
Prrrrrrr…
イイ感じに話がまとまったところで、手に持っていた俺のスマホに着信があった。
相手は…先ほど登録したばかりの鬼島さんだ。
「はい、塚田です」
『鬼島だ。鷹森くんのリストは確認したかい?』
「ええ。おかげで関係してそうな生徒が見つかりました」
『米原という生徒だね』
「そうです。明日早速、事情を聞きに行ってきます」
『何時ごろに行くんだい?』
突然俺のスケジュールを確認してくる鬼島さん。
「あー…7時くらいに行こうかなと考えてます」
『そうか。そしたらウチの職員を学園に向かわせるから、どうか力を合わせて調査に当たってくれ』
「…はい。助かります」
本音を言えば、俺一人で進めたかった。あまりに簡単に制圧できてしまうと、敵が刀を振るう暇なく事が終わってしまうからだ。
が、色々と手助けしてもらった手前そんなことは言えない。
何とか上手い事やらないと…。
俺が刺されたあとの米原のカバーに回ってもらうように仕向けるか。
『では、明日はよろしく』
「はい、色々とありがとうございました」
そこで通話が終了する。
俺にとっても鬼島さんにとっても、明日が正念場だ。
「ふぅ…」
「お疲れ様です、兄さん」
「ああ…」
真里亜が労いの言葉と共に、温かいお茶を差し出してくる。
話し相手が居てくれると余計な事を考えなくて済むので、結果的には良かったのかもしれないな。
来客用と普段使いの湯呑が逆だけど。
(あたしがいるだろー!)
おっと、そうだった。
(頼りにしているって。ここからはリアルガチでユニしかいないからさ)
(タクはあたしが守る)
何とも頼もしいユニの言葉を受け取り、思わず口角が上がるのを実感した。
いつだって頼もしい存在だったもんな。
俺は心の中である予感…というよりも実感を持ちながら、この日は寝床につくことにした。
真里亜には普段の俺のベッドを譲り、俺は床にタオルケットを敷いて明日の決戦に備え体を休めた。
_________________
金曜日 24:05
「…もしもし」
『やあ、遅い時間に悪いね。今、いいかい?』
「ええ。大丈夫です」
日付が変わる深い時間にもかかわらす突如着信があり、部屋で寝転がっていた米原は電話に出た。
電話口からは獅子の面の男の軽薄そうな声が聞こえてくる。
そして全く悪びれた様子もなく『悪いね』と言う男を特に気にした様子もなく、いつも通り対応するのであった。
『さっきはお疲れサン。いやー、参っちゃったよ。探偵とかいうヤツにボコボコにされちゃってさぁ…。今日はもう動けそうにないや』
男は先ほどの卓也との戦闘でボコボコにされ、何とか拠点へ逃げ延びることが出来たものの、この時間になるまで電話も出来ないほど損傷していた。そのため今の今までずっと回復に専念していたのだ。
そしてようやく手足が動かせるようになり、一番に米原へと電話をしたのであった。
「すみません。生徒会がある事をすっかり忘れていまして。直前で行けなくなってしまい…」
『いいよいいよ…と言いたいところだけど、本命の子が警察に保護されちゃってさぁ。僕でも手が出せない状態になっちゃって参ってるんだよねぇ…』
いつも通りのトーンなので分かりづらいが、男は本当に困っていた。
というのも、守屋が現在保護されている特対施設は見張りや能力的なプロテクトが厳重で、空間操作・転送能力でおいそれと侵入・干渉できるような場所ではなかった。
男はその事実を重々承知しており、打つ手なしの状況となっている。
代わりに稗田を黄泉に送る事は出来たが、それで
また、初めて"通い"の生徒を手にかけてしまった事で、しばらくは聖ミリアムでの活動も自粛しなければと考えていた。
『というわけで、警備がより一層厳しくなるだろうから、君のターゲットも迂闊に手が出しづらくな―――』
「そう思って、さっき始末させてもらいましたよ」
『…何だって?』
米原との会話の中で初めてと言えるくらいトーンの低い声が受話器から聞こえる。
それは男にとって米原の行動がそれほど予想外であったことを表していた。
「ここまで犠牲者が出ればメディアにも世間にも隠し切れなくなりますからね。そうなると僕も両親から『家に帰って来い』と言われかねません。そんなことになったら簡単に外出も出来なくなりますし、順番は変わりましたが僕のターゲットを先に"黄泉"へ送らせて頂きました」
『そりゃあ随分と先見の明がおありで…』
「どうも」
『ちなみに誰を送ったんだい?嫌味な教師かな?それともライバルである生徒会長さんかな?』
「いいえ。同じ学年の尾張というヤツです」
米原の口から出たのは、春日と共にFOS団に所属する尾張悠人の名だった。
男が列挙した誰とも違う、一見すると関係性がが見えてこない相手である。
『…それが君の憎んでいた相手なのかい?』
「ええ」
『ちなみにどうしてその人の事を?』
「邪魔だったからです。いつもいつも彼女の隣に当たり前のように居て、挙句の果てには家まで隣と来たもんですから、前々から鬱陶しいと思っていました。…って、貴方に言っても仕方のない事ですけどね。能力者でもない普通の生徒の事なんて」
『そうかもね…』
米原の口から語られたのは、恋愛においてありがちな嫉妬の模様であった。
これがただの青春ドラマのワンシーンであれば、米原を応援する視聴者も出てきた事だろう。
しかし彼は卑劣な手段を使い恋敵と思しき相手を排除してしまった。超えてはならぬ一線を越えてしまったのだ。
「まあそんなワケなので、僕はしばらく大人しくしていますよ。もう仕事がないなら、刀は返しますけど?」
『追って連絡する…』
そう言って通話を切る男。
ネクロマンサー 米原 卓也 特対…
様々な思いが交差する聖ミリアムの夜が更けていくのだった。
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あとがき
評価 ブクマ ギフト等ありがとうございます!
特にサポーターの方から引き続き
先日までは「特にサポーター向けの企画はやっていません」と近況ノートでお伝えしましたが、流石にそれでは応援いただいたのにあんまりだということで、聖来と紫緒梨のショートストーリーを掲載させて頂きました。
が、ラノベの店舗特典くらい短いです。
他の作者の方みたいに新作をまるまるという事もないので、『特典があるなら…』と期待されている方は思いとどまって、そのお金でご自身で美味しい物でも食べてください。
本編に関係する匂わせとか、大事な伏線とかゼロのただの掘り下げだけなんで…。
それでは5章も大詰めですが、引き続きお付き合いいただければ幸いです。
m(__)m
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