第115話 真犯人

「俺を捕まえに来たのか?」

「……」



 広い廊下では、俺と式守が向かい合って立っている。

 だが俺からの問いかけに、彼女は一切答えない。先ほどから黙ったままだ。

 志津香からの報告で、彼女が会場を抜け出したことは既に知っていた。

 また和久津からの追加情報によると、彼女は空中でも水中でもどこでも自在に歩く(走る)事が出来る【どこでも一緒オールウォーク】という能力を持っているという。


 熱心に格闘技術を磨いていたのは、場所を選ばず自分の戦いが出来るからだったのか。

 ちなみに、手を繋いでいる者にも同様の能力を付与する【みんなと一緒シャル ウィ ダンス】という力も持っているとか。まあ、今は関係の無い情報だが。


 しかしそんな能力だからこそ、一昨日体術で俺に全く歯が立たなかった彼女が単体で捕まえに来るとは考えにくい。

 何か話があってここまで来たと考えるのが普通だ。

 今のところ、口を開く気配は感じられないがな。



「…して」

「ん?」


 ようやく少しだけ、式守が口を開く。

 しかし声が小さすぎてよく聞き取れなかった。

 思わず聞き返してしまうと、今度は大きな声で俺に聞こえるように喋る。


「どうして塚田くんが、殺しなんて…!!」

「…」


 それは同僚か、あるいは友人が仲間に手をかけてしまった事を嘆く悲痛な叫びだった。

 今の彼女は怒りに満ちた表情をしている。


「貴方の鍛えた拳は、そんなことをするためのモノじゃないハズよ」

「俺が鍛えた技を、何に使おうと俺の勝手だろ?」

「違う!一昨日の貴方の拳からは、厳しかったけど確かに優しさが伝わって来た!」

「ワケの分からないことを…拳で相手の心が分かるもんかよ」


 わざと悪役を演じる俺と、悪い俺を必死に否定する式守。

 彼女は俺を疑いながらも、どうしても犯行を信じられないらしい。


「分かるわよ…そして、今もそうか確かめてやるわ…!」

「へぇ…」


 構えを取る式守。どうやらこちらへ向かってくるようだ。

 俺の方も軽く構える。

 もちろんこちらには敵対の意思はない。

 あくまでも式守が真犯人では無いかを確かめたいだけだ。

 ほとんど答えは出ているけどな。



「はッ…!」


 20メートルほどの距離を数歩で詰めて来る。

 かなりのスピードだ。

 そして俺の眼前で一段と強く踏み込み、渾身の正拳付きを放ってきた。


「…っと」


 それを腕で受けたが、骨までジンジン痺れるような感覚だ。

 能力で硬化をしていないとはいえ、とてつもない威力。

 一昨日の模擬戦とはパワー・スピードともに段違いだ。


「はぁ!」


 その後もパンチのラッシュを繰り出してくるので、掌や腕でガードしたり受け流す。

 だが、おかしい。

 前は蹴り技や投げ技も積極的に仕掛けてきていたのに、今は単調な攻撃の繰り返しだ。

 バリエーションといっても精々ストレート・フック・ジャブ・アッパーの基本的な物くらいで、能力を使ってくる気配もない。

 もしかして…


「やぁ!!」


 式守の右ストレートが飛んできたタイミングでその手を取り捻ると、素早く背中に回り拘束する。

 なるべく痛くしないように、最低限の力で捕まえる。

 予想通り拘束してからの式守は抵抗しなかった。

 優しく拘束する俺と立ったまま止まってしまう式守の間に静寂が訪れた。


 俺は前の式守に声をかける。


「…もしかして、試されてる?」

「もしかしなくても、そうよ。そして、やっぱり貴方は殺しなんてしてないわ…」

「…」


 参ったな…

 確かめるつもりが、こちらが式守に確認されていたとは。

 俺は拘束を解くと、式守がゆっくりと振り返りこちらの瞳をのぞき込む。

 能力で回復する必要が無いくらい、彼女にダメージは与えていない。


「…ねぇ、何であんなこと言ったの?もし理由があるなら教えてよ。あたしにできることがあるなら、手伝うからさ…」


 先ほどまでとは異なり、式守の瞳は不安に揺れている。

 彼女の中で俺に対する容疑は大分晴れたようで、今度は不可解な行動を取った事に疑問を感じ同時に心配をしてくれている。

 そして『協力をする』と申し出てくれた。


 彼女の言じゃないが、先ほどの応酬で真っ直ぐな心が俺にも伝わって来た。

 会って間もない俺に、警官殺しの犯人だと名乗り出た俺に、頭のおかしいヤツだと決めつけず手を差し伸べてきた式守の優しさに感謝だ。


「式守…」

「う、うん…」


 俺は式守の肩に手を置く。


「もし俺を犯人じゃないと信じてくれるなら、さっきのパーティ会場に戻って、待っていてくれないか?」

「え…?」

「ワケがあって詳しくは話せないが、1時間でいい。俺を信じて皆と待っていてくれ。俺も、式守を裏切るような事はしないから」


 最低限の言葉で、精一杯の説得。

 今から作戦の人員をこれ以上増やすことはできないが、応援してくれる仲間なら問題ない。

 俺に同行していては危険だし、会場で急きょ仕事を与えるのも色々と考えなくてはいけないので無理だ。

 であれば、ここは大人しく帰ってもらうのがベストなのだが…。


「…わかったわ。その代わり、あとでちゃんと話しなさいよね」

「ああ…。必ず」

「じゃあ、私は行くわね」


 そう言い、式守は来た方へ引き返していった。

 一人残された廊下に、静寂が訪れるのだった。



『キミは上手いねぇ…一流の結婚詐欺師になれるよ』

「和久津、俺を信じて200万円貸してくれ」

『女の敵』


 和久津が振って俺がボケて志津香が突っ込む。

 即席漫才トリオが完成した。

 志津香の声に若干の怒気が含まれていたのは、気のせいだろう。


「それより清野、少し移動するぞ」

「そうだな」


 同じところに留まるのはよくないと判断し、俺たちは6階を離れる事にしたのだった。












 _________________











 式守とやりとりをしたフロアを離れ9階の廊下を移動していた時、正面にある人物が見えた。


「黒瀬…」

「親友」


 黒瀬は左側の腰に日本刀を差し、堂々たる態度で待ち構えていた。

 表情は真剣そのものだ。

 俺を討伐しようというのか。


「許さんぞ…」

「…そうか」


 怒りを露わにし構えを取る黒瀬。

 刀を抜かずに右足を前に、右手を柄に添える。

 "居合い"の型だ。


 修行のおかげで刀剣に対する心得は多少あるが、黒瀬の腕は果たしてどんなもんか…。

 実際に戦う所を見たわけではないが、A班として前線に身を置いていた彼が弱いハズがない。

 泉気の様子から能力を発動させるような素振りは感じられないが、ブラフか?それとも本気を出す気がないのか。


 俺が色々と考えていると、黒瀬はひと際大きく目を見開き力強い一歩を踏み出した。


「…っ!」


 一踏みで俺の眼前まで迫って来る。脚力もスピードも凄まじい。

 そこいらの能力者ではまるで歯が立たないくらいの身体能力…やはり相当な実力だ。

 黒瀬が鯉口を切り、鈍く光る刀身が見えた。

 俺は来るであろう横薙ぎをかわすべく集中した。


「え…?」


 が、彼の放つ剣閃が俺に迫ることは無かった。

 黒瀬は何故か俺ではなく何もない壁を切り裂こうと刀を振るったのだ。

 そして刀は壁に辿り着くことなく、空中で止まる。

 まるで何かに止められているように…


「貴様が親友をかどわかしたのか!!清野誠!!!」

「ワケわかんねーこと言ってんじゃねーぞ…!」


 黒瀬は最初から俺ではなく、水のヴェールを纏い潜んでいた清野を狙っていたのだ。

 鋭い一閃を止めた清野は、ステルスを解除し姿を現した。

 刀は水の壁に食い込んでいるものの、本体である清野には届いていない。


「貴様の児戯に彼を巻き込むな!!」

「ワケわからねーこと言うなっていうのがわからねーのか!!」


 二人は俺を差し置いて激しいバトルを始めてしまった。

 清野が繰り出す水の触手を素早い身のこなしでかわし、刀による斬撃を加える黒瀬。

 だが高密度の水の壁が全ての攻撃を防ぎ、二人はお互いダメージを与えられないでいる。

 どちらも本気を出してはいないようだが、その迫力は他を寄せ付けないものがあった。


「…」


 そして完全に置いてけぼりの俺。

 おかしいな。俺を追いかけてきたのではないのか?

 ていうか、シロだろ。これもう…。

 俺は頃合いを見て、二人の間に割って入る事にした。


「黒瀬、ストップ!」

「…?待っていろ、すぐに助ける…!」

「何からだ…!」

「聞け黒瀬。俺は清野にかどわかされてなんかいないし、おかしくなったわけでもない」

「……なら何故、あのようなことを…!」


 黒瀬は刀を構えたまま、俺に質問をしてくる。

 だが、それに今ここで回答する事はできない。

 だから…


「何故あんなことをしたのかは、今はまだ言えない…」

「何…?」

「だが、もし俺を少しでも信用してくれている気持ちがあるのなら…」

「…」

「1時間でいい、パーティ会場で待っていてくれないか?そしたら全てを話す」


 式守同様、仲間には入れられないので、せめて邪魔にならないよう…巻き込まないよう遠くへ置く。

 それには待機してもらうのが一番なのだが…


「……いいだろう」

「…助かる」


 何とか受け入れてもらえたようだ。


「ソイツが事情を知っているというのは癪に障るが」

「アぁ!?」

「しかし、それが親友の望みと言うのなら、俺は従うよ」

「ありがとう…」


 そう言って黒瀬は刀を鞘に納めると、エレベーターの方へと歩いて行った。

 そして俺たちもまた、場所を移すため彼とは反対側の方向へと歩き出したのだった。











 _________________












「塚田…」

「……鷹森」


 移動した先、特対施設11階の廊下には鷹森をはじめとする6人の職員が待ち構えていた。

 できれば犯人より先に、いやずっと会いたくなかったが…来てしまったか。


 美咲たちから『最も注意すべき相手』と言われていた職員の集まり、通称"鷹森隊"。

 作戦の構成上会場に留めておくのが難しく、また前の二人と違い接点もほとんどない為、説得も難しい。

 加えて鷹森は、俺の能力を知っている数少ない相手。

 さて、どう切り抜けたもんか…。


「この前は…」


 俺が適当に話をして探りを入れようとした時、大分距離のある鷹森が一瞬光ったような気がした。

 そして


「……今のを防ぐとは、流石だ」

「え……?」


 前方に居たハズの鷹森の声が、大分離れた後ろから聞こえてきたのだった。


(あたしが守ったんだぜ、ご主人)

(ユニ……今、何があった?)

(鷹森って人が光になって突撃してきて、そのまますれ違いざまにご主人に光の剣で斬りかかって来たんだよ。狙っていたのは足だったけどな。だからあたしがシールドで防いだってワケ)


 そんなことが起きていたのか…全く認識できなかった。

 つーか、目で追えてないのヤバすぎでしょ。

 マジでヤベーやつやん…鷹森。


(助かった…ユニ)

(どんと来いだ!)


 いくら治るとはいえ、いたぶられ続けるのはゴメンだ。

 早いところ、全員無力化しないと。


「手を貸すぞ、卓也」


 横に居る清野が言う。

 流石に一人じゃキツイよな。


「じゃあ…」

「何か、理由があるんだろ?」

「…え?」


 止むを得ず戦おうとしていた俺に、向こうから話を振って来た。

 意外な言葉に、思わず情けない返事をしてしまう俺。


「こんなことをするんだから、何か理由があってやったんだろ?」

「……疑っていないのか?」

「そうだな……頭は『怪しい』って思っているけど、心は違うと思っている。ちぐはぐな状態だな。これも君の仕業か?」


 鷹森は伊坂の能力にかかり、俺を犯人だと誤解しているが、心のどこかではそれを否定しているらしい。

 だが一体彼のどこに俺を信じる要素があるのだというのだ。

 俺にも覚えが無いぞ…


「おいおいリーダー…ソイツの言う事信用するのかよ!?」


 異論を唱えたのは彼の仲間だった。

 俺を挟んで廊下の反対側に居る小隊の仲間5人が、俺を信用するという鷹森にモノ申す。


「ああ」

「なんでだよ!?殺人犯だぞソイツ!」

「ペル伝(ペルシャの伝説)好きに悪いヤツはいない」


 理由弱!!


「理由弱っ!!」

「悪いヤツくらいいっぱいいるだろ!」

「目を覚ましなさいよ!!」


 同じ隊の仲間同士で意見が合わずモメ始める。

 というか、リーダーの鷹森と他の5人で、だが…。

 マジじゃないよな…?ゲーム好きだから云々っていうのは…。


「そう、目だ。目を見れば分かるだろう。彼が殺人犯じゃないっていうのは」

「目ェ…?」


 急に5人が俺に注目し始める。

 圧が凄いな。


「分かるかよ!」

「彼が班員を治療している時の目は、とても人を手にかけるようなヤツの目じゃなかっただろ。それに俺がもし犯人だとしたら、『殺人犯です』なんて名乗り出たりはしない…」

「うっ…」

「そうね…」


 ごもっとも。

 だが分かっていても心の底から信用できず、疑心暗鬼に陥ってしまうのが伊坂の能力だ。

 一種の混乱状態というヤツになって、冷静な判断が出来なくなる。

 敵にすると恐ろしい能力だ。仲間割れだって引き起こせる。


 だというのに、鷹森は疑問を感じていながらも自分が正しいと思う道を進める。

 凄まじい精神力だ。流石はトップエースと呼ばれているだけある。


「…詳しくは言えないが」

「ん?」

「もし俺の事を殺人犯じゃない、と信じる気持ちが多少なりともあるなら。あと30分くらいでいい、待っていてもらえないだろうか。そのあとなら俺を好きにしてくれていい。俺は逃げも隠れもしない…」

「はぁ?お前何言って…」


 鷹森隊の男が俺の提案に対し反論しようとするのを、鷹森が手で制する。


「待てばどうなる?まさか真犯人を連れて来るとでも?」

「それは言えない…だが待てばどうなるという質問の回答なら、お礼に『ペル伝BotW』とゲームハードもセットで貸すよ。やりたいんだろ…?」

「!?」


 目を見開く鷹森。

 最初に会った時から何故かこのゲームタイトルに固執していたな。

 そして俺に感想を聞いてきたという事は、最新作はまだ未プレイと見た。

 だから交換条件を出す。たったの30分目を瞑るだけで、念願(?)のゲームがプレイ出来るんだ。

 俺はもう300時間位やったから、余裕で貸与可能だ。


「……特対は、職員でも機械類の持ち込みにはかなりの手間がかかる。未開封の箱で持ち込んだとしても機械による検査に加えて能力者による検査も行う。盗聴器やカメラなどが仕込まれ、機密情報が外部に漏れたら大変だからだ」


 まあ、能力自体世間に公表されたらコトだからな。

 それくらいの検閲は当然か。


「手元に届くのに、早くても3日、遅いと1週間くらいを要する。ましてや人からのレンタル品なんて、どれだけの時間がかかる事やら。別に疑うワケではないが、もし別の理由で情報の漏えいが発生した場合、俺も君も容疑者に入ってしまうというリスクがある。中々現実的ではない」

「そうか…」


 こんな条件ではダメか…。


「だから、外出した際に、君の家でプレイさせて貰うというのはどうだろう?」

「…………え?」


 そんなんでいいの?

 まあ、別にそれでいいなら…


「そんなのでいいなら……。ただあのゲーム、寄り道が楽しすぎて止め時が難しいぞ?」

「それも含めて楽しむさ」

「なら…」


 話がまとまりかけた時に、またしても反対の声が上がった。


「いやいや、なんでまとまりかけてんだよ!?」

「コウちゃん、ゲームならまたキューロクで一緒に遊んであげるから!!?」

「何年やってると思っているんだ」

「うっ…」


 キューロクあるんだ。

 スラブレはやらねーのかな?


「それに悠一。お前も彼に治療してもらっただろう?分からなかったのか?」

「…そりゃあ」





『ああ?いいよ、これくらいのケガ。舐めときゃ治る』

『菌とか入るかもしれないだろ。それにどうやって自分の肘を舐めるんだよ』

『自分じゃなくてもいいだろうが!』

『じゃあ俺に能力で治療してもらうのと、俺に舐めてもらうのどっちがいいんだよ?』

『何だ!その二択は!!?』

『後が詰まってるから、早くな』

『………わーったよ。治療してくれ』

『判断が遅い』

『…ちっ』





「………」

「自己申告したからって、問答無用で切り捨てるほどの人物だったか?彼は」

「……わーったよ」

「悠一?」


 悠一と呼ばれる男は観念したように言葉を吐き捨てた。


「30分だけな。それ以上はダメだ。俺たちは会場で適当に理由を付けて待機しててやる」

「すまない、鷹森も」

「気にするな。行くぞみんな」


 鷹森と、悠一のおかげで最大の障害と思われた"鷹森班"が去っていく。

 理由も聞かず、ありがたいことだ。

 俺は心の中でも多大なる感謝をし、三度清野と移動をすることにしたのだった。












 _________________












 特対施設5階


 卓也がパーティのさなか『私が犯人です』と宣言をし、逃走を始めてから1時間弱が経過していた。

 その間卓也と清野は迫る職員と戦闘をしつつ、対話をしつつ、潜伏しつつ、真犯人から接触してくるのを待っていたのだ。


 罪もない女子高生に罪を擦り付けたのなら、普通は出てこない。

 代わりに罪を被ってくれる人間が現れたなら、これほど都合のよいことは無いのだから。

 だがこれまでの犯人と思しき人物の行動を調べ、卓也は出て来る予感がしていた。

 それに伊坂や和久津の為にも、一日でも早く真犯人を捕まえたいと思っている。


 鷹森たちと約束をした時間まであと少しというところで、廊下を進む卓也の前に一人の人物が現れた。


「お前は…」


 追手の登場に臨戦態勢を取る卓也。

 しかし、相手は


「待て待て!!俺は敵じゃない!本当だ!」


 と言った。


「……俺を疑っているんじゃないのか…?」

「いやいや、全然疑ってないよ!むしろ俺はアンタの味方さ。助けてもらった恩もあるしな」

「そうか…」







 __________







4日目 夜 作戦会議


「この作戦の前提条件だから、最後にもう一度確認するな。もし伊坂の能力を俺に使ったとして、"かからないヤツ"っていうのがいるとしたら」

「二種類のパターンが考えられるわ。一つは塚田さんを"目視していない"場合ね。先日までの水鳥さんのようにそもそも目が見えなかったり、誤解を付けた塚田さんを見かけなかったり」

「だから会場中の視線を一度俺に集中させなくてはいけないんだよな。余さず見てもらえるように」

「ええ」

「もう一つは?」

「もう一つのパターンは、そもそも塚田さんが『絶対に犯人ではないと分かっている人』には効果が無いわ。つまり犯人ね。もしかしたら一瞬『あれ?』ってなるかもしれないけれど、直ぐに誤解は解けるわ。だって自分が犯人なんだからね」

「かかっていないヤツの特徴なんてのは見分けられるのか?」

「そうね…大勢のサンプルを取ったワケじゃないから、100%とは言えないけれど…。能力にかかっている人っていうのは、誤解内容に関しては判断力が落ちるのよ。だから"疑っているのに疑っていないフリ"をして近づくのは難しいと思うわ。多分、まず確認をしてくるハズ…」

「つまり、それが出来ているという事は、かかっていない人間であるという事か」

「ええ。少なくともいきなり『犯人ではないと信じている』なんて発言は出来ないと思うわ」







 __________








「俺はアンタが警察を殺した犯人なんかじゃないって信じてるからよ…!」


 卓也に警戒されないよう、言葉を紡ぐ。


「そうだったのか…」

「ああ!」


 しかし、昨日の打合せを思い出し、卓也は相手に告げる。



「お前が犯人だったんだな…宗谷弟…修二しゅうじ…!」


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