第102話 飛び入り参加決定 (大規模作戦3日目)

「内線だね。誰からだい?」

「さあ」


 特に約束もしていないし、こんな時間にかけてくるような知り合いもいない。

 まさかゲームとか、風呂の誘いか?

 考えている間にもコールは続いている。さっさと取ってしまおう。

 俺はベッドから立ち上がり、受話器を待ちあげた。


「もしもし」

『夜分遅くに済まない。鬼島だ』

「鬼島さん?」

「「「!?」」」


 志津香以外の四人が驚いていた。

 俺も驚いた。まさかこんな時間に鬼島さんから直々に電話があるとは思わないからな。


(なんで鬼島さん…?)

(さあ、わざわざ何の用なんでしょう?)

(内容が気になるね、これは…)


 内容は聞こえないが女子たちはヒソヒソと話し合っている。


『もしかして寝るところだったかな?』

「いえ、これから風呂でも行こうかなー…なんて思ってました」

『おおそうか。ここの大浴場はとても良いよ。是非今日の疲れを取ってくれ』

「はい。ありがとうございます」


 鬼島さんが誇らしそうに大浴場をお勧めしてくれた。

 昨日一昨日と行けなかったので、普通に楽しみだ。

 そして風呂に思いを馳せて油断している俺の後ろから、和久津の魔の手が伸びていた。


 ポチッ


「あっ」


 和久津のやつ、勝手に電話のスピーカーボタンを押しやがった。


『どうかしたのかい?』

「ああ、いえ。なんでもないです」

『そうか。…それより塚田君の活躍は耳にしているよ。C班での治療と、今日のエントランスの一件、見事だったね』

「ありがとうございます」

(あの鬼島さんがベタ褒めしてるよ)

(流石)

『あと、水鳥君の治療の件も君なんだってね。これまで多くの治療術師が匙を投げたのに、よく完遂してくれた。彼女に代わって私から礼を言わせてくれ』

「いえ、そんな…」

(直接言いました、鬼島さん)

『清野君の推薦を強引に通した私も鼻が高いよ。はっはっは』

(あの人、高笑いなんてするんだ…あまり接点ないから怖い人かと思ってた)

「鬼島さんが根回ししてくれてたんですね」

『確実に通すためにね。審査やら何やらも通過しやすいようやらせてもらったよ』


 知らなかった。

 もし清野の推薦だけで嘱託採用に落ちていたらと思うとゾッとする。

 冤罪に苦しむ女の子が、未だに二人ぼっちでひっそりと活動していたかもしれない。

 盲目の少女は今日も過去にとらわれた青年と身を寄せ合っていたかもしれない。

 志津香はショッピングモールで死んでいたかもしれない。


「ありがとうございます鬼島さん。ここに来られて良かったです…」

『礼を言うのはコチラの方さ。君のおかげで救われた命がいくつもある』


 他の五人もうんうんと頷いている。

 清野への借りを返すための出動も、実りがあったようで良かった。



『ああ、忘れるところだった。用事は別にあったんだよ塚田君」

「はあ…何でしょう?」

『明日のA班の任務、【CB】の本拠地があるとされる島に行くんだが』

「島ですか…それはまた」


 ショッピングモールといい島といい、随分と景気の良い組織だこと。


『塚田君には明日の任務、特別に参加してもらえないだろうか?』

「あー…」


なるほど、そうきたか。


『敵の戦力もかなり多く、今日までとは比べ物にならないくらいの被害が予想される。もちろんこちらも選りすぐりの職員を投入するが、敵もこちらのエースと同等の強さを持つメンバーがいる。強制ではないが、是非とも君の力を貸してほしい』

「…」


 何も無ければ二つ返事していたかもしれないが、明日は清野と合流し本格的な調査に乗り出そうと思っていたのだ。参ったな…

 しかし被害が多く出てしまうかもしれないと聞くと、無下にはできんぞ。


(塚田さん塚田さん)

(ん?)

「ちょっと待っててください、鬼島さん」

『あ、ああ』


 伊坂が俺の耳元で、小声で話しかけてきた。


(どうした?)

(行ってきていいよ、明日の任務)

(いやだって、捜査が)

(それよりも傷ついて危ない人を助けるのを優先してよ。こっちはすぐに命の危機があるわけじゃないからさ)

(……そうか…?)

(そうさ。こちらには志津香くんに、清野くんも来るんだろう?我々だけで先に進めておくよ)


 そう言われてしまうと、明日は行くしかないみたいだな。

 個人的には、美咲やなごみ、黒瀬なんかを助けてやりたいという気持ちはある。

 だがそうは言っても、俺がここに居られるのもあと2日しかない。

 その間に解決してやりたいと思ったのだが、背中を押してもらったからには…行こう。


 見回してみると、皆スピーカーモードなので喋らないが、「受けよう」といった感じで頷いている。

 志津香だけは無表情で、ちょっと不満げかな?

 まあ誘っておいていきなり本人不在は流石に悪いことしたか。


(志津香、ちょっと…)

(何?)


 俺はフォローすべく志津香を手招きで呼ぶ。

 そして近づいてきた志津香に耳元で誰にも聞こえないように


(悪いな。埋め合わせは今度どこかで…)

(ん…期待しておく)


 どうやら機嫌は直ったらしい。


「すみません鬼島さん。そのお話、お受けいたします」

『そうか、よかった。では明日の7:30に大会議室に来てくれ』

「分かりました。A班の医療チームとはそこで打合せですか?」

『そのことについても明日話すから待っていてくれ。ではまた明日』

「はい。よろしくお願いします」


 こうして、俺は急きょ大規模作戦のメインであるA班に加わる事になった。

 受話器を置くと、改めてみんなに報告する。


「ってことで美咲、なごみ、明日はよろしくな」

「はい。頑張りましょうね」

「よろしくー」

「志津香と和久津と伊坂は、悪いけどここで何か分かる事が無いか調査を頼む」

「任せて」

「清野くんが来たら私の部屋に来るよう受付には伝えておこう」

「無事に帰って来てね。塚田さん」

「おう。じゃあいい時間だし、今日は解散で」



 新しい仲間が加わり、警官殺し捜索は半歩…いや0.2歩だけ前進したのだった。



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