第103話 B班 報告書確認

「そう言えばどうだった?彼の能力は」


 鬼島は書類に目を通しながら、近くの男性職員に感想を聞いた。

 報告書を届けに来た男は、鬼島が読み終わるまで待機していたところに突然のパス。

 しかも問いかけには何ら具体的な内容が入っていなかったが、鬼島の聞きたい事を察していた男は淀みなく答える。


「凄かったです。あれが本当に人間業ですか?無くなった手足なんて、何もないところからスーッと伸びてきましたよ」

「そんなに凄いのかい。見たかったなぁ…」


 鬼島は残念そうに答える。

 清野を除く警察職員の中では塚田卓也という人間を誰よりも早く知っていた鬼島だったが、卓也が能力を使う所を見たことは無い。

 厳密には南峯いのり誘拐事件の時、卓也扮する誘拐犯がいのりの父 つかさにナイフを渡す際に刃の部分を柔らかくするのを見ているが、治療を行うところを見る機会には恵まれなかった。

 なのでそれほど評判の良い能力を、是非とも近くで見てみたいと感じる鬼島である。


「腕の立つ能力者でも切れた腕をくっつけるのに30分から1時間はかかるというのに…。切れた腕がちゃんとあって、それくらいですからね」

「確かに、無くなった腕を1から…っていうのは私も聞いたことがないな。別の腕を代用した事例というのはあったと思うが」

「しかもあんな次から次へと重傷者を休まず治療して。回転寿司の大食いかってくらいホイホイと。信じられません」


 男は昨日の夜にたまたま見かけた大食い番組を例えに、卓也の治療速度の凄さを鬼島に説明する。

 昨日の様子と打って変わって、男は鼻息が荒かった。



「信じられないと言えば、水鳥君の目と足も彼が治療したんだってね」

「ええ。本人と他の1課職員の証言からも間違いありません。今日一日検査を受けさせましたが、体のどこにも異常はありませんでした」

「これまでも、ツテで色々な能力者を呼んだんだけどねぇ。アッサリと治っちゃったね…こんな言い方したら水鳥君には悪いけど」

「彼女が立って歩いているところを久しぶりに見ましたよ」


 男は水鳥や和久津よりも早くにピースに入っているため、水鳥の能力暴走による事故の事は当然知っている。

 なので今日見かけた彼女の歩く姿は、やはり彼女の友人たち同様10年ぶりであった


「あと、黒瀬のヤツが何か人が変わってました」

「え?」

「なんというか、イヤミっぽかったり、人を見下している態度がなりを潜めてましたね。さっき話した時は姿が同じだけの別人かと思いました」

「何かあったのかな」

「いえ、風祭に聞いても不明だと…水鳥が完治したから心の負荷が無くなったんじゃないかって」

「なるほど」


 二人とも美咲の事故の際、模擬戦相手が黒瀬だという事は記憶の片隅に留めていた。

 その為、バッチリ腑に落ちたわけではないモノの、なごみが挙げた理由で何となく納得はしていたのだった。



「まあ、明日はその凄い力を直接見ることが出来るかもしれないから、楽しみだなぁ」


 そう言うと、鬼島はデスクに備え付けの電話機に手を伸ばし番号表を見始める。


「どういうことですか?というか、どちらにおかけになるんです」

「んー…お礼と勧誘かな?」


 鬼島は少し愉快そうに、男に答えたのだった。


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