第101話 信頼 (大規模作戦3日目)

「あの…」

「「………」」

「ププ…!」

「アハハ…」


 空気が重い…

 志津香・なごみペアが部屋に来てからというものの、異様に空気が重い。

 理由は分かっている。志津香と美咲から重苦しい空気が発せられているのだ。

 お互いを警戒しているというか何というか。

 同じ課の人間同士仲良くしてほしいんだが…


 今は先ほどまでと配置が変わり、椅子には和久津と伊坂が、ベッドには俺が美咲と志津香に挟まれ座っていた。

 そして何故かなごみは一人壁を背に立っている。

 ベッドに座っていいぞと言ったのだが、半笑いで拒否された。


「卓也さん」

「ん?」


 突然美咲に名指しで呼ばれる。


「凄いですね。入職したばかりなのに、もうこんなにお友達が多くて」

「あ、そう?まあそれほどでも…」

「別に褒めているわけではありませんが」

「アッハイ…」


 責められる覚えもないんだけどな。ご機嫌45度。


「卓也」

「おう」

「卓也は顔が広い」

「いや、顔でかいからや!」

「ふざけないで」

「ウス…」

「プー!クスクス…」


 場を和ませようとしたがダメだった。

 そしてなごみは別の意味で滅茶苦茶ウケている。ふざけんなよ…


 まあ原因は俺の節操の無さ(?)みたいなのだが、どうしたもんか。

 この空気を打破するのには正直に"作戦会議"だと話してしまえばいいのだが、そう簡単には行かない。


 今日一日を一緒に過ごしてみて、二人が警官殺しをするような人間でない事は分かった。

 恐らくそこは美咲同様付き合いの長い和久津も分かっていると思う。

 しかし犯行を"出来る出来ない"となると別だ。


 美咲には「するような人間ではない」「出来るような状態では無い」「思わぬ形でバレてしまった」と三拍子揃っていたので打ち明けたが、この二人は協力者である点も含めて美咲よりもまだ疑いは残っている。

 美咲が"90%"信用できるとしたら、彼女らは"75%"だ。

 昨日伊坂の能力を聞いた時に"思いついた作戦"を実行するには、仲間としてギリギリの信頼度だ。

 その作戦には身内に犯人一味が居ると全てがご破算。

 引き入れるとしても8割くらいは信用できる人間にしておきたい。


 何よりこの二人には和久津と伊坂はまだ"4課の葛西と古森屋"だから、ここを誤魔化し切れれば全てを打ち明ける必要もない。

 うーむ…



「ねえ、塚田さん」


 志津香となごみに説明しようかどうかを悩んでいると、伊坂が声をかけてきた。


「なんだ?葛西」

「話してもいいよ、私たちの事」

「え…」

「どうしようか迷っているんでしょ」

「いや……、それはそうだが…」

「塚田さんに集まってくる人のことだから、きっと大丈夫だと信じているわ。二人にかかっている能力も解除するね」


 俺たち三人、いや美咲を入れて四人か…が追っている"警官殺し"の事件の一番の当事者である伊坂が、あっさりと志津香となごみにも話そうと言ってきたのだ。


「本当にいいのか?一番危険なのは君なんだぞ?」

「いいって。どうせこのままじゃ前には進めないしね。それに1年間ずっとコソコソしているようなヤツが、たった数日しかいない塚田さんに積極的に関わって来るなんてありえないでしょ?私なら遠ざけるもの」


 確かに伊坂の言う事は一理ある。

 巧妙に姿をくらましている犯人が期間限定の俺みたいなヤツに構ったりはしないだろうな、普通は。

 本人もいいって言っているし、説明できた方がこの場を乗り切るのにはいいか…

 和久津の方を見ると、黙って頷いた。彼女も伊坂に異議なしという事だ。


「わかった…」

「ねーねー、さっきから何を話してるの?」

「どういう状況?」


 志津香となごみは嘱託・4課・1課の奇妙な組み合わせに疑問を感じている。

 そして納得いく説明がないとこの場は引き下がらないだろう。

 伊坂の許可も下りたし、話そう。そしてできれば協力願いたい。


「志津香、なごみ、聞いてくれ」

「うん」

「なに?」

「今から話すことは決して創作でも妄想でもなく、リアルガチな事実だ。実は俺たちはある事件を追う為に集まっているのだが、それを聞いて、できれば二人にも協力してほしいと思うーーー」


俺はまたしても、説明を始めた。








 _________








「…というわけで、実際に警官を殺した実行犯、そしてソイツをサポートしている別の協力者が居ればソイツも捕まえるべく動いている。俺は昨日から、美咲はさっきこの話を聞いたが、和久津と伊坂は1年も前から追い続けている。俺は二人の為にも早くこの事件を解決したいと思っている。そこでできれば二人にも犯人捜しを手伝ってほしい」

「…」

「…」


 俺の話を聞いた二人は黙って何かを考えているようだった。

 まあすぐに回答できないのは当然か。情報が多すぎるもんな。

 和久津が生きていて、指名手配されている子は無実で、身内に犯人が居て…

 しかもその話を警察に入って3日目の俺や、良く知らない4課の職員が言っているのだから、いきなり信じろと言うのが無茶な話だ。


 美咲がこちらにいるという点がまだ救いだが、誤解の能力を話している以上催眠を疑われるのも覚悟の上だ。

 ベストは話を信じてくれた上での協力だが、協力は得られないまでもせめて邪魔だけはしないでもらいたいところだ。



「信じる」

「え…?」

「卓也の話、信じる」

「本当か?志津香」

「うん。私に出来る事があれば言って」

「私も信じるよ。で、協力もしてあげる」


 どうやら二人とも協力してくれるようだ。

 これはありがたい。

 理由が気になるところだったが、それは和久津が素早く質問してくれた。


「ちなみに、どうして信じてくれたんだい?なごみくん」

「んー…まず見た目は違うけど沙羅のその話し方と声は疑う余地はないし、美咲が信じてそっち側に居るし、あとは卓也くんかな」

「俺?」

「うん。あたしにはキミが嘘をついているようにはとても見えない。それに美咲や沙羅が全面的に信じているっていうのが、個人的には興味深いわ。特に沙羅はマイウェイなところがあるのに、あたしがこの部屋に来てからはチラチラと卓也くんの様子を窺ってたもん。不安そうに。完全に塚田くんに付いて行く姿勢だったよ」

「そ、そうかい…?なんか恥ずかしいね」


 そうだったのか。

 両隣の圧が凄すぎて気付いていなかった。


「まあ、そんなわけだから、よろしくね沙羅。離世」

「お願いします、なごみさん」

「ありがとうなごみくん。それと心配かけてすまない」

「ほんとよ…」


 スムーズに会話が進み、これならみんな上手くやっていけそうだった。

 そして志津香の方は。


「私は最初から疑ってない。安心して」

「そ、そうか…ありがとう」


 こんなことをボソっと言うのだ。

 何か好感度が高すぎて少し不安だが、この場は感謝だ。

 そしてその後は伊坂の能力実践に驚いたり、和久津と伊坂への質問大会など二人の1年間の奮闘を共有するように皆で話し合った。

 志津香と美咲も先ほどよりかは普通の態度に戻ったようで一安心だ。



「とりあえずはここにいる六人で動こうと思っている。志津香となごみと美咲には、くれぐれも他言無用で」

「頼むよみんな」

「それと、明日は俺の依頼人である清野誠がここにやってくる。夜にまた会議をしようと思っているけど、そこで俺が思いついた"ある作戦"について皆に聞いてもらいたい」

「あの人が来るのか…」

「私は少し苦手ですね…」

「…」


 やっぱり評判悪いな、オイ…


「なごみと…美咲も明日はA班で出撃だよな?」

「そうですね」

「じゃあその後、疲れている所悪いけど集合しよう」

「オッケー」

「わかりました」

「次に場所だが…」


 Prrrrrrrrrrrrr



 明日の集合場所を話し合おうとしたところ、ふいに部屋の電話機からコール音が聞こえたのだった。


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