第100話 見ざる言わざる、着飾る (大規模作戦3日目)

 ■水鳥美咲のこころ



 私が9歳の時、ピースでの訓練中に自身の能力が突然制御できなくなり自滅。

 死の淵を彷徨う程の大怪我を負ってしまいました。

 幸いにも一命は取り留めましたが、以来視力の一切と歩く機能を失うことに。

 その代わり…なのかは分かりませんが私のサイコキネシスはその力を増大させ、これまではせいぜい20キロの物を持ち上げるのがいいとこだったのに、1トン近くの物を持ち上げられるようになりました。

 捕捉できる数や効果範囲、及ぼす影響のバリエーションも増え一躍上級能力に。

 研究している人たちが言うには、人間は死の危機に直面すると能力が覚醒することがあるがコレもその効果の一つだろうとの事でした。


 事故があってから、これまで切磋琢磨し合っていた友人たちが私の身の回りの世話をしてくれるようになりました。

 私と違い体術訓練等で皆ヘトヘトのハズなのに、夕方になると部屋に来て私の面倒を見てくれます。

 ピース施設の部屋は特対施設の部屋と違って基本的には二人相部屋で、今よりもずっと狭い部屋でした。

 ですが私は特別に一人部屋をあてがわれ、毎日そこに誰かしら来てくれました。

 特に黒瀬くんは、事故が起きた時の私の練習相手だったせいで人一倍責任を感じていた。

 何度も「私は大丈夫だよ」と声をかけても、「俺がやりたいだけだから気にしないで」と返すだけでした。


 私は能力で空間に干渉する事で物の位置や形が把握でき、自分を浮かせることで歩かなくても移動ができたので、日常生活にはあまり困りませんでした。

 任務でも犯罪者の位置や人数・持っている武器など、離れていても隠していても私には"視る"ことが出来ました。

 相手からしたら、突然目の前が爆発したり仲間が吹き飛んだりと恐怖だったでしょうね。まあ犯罪者なのだから致し方ありませんが。


 でも、私のセカイには色がありませんでした。

 能力では目の前にある果物がどんな色をしているかまでは認識できません。

 またテレビや映画、漫画など平面に存在する物も私は読み取れません。


『今年圧倒的人気となったあの映画の…』

『今一番アツイ漫画は…』

『○○座の今日のラッキーカラーは…』


 分からない…

 最先端のCG技術?抜群の表現力?今年の流行色?

 全部分からない。

 私は色の無い空間で、能力が無ければ自分では立って歩くことも出来ない状態でした。




「美咲、都築の奴がまた治療術師を一人連れて来たいそうだ」

「そうですか。お好きにどうぞと伝えてください」


 嘱託の都築という方が、何度か私の前に同じ嘱託の治療術師を連れてくることがありました。

 ですが私の治療は一度として上手くいきませんでした。

 それはそうでしょう。

 これまでも特対が最新技術の機械や、一般能力者組織からの能力者派遣など色々な手を尽くして私の治療に取り掛かりましたが、全て失敗したんですから。

 嘱託で来るような方で、これまでのどの能力者・機械よりも優れた方が居るハズない。

 そう思っていました。


「…手を取っても良いでしょうか?治療に必要なんで」


 彼の手は温かかった。

 そう言えば誰かと手を繋ぐなんていつ振りでしょうか。

 その時はそんなロマンチックな事は微塵も考えていませんでしたが。

 ただただ「どうせ無理だろう。早く帰ってくれないかな」なんて思っていました。

 途中黒瀬さんがその人を斬った時は驚きましたが、これで帰るだろうと…


「水鳥さん、ゆっくりと目を開けてください」


 目を閉じていても、"明るい"のが分かった。

 私は彼の言う通りゆっくりと瞼を開けた。すると…


「よく見えるでしょ?」


 目の前には私の手を取りながら跪いている彼の姿がありました。

 血まみれになりながらも私を助けてくれたナイト?プリンス?

 私は雛鳥の"刷り込み"のごとく、彼に目を奪われてしまいました。

 我ながら単純ですね…


 彼はその後、黒瀬くんを私の寝室まで吹き飛ばして帰っていきました。

 というか私のベッドシーツあんな色だったんですね…変に思われなかったでしょうか。


 その後は目を覚ました黒瀬くん達一同が泣きながら抱き着いてくるのをなだめつつ、まず鬼島さんに報告を入れました。

 そして彼にお礼をしたくて、でも私はそういうのに疎かったのでなごみに相談したら


「やっぱお弁当でしょう」


 と言われたので、早速何を作ろうか考えていました。

 次の日、私の体に異常が無いかを調べるためにあらゆる検査を受けていたら、結局一日仕事になってしまいました。

 夜に部屋に戻ると、頼んでおいた食材を使って簡単ですがサンドイッチのお弁当を作りました。


「うーん…」


 出かける前に鏡の前で身だしなみの最後の確認。

 服などおかしなところが無いか、髪はハネていないか。


 自分で言うのもなんですが、スタイルには自信がありました。

 これまでも日々食事や運動には気を使ってきたので、出るところは出て締まるところは締まっている。

 顔は…好みだといいんですが。


 服や下着はなごみに任せていたので、全体的に可愛らしい物が多かった。

 別に下着をお見せする予定はまだありませんが、歩き慣れていない私はうっかり転んでしまわないとも限りませんからね…!スカートですし。


「よしっ!」


 私は気合いをいれて彼の部屋へと向かったのでした。

 そこでは死んだと思っていた沙羅が生きていたり、警官殺しの犯人がいたり、それが冤罪だったりと事実が大渋滞してましたが、私は何があっても彼を信じると決めていますから迷う事はありません。

 何でも来いです!









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 ■竜胆志津香のこころ



 CBの元アジトへの進攻。

 大方の予想では非常に簡単な任務とされていた。

 メンバーの出入りも無く、居たとしても末端が宿代わりに使っているだけ。

 本来なら1課の職員など必要もない内容だったが、班長の衛藤さんが保険の為に一人入れたいとのことで私に白羽の矢が立った。私なら断らないと思ったのだろう。


 だが大方の予想を裏切り、施設内には結構な数のCBメンバーが待ち構えており私たちC班は一変総力戦となった。


 厳しいかと思われた任務だったが、意外な事にC班は押していた。

 というのも、やられたと思っていた班員がどんどん即時復帰して敵を制圧し、不利と思われていた敵拠点での消耗戦で上を行ったのだ。

 でももう一つ誤算があった。敵の大幹部の一人の炎使い(名前不明)が控えていたのだ。

 CBの大幹部以上のメンバーは特対の中の上位能力者と同等の実力を有していると言われており、私も一応上位に数えられてはいたが"植物"と"炎"では相性が悪かった。

 どうやって対処しようかと考えていたら、小隊の一人が狙われてしまった。

 私はそれを咄嗟に庇い敵のレーザーで脇腹を抉られてしまい、直後炎を纏ったタックルで建物の外へ放り出されてしまう。

「終わった」と思った。あと、今年の"ハンバーガーマン"の単独ライブ行きたかったなぁ…とも思った。


 次に私が目を覚ますと、彼にお姫様抱っこされていた。

 傷もすっかり塞がって、私は全快していた。

 誰だろうこの人と思った。しかも驚くことに、彼は単独でアッサリと敵の大幹部を撃破してみせた。


 カッコ良かった。

 お姫様抱っこなんてされたことも無かったし、炎使いを倒すときに白馬のようなものも彼の後ろに一瞬見えた。

 もしかして王子様なのかも。



 その後、彼にお礼がしたくてどうすれば良いかなごみに相談したら


「やっぱお弁当でしょう」


 と言われたので、やったことは無かったけどなごみの手伝いもあってお弁当を作って、彼に渡した。

 彼はとても美味しそうに食べてくれて、あと指の傷も治してくれた。

 しかも彼は私の思っている事がすぐに分かる。

 私がボケてもすぐに拾ってくれる。

 一緒に居てとても楽しかった。一日一緒に過ごしたけど、もっと一緒に居たいと思ったのだ。


 それでなごみを誘って、お弁当箱を口実に部屋へ遊びに行くことにした。

 オシャレなんてほとんどしたことないけど、以前なごみと一緒にショッピングに行ったとき似合うと言ってくれたお気に入りの服に着替えて、遅くに出かけることに。


 けど、彼の部屋には先客がいた。三人も。






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 ■伊坂離世の感想



 すごい。

 ほんの二日居ただけで、彼の周りにはどんどん人が集まって来る…

 私と和久津さんが孤軍奮闘しても全然進展しなかった事件が、彼を巻き込んだことで一気に動き出しそうな、そんな予感がした。

 彼からは謎の引力が発生しているに違いない。


 修羅場って困っている彼に助け舟を出すべく、私は事件の事を風祭さんと竜胆さんにも話そうと決めた。

 彼に集まって来た人が悪い人なワケないと、一日…しかもほんの数時間いただけでもそう思えてしまう。

 恐ろしい力を持っているわね。


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