第75話 初戦
【
通称、スラブレ
1996年に発売され、今も続く大人気対戦格闘ゲームシリーズの第一作目。
ファンの間では"無印""初代"などと呼ばれており、同じ年に発売した【テンニンドーキューロク】というゲーム機の専用ソフトだ。
刀を持ったキャラクターがステージを所狭しと動き回り、敵を倒すゲームとなっている。
このゲームは他の一般的な格闘ゲームと異なる特徴があり、それは"HPゲージが無い"こと、そして"全員一撃必殺技を持っている"ということである。
このゲーム、全てのキャラが"通常斬り"と"必殺斬り"の二種類の技を持っており、必殺斬りを当てる事で敵を一撃で倒すことが出来る。
ただし必殺斬りは非常に隙がでかく、普通に使えばまず当たる事はない。
そこでまず通常斬りを当てていくことで敵を負傷させ動きをどんどん鈍らせていき、素早い動きを出来なくなったところで必殺斬りを当てて勝利する。
如何に早く弱らせて必殺斬りを決めるかが勝利のカギとなっている。
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「で、このアミュレットで何を守らせようってワケ?」
電気使いの弟が持ち出した不思議アイテム"誓いのアミュレット"が二者間での約束を絶対に守らせるという効果があるのは分かった。
だが、それを持ってコイツはなにをさせたいというのだ。
まさか、勝った方が負けた方に何でも言う事を聞かせる…なんてこたぁ言わねえよな。
「負けた方は勝った方のいう事を何でも聞くようにすんだよ」
当たってたよ。流石は中学二年生。
「言っておくけど、何でもってことは"自殺しろ"っていったらしなくちゃならないんだぞ?」
「なるほどね…」
若いゆえに、発想がシンプルだ。
「よしじゃあ、勝負はスラブレで先に5本先取した方が勝ちだ。そして勝った方が…」
「負けた方に何でも命令できる、と」
「そうだ。じゃあ早速アミュレットに」
「1本でいい」
「…なに?」
俺の提案に弟が止まる。
「1本勝負ってことか…?結構な博打だねお兄さん、でもまあそれでも…」
「何を言っている。1本はそっちの勝利条件だ」
「…なに?」
「俺は5本、そっちは1本先取で勝利、という条件でいいと言っている」
「…兄さん、死ぬよ?」
「フッ…」
「なんだよ…ただのイカレかよ」
相手はこちらを警戒するのではなく、完全に呆れている。
まあ仕方のない事だ。お互いの実力が分からないのに、5倍の勝利数というハンデを付けた俺は奇人・狂人の類に見えるのだろうな。
「いくらなんでも無茶だ、塚田!」
「青柳さん?」
「いくらお前がこのゲームに自信があるからって、相手も経験者だ。それにこのゲーム、一発逆転が常に付きまとうシステム…とてもじゃないが実力の分からない相手に5倍のハンデは多すぎる…!しかも負けたら、最悪死ぬかもしれないんだぞ」
「そっちのおじさんの方がちょっとは分かってるみたいだね。代わる?今ならおじさんと代わってお互い5本先取にしてもいいけど?」
「心配は無用。さっさとやるぞ」
「…あっそ。精々後悔しなよ」
俺は弟の最後通告を払いのけ、話を進める。
早く魔道具による儀式をやれと催促した。
「じゃあ、さっきのルールをお互い復唱した後、このアミュレットの剣に指先を軽く刺して血を垂らせばそれで発動するよ。いい?」
「ああ」
弟がアミュレットを俺たちの間の床に置く。そして。
「これから行うゲーム対決で、俺は5回負けたら相手のいう事を何でも聞く」
「これから行うゲームで1回負けたら相手のいう事を何でも聞く」
俺と弟はアミュレットの剣に指を軽く刺す。
すると血が流れ、騎士の胸像部分に触れる。
すると胸像が鈍く光り、二体の騎士が正面に掲げている剣が一瞬消え、お互いが相手の首に剣を突き付けているような形に変化した。
「おお…」
「これで準備は完了だ。どちらかの条件が満たされれば発動するよ」
「わかった。じゃあ、やるか」
早速ゲーム機の電源を入れ、対戦を始める事にした。
古いブラウン管のテレビからは音楽が流れ、ゲームのオープニングが始まった。
オープニングを飛ばし対戦モードを選択すると、画面にキャラクター選択画面が表示された。
「ルールは兄さんに選ばせてやるよ」
「そりゃどうも。じゃあ、CPUなし・アイテムなし・1試合のストック1・制限時間なしで」
「オーケイ」
ルールを決めたら、改めてキャラクターを選択する。
「俺はコイツだ」
弟が選んだのは王国のナイトというキャラクターだ。
攻撃・防御共にバランスの取れたキャラクターで、弓による遠距離攻撃もできる。
鎧のおかげで飛び道具によるダメージが少し軽減される。
「じゃ俺はこれで」
俺が選んだのはニンジャだ。
素早い動きと空中コンボで敵を翻弄するキャラクターとなっている。
ただし攻撃力と防御力が低いので、敵を弱らせにくく自分はすぐに動きが鈍くなってしまう。
故に敵の攻撃を避けながら手数で勝負する、上級者向けのキャラクターである。
飛び道具は2種類持っており、威力は低いが連射可能な手裏剣と、放物線の軌道で敵に攻撃が出来、なおかつ当たれば数秒間の追加ダメージを与える毒煙玉の使い分けが可能だ。
「いきなり尖ったキャラクターを使うんだな、塚田」
「そうですか?強いですよ」
このゲームをやっているであろう青柳が話しかけてくる。
どうやらこのコンテナ内でゲームの事が分かっているのは俺と弟と青柳以外は居ないようだ。
他の皆はこの先の展開を案じて不安そうにしている。
もちろん七里姉の方もだ。
「ステージは決戦場でっと…」
「じゃあ、始めるよ」
弟がスタートボタンを押し、いよいよ第1戦目が開始された。
「っ!?いきなりガーキャンダッシュか!」
青柳が驚く。
弟が開始早々上級移動テクニックを使ってきたのだ。
通常、ダッシュ行動を取ると終わりの方に隙が出来る。
しかし終わる直前にガードボタンを押すと隙がほぼ無い状態で防御姿勢を取り、隙を突かれる事無く移動することができる。
相手は更にそのガードをキャンセルしダッシュガード、キャンセルダッシュガードで隙無く長距離直線移動をするテクニックを使ってきた。
コマンドのタイミングが割とシビアで、自由に使えるようになるには相当な練習量が必要だ。
スタート地点からあっという間に距離を詰め、お互いの間合いに入る。
ちなみにスタート位置は毎回ランダムで、目の前の時もあればステージの端と端の場合もある。
今回は一番端と、反対側の2番目に遠い位置からのスタートとなった。
「起点技来るぞ!」
小刀を使う忍者よりもロングソードを使うナイトの方がリーチが長く、先に技を仕掛けてきた。
通常斬りのコンボの起点となる下段横薙ぎだ。
俺はそれを読んで小前ジャンプ通常斬りを仕掛ける。
そのまま下段斬り・突き×2・縦斬りと繋げ、最後に上浮かせ攻撃を当てる。
「上手い!」
「もう終わりです」
「え?」
浮いたナイトと同じくジャンプしもう一度打ち上げ斬りをした後、空中ニュートラル必殺斬りを発動させる。
そしてナイトが地面に落ち無敵判定に移行する直前にニンジャの必殺斬りが入り、敵をKOした。
画面には『SLAAAAAAAAAAAASH』の文字が表示され、リザルト画面へと移ったのだった。
「うおおお…あれで確定なのか…!」
「中量級のキャラは確定です。軽量と重量は確定ではないですが」
ゲーム内で明言はされていないがキャラによって重さが設定されており、中量級のナイトに対して確定で必殺斬りが入るコンボを選択した。
コマンド入力のタイミングが非常にシビアで、最後の必殺が早すぎても遅すぎても当たらない。
今回は決まったが。
「へー、大会出場レベルではあるんだね。やるじゃん」
「どうも」
「でも分かってる?兄さんは一度でも負ければ死ぬかもしれないんだよ」
「お前はあと4回で死ぬな」
「チッ…次だ次」
小賢しい盤外戦術など無駄だ。
あとキッチリ4勝で終わらせてやる。
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