第74話 レトロゲームと誓いのアミュレット

「あーあ!!"スラブレ"ならこんなヤツ、ボコボコにできるのになぁ!!!」



 倉庫内に俺の声が響き渡る。


 俺は戦場が静かになった一瞬のスキをついて大声で叫んだ。

 1階にいる者や、地下に隠れている者からしたら俺の気でも違えてしまったのだろうかと疑うかもしれない。

 しかしおれは しょうきに もどった

 いや元々正気だ。これが無血解決作戦の第一歩だ。


「エー!それって弟の得意なゲームなのよぉ!返り討ちなんだからー!」


 俺の叫びに対して、氷仮面こと魅雷が反応してくれる。

 若干白々しいが、まあ会話として成り立っていれば多少のアラは問題ない。

 仮面に覆われた顔は見えないが、耳は真っ赤だ。恥ずかしがっているのか。

 なんてことさせんのよ、という怒りが伝わっても来ている。


「いやいや、俺も大得意だからなぁ!っぱフルボッコよ!」


 さらに俺が反応。

 なんとなく、若者が使ってそうな言葉を並べてみた。

 これが古いのか、新しいのか、そもそも流行ってなどいないのか、それすら分からないが。

 何せ若者と接する機会がほとんど無いもんでね。

 ここ最近になっていのりや白縫という若者の知り合いが出来たが、彼女らが"フルボッコ"なんて言葉を使うとは思えない。


 そんなことを考えている内に、俺と魅雷の目の前に電光がほとばしった。

 そしていつの間にか目の前に仮面を被った少年が1人、こちらを見つめている。

 食いついたか…?


「あのさ、お兄さん。今なんつった?」

「ん?」

「フルボッコだとか何とか言ったよなぁ…?もう一度言ってみてよ」


 おー怒ってる怒ってる。

 表情は勿論見えないが、闘志むき出しなのが分かる。

 作戦の第1段階は成功したが、選択肢を誤ると一気に詰みそうだ。

 気を付けないと。


「…いや、気にしないで?ただの負け惜しみっつーの?戦闘じゃ到底歯が立ちそうにないから、俺の得意なゲームなら瞬殺なのにっていう心の声が漏れちゃった的な?知らないでしょ、初代スラブレ」

「知ってるに決まってンだろ…で、あのゲームなら俺をボコれるって?」

「そりゃな。でも今は関係ないから気にしないでくれよ。ホラ、憂さ晴らしの続きをやりなよ。まだそこらじゅうにいっぱい残ってるよきっと。ゲームじゃストレス溜まっちゃうから、人間で晴らしなよ」

「てめ…!」


 効いてる効いてる。

 相当ご立腹なようだ。体から電気がビリビリ漏れてるし。



「落ち着きなよ、冬樹」

「…分かってるよ…姉ちゃん」


 姉の魅雷が、頭に血が上りかけた冬樹を抑える。

 これも事前にお願いしていた内容だ。

 マジギレしそうなら止めてね、と。

 まあ、いつものことなんだろうけどな。


 やがて、一見冷静さを取り戻したように見える冬樹が話しかけてくる。


「お兄さん、そんなに言うならさ、やろうよ、スラブレ」


 乗って来た。


「え、憂さ晴らしはもういいの?」

「ああ。それよりもさっきの俺をフルボッコにする、だっけ?その鼻をへし折るのが先かなってサ…」

「マジかぁ…じゃあどこか出来るところを探すかぁ…」


 いいぞ。このまま倉庫を離れられればいい。

 ゲーム機とソフトはウチにあるから、最悪そこで…


「いいや、ここで出来るぜ」

「は?」

「さっきここを動き回ってた時に、コンテナの一つが休憩室みたいになってて中にテレビとキューロクとソフトがあるのを見たんだ。わざわざ場所を移す必要はないぜ」

「そうか…」


 誰だよ、レトロゲーム職場に持ち込んでるヤツは…

 まあいい。一先ず戦闘は終わった。

 平さんに頼んで、その休憩スペースにあるゲーム機を使わせてもらおう。


「言っとくけど、不意打ちなんてしてみなよ。全員黒焦げにするからね」

「…おーコワ」


 一応警戒はしておこうーーー


「っと…」


 何かが俺の背中に当たった。


「上手くいってるわね、お兄さん?」


 魅雷が俺の背中に寄りかかってきていた。

 俺は背中合わせに会話を続ける。


「おかげさんでな」

「ゲームの時は冬樹、怒っても能力は使わないから安心していいよ」

「そりゃよかった」


(いのり、聞こえるか?)

(ええ。なんか変な事になってるみたいね)

(まあね。それより平さんが居たら上まで来てもらえるかな?とりあえず一旦は戦闘はないと思うから)

(わかったわ)



 さて、ここから俺の「ゲームで友情芽生え大作戦」が始まるぞ!







 ________________







「…それで塚田くん、お願いというのは?」


 1階にやってきた平さんがおずおずと聞いてきた。

 まあ無理もない、俺の後ろには悪名高い(?)辻斬りが二人立っているのだからな。

 下手な事をすれば殺されるかもしれない。

 そう思うと中々普段通りの態度が出来ないもんだ。


 ちなみに、野次馬…もとい他のNeighborの面々はそこら中から覗いていたり、地下から監視カメラで映像を確認しているらしい。

 いのりのテレパシー情報。


「ああ、実はワケあって仮面の彼とゲーム対決をすることになりましてね」

「はぁ…ゲーム…」

「それで、そこらへんのコンテナにお目当ての対戦ゲームが有るらしくて、よかったらそれを少し貸してくれないかなーと思いまして」

「なるほど…確かゲームは青柳くんのだったと思うけど」


 マジか。アイツも少しはやるじゃん。

 最新機じゃなくキューロクとか、意外に見る目あるじゃないか。

 俺は早速青柳に許可を貰いに行こうとしたところ、話を聞いていたらしい本人が姿を現した。


「というわけで青柳さん…いいですかね?」

「…分かった、こっちだ」


 肩を押さえながら重い足取りで進んでいく青柳。

 恐らく真っ先に少年の前に出て、そしてノされたのだろう。

 俺への恨みよりも、この状況への戸惑いの色が顔から見て取れた。


 青柳の後を俺、姉弟、平さん、その他何人かで付いて行き、目的のコンテナに到着した。


「おお…」


 着いたのは6畳ほどの広さのコンテナで、中にはテレビとゲーム機、テーブル、ソファベッド、小型冷蔵庫などが置かれていた。

 まさに"くつろげる自室"といった内容になっている。

 置かれているゲーム機はネット対戦などが無かった時代の古いものだけなので、テレビモニターとコンセントだけあれば問題なくプレイできる。


「ここは俺が休憩したり仮眠を取ったりするのに使っている。よく分からんが、中のゲームは好きに使ってくれ」

「助かる」

「…それよりも塚田くん、どういうことか、説明してくれないか」

「平さん。なに、ちょっとコイツらと親睦を深めようと思いましてね。同じ能力者同士、仲良くしようじゃないかと…」

「そんなワケねーだろ」


 俺が平さんに目的を話している途中で、弟が会話に割って入った。


「俺はコイツが、スラブレなら余裕で勝てるっていうから、その自信を砕くために付き合ってやるんだ。遊びじゃない」


 そういうと、弟がポケットから何かを取り出した。

 そして掌に乗せて、俺の前に差し出した。


「冬樹、あんたソレ…!?」

「これは?」


 取り出したものを注意して見てみる。

 黒い甲冑を着た二人の騎士の胸像が向かい合い、右手に持った剣を目の前に掲げている。

 そんなデザインの、手のひらサイズの置物のようだ。


「これはな、"誓いのアミュレット"という魔道具で、簡単に言えば、ルールを強制的に順守させるアイテムだ。まず二人の間で決めたルールを口頭で確認する。その後この剣にお互いの指を軽く刺して血を垂らす。すると魔道具が発動し、二人の間で決めたルールは絶対に守らなければならなくなる」

「そんなものが…」


 純潔の輝石といい、コレといい、世の中には不思議なものが溢れているな。


「いいか兄さん。今からやるのはゲームであって遊びじゃねえからな。覚悟しておけよ」



 ゲームで親睦を深めて仲良くなる作戦は、どうやら失敗に終わりそうだ。


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