第70話 顛末

「ん…」


 眠っていた白縫から声が聞こえた。

 そしてすぐに目を覚ますと、上半身を起こしこちらを向いた。


「気が付いたか」

「アタシは…確か、急に具合が悪くなって…」

「今はどうだ?どこか痛いところとか、辛かったりするか?」

「…大丈夫みたい。どうしてなんだろ…?」


 自分の不調と、回復について疑問に感じる白縫。

 自身の体を少し動かして、様子を見ている。

 しかし少しして思い出したかのように。


「あ、それよりも。敵はどうなったの?確か二人は倒しに行ったのよね。もう全員倒したの?」

「ああ、そのことについて、白縫と、そしていのりと愛に報告しなくちゃならないことがある。白縫には特に辛い内容になるかもしれないが、しっかり聞いてほしい…」

「な、なによ…怖いわね…。もちろん聞くけど」


 俺の脅しに対し警戒している白縫だが、当然聞くことを選んだ。

 いのりと愛は何も言わず頷いた。

 その後ろには清野と驟雨介が立っている。表情からは何も読み取れない。


「…まず、連中は全員倒した。だからもう白縫が命を狙われることはないと思う」

「そう…よかったわ。この二日間は正直生きた心地がしなかったもの」

「良かったですね、白縫さん」

「ええ。南峯さんも真白さんもありがとう。アナタ達三人も」

「いえいえ」


 敵が全滅した事により一先ず安心した様子の白縫は、俺たち五人に礼を言った。

 いのりと愛も安心したように笑っている。

 驟雨介は返事をするが、清野は無反応だ。


「そして、白縫が連中に狙われている理由が分かった。コレだ」


 俺は白縫から見えない位置に置いておいた"純潔の輝石"を取り出し、白縫が座っているベッドに置いた。


「これって…明日の宝石即売会の目玉の…?綺麗ね~…ていうかデカいわね、コレ」


 白縫は、純潔の輝石の実物に大層驚いているようだった。

 裕福な生まれの白縫でさえ、この深紅の輝きと大きさは流石に見たことが無かったであろう。

 だがいのりと愛はこの宝石がどこから現れたのかを知っているため、白縫と一緒に反応する事はなかった。


「超能力組織【全ての財宝は手の中】の狙いは、この"純潔の輝石"だったんだ」

「ふーん。連中の狙いがこの宝石だっていうのは分かったけど、それとアタシに何の関係があるのよ。流石にこんなでかい宝石を気付かずに持っていましたなんて事は無いわよ」

「いや、それがあったんだ」

「はぁ…?」

「なぜならこの宝石は、さっきまで白縫の心臓だったものだからだ」

「え…?」


 白縫が「何をバカな」という顔をする。

 無理もない…俺だって実際に見るまで、そんなものがこの世に存在するなんて思いもしなかった。

 俺は白縫の頭がまだ整理されていないのは承知の上で話を続ける。


「つまり連中は、君の心臓であるこの宝石を狙って襲撃してきた、というワケだったんだ」

「…」

「でも、もうそれもさっき取り出したし、白縫さんは治したのよね?」


 さっき取り出すところを見ていたいのりが、白縫を安心させるために話を整理し先に進めようとする。


「ああ。白縫以外は見ていたと思うが、さっき清野がコイツを取り出し俺が君を回復させた。もう今まで通りの普通の心臓になっている」

「…であれば、良かったですね。もう謎の体調不良に悩んだりする必要もありませんよ」

「…そうね」


 白縫を励ます愛だったが、当の本人は沈んだままだ。

 もしかしたらもう、薄々気付いているのかもしれない。

 白縫だけでなくいのりや愛も、何となく今回の事の顛末が見えているような、そんな気配がする。

 でもしっかりと話を最後までしなければならない。


「白縫の体に問題は無い。狙われる心配ももうない。しかし何故白縫の心臓がこんなものと入れ替わっていたのかだが、この先は多少の憶測も入る。全てが真実ではないかもしれないが、聞いてくれ」

「ええ…」

「まずこの"純潔の輝石"の作り方だが。驟雨介の調べによると粉末状のこの"宝石のモト"を人体が吸収すると、その人間の血液を吸収しながら約一年かけて段々と心臓が宝石化するそうだ」

「!」

「多分、白縫がここ最近ちょいちょい貧血気味になったのは、宝石が形成されるのに使われる血液と月のモノが重なったことによるものだと思う。宝来でも話していたよな」

「そうね…貧血なんて本当に最近までなったこと無かったもの…」


 本人が言うんだから、ここは間違いないだろう。



「誰かに気付かない内に飲まされた可能性もあるじゃない!その粉末とやらを…」


 俺が話を続けようとしたところ、結論に辿り着いたと思われるいのりが可能性の一つを提示してきた。


 そして勿論その可能性も十分ありうる。

 例えば組織の誰かが1年前にこっそり能力で友達になりすまし仕込んで…なんてことも"絶対ない"とは言えない。

 白縫がターゲットにされたのはたまたま。処女の女性なら誰でも良かった。

 確証もないが、反証もない。


 だが、状況を整理すると…



「アタシ、知っていたわ…」

「え…」


 白縫がいのりのフォローを遮る。


「前からパパの事業が上手くいってないこと、アタシ知ってたわ…」

「それは…」

「それに、大げさすぎると思っていたのよね、たかだか貧血に、検査なんて…」

「白縫さん…」


 白縫は泣きそうな声で、自分の考えを絞り出す。


「パパなんでしょ…?アタシにその粉末ってのを飲ませたのは…」

「…恐らく、だけど」

「…即売会の運営に、その宝石の出品者を問いただすわ。それでパパか、その代理だったら、それで決まりよ…そうと決まれば早速…」

「その必要はないぜ」


 今まで黙っていた清野が会話に入って来た。


「警察権限で確認させた。出品者は【白縫 和十郎わじゅうろう】。オメーの親父だ」

「そう…そう、なのね…」


 とうとう、真実が明かされた。明かされて、しまった…。

 白縫の親父さんは我が子可愛さで検査していたわけでも、護衛を付けたわけでも無かった。

 全ては、商品をチェックし、守るためだった。


 こんな真実、中学生が受け止めるにはあまりにも残酷だろう。

 俺はどうケアしたものかと考えていると、突如



「あーーーーーーー!!!!」


 白縫が叫び出した。そしてーーー


「ほんっと、ムカツク!!!」


 と悪態ついたのだった。



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