第69話 残酷な真実
「人の体の中で作られる…?」
『はい…』
清野のスマホから聞こえてきた情報は、にわかには信じがたい内容だった。
純潔の輝石が人の体で作られるもので、虎賀が白縫を狙っているってことは、つまり…
「藤林、お前今どこで話してる?」
『虎賀が捕まったって聞いたので、彼女たちから少し離れた所で今話しています。周囲を警戒しながらですが』
「わかった。俺たちも移動しながら聞くぞ、卓也」
「あ、ああ…そうだな」
まだ片づけをしている職員が多く残っている中、スピーカーモードでこれ以上聞いているのは得策ではないので、俺と清野は驟雨介のいる場所へ向かいながら話を聞くことにした。
「続きを頼む」
『はい。純潔の輝石が人体で生成されるというのはさっきお伝えしましたが、宝石になる前は粉末状になっているそうです。それを男性経験の無い女性、つまり処女の女性に飲ませる事で、その粉末が心臓に定着します。そして定期的に宿主の血液を吸い成長し、約1年ほどで完成します』
「……完成するとどうなる…?」
『宿主の心臓そのものが赤い宝石になります。それが純潔の輝石の生成方法なんです』
「マジか…」
驟雨介が淡々と語る真実はとても衝撃的な内容だった。
心臓そのものが宝石になるってことは、つまり宿主は死ぬという事だろう。
そしてここ数カ月の白縫の貧血や体調不良、そして父親の過剰なまでの検査。
最後に虎賀が語る"あんな父親"発言。
それらが示すことは…
『ちなみに、純潔の輝石には病を治したり無くなった体の一部を復活させると言った言い伝えがあるそうです。あと、これも調べていたんですが、白縫さんのお父さん、実は会社の経営が上手くいってないみたいで、多額の借金があるのだとか。だから塚田さん達への依頼報酬も、かなり無理して捻出したのではないかと思います』
「…そうか。これで全てが繋がったよ…」
「らしいな、くそっ…!」
清野が忌々しそうに毒づく。
俺も気分は最悪だった。あんなに父親の事を慕っている白縫に伝えるには、あまりにも残酷な今回の真実に。
「…ありがとう驟雨介。こっちで得た情報を合わせて、今回の件を俺なりに整理するな」
『はい、お願いします』
・白縫の父親が借金返済のアテに、我が子に"純潔の輝石"の元となる粉末を飲ませた。時期は約1年前だと思われる。
・何かしらの病を抱えていた虎賀はその治療の為に、神秘の力を持つとされる"純潔の輝石"を追っていた。ハガキの力を使って、それが白縫の体内で生成されていることを探り当て、狙ってきた。おそらく病は医学や普通の能力者では治せない物だった。
・父親が"今日まで"護衛を頼んだのは、明日のオークションに出品する為今日中に白縫の体内から輝石を取り出すつもりだったのだろう。一見過剰とも思えるMRI検査なども白縫の体を
・最近になって起こるようになった白縫の貧血は、輝石の生成に必要な血液の吸収と生理の日が重なったために起きた。彼女の話では以前はそんな症状は無かったとのことだから、輝石の生成期間から逆算すると丁度一致する。
・本来だったらリスクでしかない2日間の外出を許したり、家族の思い出があるホテルを大枚はたいて予約したのは、きっと父親なりの最期の優しさのつもりなのだ。でも万が一があってはならないので警察に無理を言って護衛を付けさせた。【手の中】が石を狙っているなんて情報は父親の耳には届かなかったんだな…もし知っていたら死んでも横濱になんて行かせないハズだ。最悪そこで白縫は…
これが今回の一連の騒動の真実だろう。
『…確かに、それで一応全て繋がりますね』
「ああ、虎賀が仲間に目的を伝えなかったのは情報漏えいを危惧しての事とは別に、石を独占したかったっていうのがあるかもしれねえな」
「使い切りアイテムかもしれないしな」
虎賀と他のメンバーは、それほど信頼関係が無かったのかもしれない。
病気の事も、多分他の人間は気付いていなかった。
だから弱った姿を見せないよう虎賀は一人であんな倉庫に居た。
全員で攻めてきたりしなかったんだ。
しかし、この事をどうやって白縫に伝えよう…
ショックを受けるのは間違いないが、下手に嘘をつくのもあとあと厄介なことになる。
なによりまず、体内で生成されているであろう石をどうするかだが。
『先輩、塚田さん!白縫さんの容体が…!』
俺が白縫にどう説明するかを考えていると、スマホの奥から焦った様子の驟雨介の声が聞こえた。
「卓也、急いで向かうぞ」
「分かった」
俺と清野は、急いで4人の居るホテルへと向かう事にした。
________________
「白縫!」
「卓也くん」
「卓也さん」
驟雨介に部屋を開けてもらい、俺はホテルの白縫が寝ているという寝室の扉を開けた。
すると不安そうないのりと愛に出迎えられた。
そしてその先のベッドに、白縫が寝ている。
俺は白縫の手を取り状態を確認するが、ライフも血液量も異常は見られず、ただ単に弱っていた。
すると俺の後ろにいた清野が声をかけてくる。
「血液の流れがおかしい。心臓の部分をちゃんと通っていない。恐らく、コイツの心臓はもうほとんど結晶化している」
「くそっ…」
明日出品するつもりなら当然もうすぐ完成するだろうと読んでいたが、実際に友人がそうなってしまうのを目の当たりにすると悔しさがこみあげてくる。
「迷っている時間は無い、やるぞ」
「…ああ」
俺と清野は、ここに来るまでに打ち合わせていた事を実行しようと決めた。
「ねえ、卓也くん。どういうこと…?」
「すまないいのり、愛。今は余り時間が無い。だけど信じて待っててくれ」
「…わかったわ」
「はい」
「ありがとう」
早速俺は寝ている白縫の上半身だけを起こし支える。
手を握り、ライフを常に認識できるようにして。
「やるぞ」
「ああ…」
清野が俺に声をかける。
そして俺の返事を聞いた清野は、水の触手を作り素早く動かすと、白縫の心臓目がけて突き立てた。
「!」
いのりと愛が驚愕している中、物凄いスピードで白縫の体から心臓を取り出す清野。
「今だ!」
瞬間、俺は能力を使い白縫のライフを回復させた。
すると、胸に空いた穴が瞬時に埋まり、白縫は命を失うことなく元の状態に戻ったのだった。
俺は一息つくと、目の前にある清野の触手に持ち上げられた赤い宝石を見て
「綺麗だな…」
と呟いた。
本当に、白縫の体の中にあったんだな。
そして本当に心臓が変化したんだなと思わせる形。
処女の血で作られるから"
「卓也さん…これは」
友人の心臓を取り出すなどと言うだけでも衝撃映像なのに、中から宝石が出た事で軽くパニックになっているいのりと愛。
俺は彼女らに
「白縫が目を覚ましたら、ちゃんと説明する。かなり白縫にとっては酷な話になるが、今回の騒動のことを1から伝えるから」
もう隠さずに言おうと、決意したのだった。
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