第54話 一段落
『ヤバいなら今虎賀さんを呼んでくるからよ…!』
マズイぞ…
電話の先の男は判断が早いな。
こちらが応答できないと見ると、もう増援の段取りをし始めている。
もし増援を呼ばれるようなら、すぐにでもここから離れる必要がある。
そうすると3人の襲撃者はこのまま置いていくしかない。
コイツら能力こそ使えないが、生きて返せばこちらの情報を話されてしまうだろう。
例えば俺の見た目や能力の一端が伝わってしまうと、向こうに対策を取られてしまう。
対してこちらは相手の情報をほとんど持ち合わせていない。
状況は更に悪くなってしまう。
それにこの襲撃者ども、人を殺すのに何の躊躇いも感じない様子だった。
俺の予想の一番悪いヤツが的中しているとしたら、仲間があと6人もいる。そうなると俺だけでは流石に対処できない。
ここはコイツらを人質に交渉でもするか?いや、仲間ごと攻撃してくるに違いない。
既に酸素女が変身男に対してそれをしている。
『おい、いいんだな?しのぶ!切るぞ!』
「くっ…」
俺が頭の中で対応策を巡らせている最中、いよいよ電話の向こうの男が動き出そうとしていた。
しかしその時、部屋内にも動き出している影がひとつあった。
その影はスマホまで一直線に向かうとおもむろに手に取り、そして。
「あぁ、ごめんごめん。ちょっと敵が悪あがきしてきてさ。殺すのに手間取っちゃったよ」
「!?」
『なんだ、そうだったのか。反応が無いから何かあったのかと思ったじゃねーか、しのぶ』
電話に応答したのは、何と愛だった。
愛は先ほどの酸素女と似たような口調と声で、電話の向こうの男と話していた。
通話の傍らもう片方の手の人差し指を唇に当て、俺に「静かに」というジェスチャーをしている。
ていうか、話し方似すぎ。
『電話してきたってことは、もう全員死んだんだな?』
「ああ、そうだね」
『じゃあさっさと運んじまうか。カメラ起動させてくれ』
「え…?」
急に出てきたワードに愛が思わず聞き返してしまう。
男の能力に関係しているのだろうが、しっかり対処できないと本当の仲間ではないことがバレてしまうかもしれない。
『いやいや、ビデオカメラ機能だよ!俺の【
「あ、あぁ…」
男がバカで良かった…。
ベラベラと自分の能力の内容を話してくれたおかげで、こちらも対応ができそうだ。
俺は早速愛にジェスチャーで指示を飛ばし、どのあたりにカメラを向ければ良いかを伝えた。
愛は黙って頷くと、ビデオ通話機能を起動させ指定の場所を撮影しはじめた。
『おー、OKOK。んじゃ、作りますか。帰り用に俺のスマホはつけっぱでこっち置くから、間違っても切るなよー?』
「ああ…」
男はそういうと、すぐにこちらにも変化が起きた。
愛が撮影している辺りの、床のすぐ上くらいが光りだしたのだ。
その光はゆっくりと線を描き始め、やがて扉のような形を作った。
どうやら電話の向こうの男は移動系能力者のようだ。
俺は静かにその扉のような光に近づき、その時を待った。
すると扉がガチャリと音をたてて開いたのだった。
『ふー、お待た…グゥ…!?』
俺は中から出てきた男を後ろから締め上げた。
抵抗しようとしているが、真っ先に弱体化させているので子供より容易く拘束できていた。
途中俺にタップしてきたのが少し可笑しかった。
「ぐ…!」
「残念だが、お前のダチじゃねーんだわ」
ガタイが良いだけあって中々しぶとかったが、やがて男の抵抗も止み全身から力が抜けたのが分かった。
そこでようやく拘束を解き、俺は男を床に放った。
立ち上がると、傍で見ていた愛と目が合う。瞳の色は不安一色だった。
俺はそんな愛に一声かける。
「さっきはありがとう。ナイス機転だったぜ」
「お役に立てたなら良かったです」
「お役どころか命の恩人だな」
「それは…お互い様ですね」
「そっか」
愛は流石というか、この状況でもしっかり頭が回るのは凄いなと思った。
酸素女の攻撃の時といい、さっきのなりすましといい、愛がいなかったらもっと状況はヤバかったかもしれない。
マジで恩人だ。
俺と愛が話をしていると、奥で死んだフリをしていたいのりも起き上がりこちらへ向かって歩いてきた。
服は血塗れだが、元気そうで心底安心した。
「おー、お疲れさ…」
「卓也さん」
俺がいのりに一声かけようとした時、愛が俺の腕を引っ張った。
どうかしたのかと愛の方を見ると、愛はとあるモノを指差した。
「あれ、見てください」
「一体どうし…た…」
最悪の予感ってのはどうして的中するんだろうか。
きっと今日の占いは、俺ら4人で下位を独占しているに違いない、なんて思った。
俺は床に倒れている男のケツポケットから出ている、両手と宝石が描かれた特徴的なカードを見て思わずため息を漏らした。
【全ての財宝は手の中】
矢井田 創
城戸 明衣
渡会 しのぶ
小野 雄吾
気泉の封印と身体能力の大幅な弱体化により 再起不能
_______________________________________
「せんぱーい、電話っすよー!」
夜の神多交番に1人の男の声が響き渡る。
男は自分の先輩である"清野 誠"の充電中のスマホに着信があるのを見て、奥の居住スペースで夕飯(デリバリーのラーメン)を食べている本人に声をかけたのだった。
奥からは「チッ…今いいとこなのによ」というボヤキが聞こえる。
どうやら清野はテレビに集中しているようだった。
このままじゃシカトされると思った男は、スマホの画面を確認すると
「友達の塚田さんからみたいですよー」
と、清野に追加情報を与えた。
男は、清野が卓也からの用事の時は割とすんなり応じるのを知っていた。
なのであえて着信元が卓也であることを知らせ、スマホを持って行ってもらおうと画策したのだった。
程なくして奥から清野が顔を出し、未だ鳴りやまない充電中のスマホからケーブルを引っこ抜くと卓也からの着信に応じた。
男はようやく落ち着いて【ライトの碁】の続きが読めると、マンガアプリを起動した。
ちなみにライトの碁とは、15年ほど前に週刊連載していた少年漫画で、主人公の刀夜ライトが天界から落ちてきた"歴史上のあらゆる棋譜が記憶された"【キフノート】を拾う所から物語が始まる。
ノートを触ったことで主人公は自分にしか見えない囲碁の神様にとり憑かれ、囲碁を教わりながらその魅力にハマっていく。
そして最強の名人を父に持つ、ライトと同い年の少年"進藤エル"との出会いによってライトの運命は動き出す。
友情努力勝利が詰まったファンタジー囲碁マンガ、ライトの碁は幅広い世代に人気を誇った名作マンガなのだ。
男はようやく空いた充電ケーブルに自分のスマホを差すと、マンガの続きを読み始める。
「おう、なんだよ。こんな時間に」
『悪いな、今大丈夫か?』
「飲みなら今日はダメだぜ。夜勤サボリすぎて上司に目ェ付けられてんだからよ」
『いや、飲みじゃないんだ』
「じゃなんだよ」
『あのさ…』
男は近くで話す清野を何となく見た。
『【全ての財宝は手の中】のメンバーを4人捕まえた、って言ったら信じるか?』
清野の顔がみるみる険しくなっていくのを、男は横から見ていた。
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