第52話 指ふたつ
【全ての財宝は手の中】のメンバー渡会しのぶはとても賢く、思いやりがあり、面倒見の良い人間だった。
他のメンバーからの彼女への信頼は厚い。
面倒見の良さに関しては、彼女の家庭環境が育んだものだった。
幼い頃に両親が離婚した彼女は母親に引き取られ、六畳一間の安アパートで青春時代を過ごすことになった。
彼女の母親は自分に悪いことがあると、直ぐに環境や周りのせいにし自己を保とうとするどうしようもない人間だった。
反省がないから成長もせず、同じ過ちを繰り返しては物や人にあたる正に人間のクズだった。
渡会はそんな母親を反面教師にし、常に「ああはならないようにしよう」と心がけて日々を過ごしていた。
生来の優しさに加え、劣悪な母親のもとで培った"人に優しくしよう"という価値観が、小中高大と学校での彼女の人気ぶりを加速させた。
勉強が出来、スポーツが得意で、誰にも分け隔てなく接する彼女が人気者にならないハズがなかった。
しかもサバサバとした態度が女子にもウケていた。
家庭環境以外順調だった彼女は21歳の時突如能力に目覚めた。
彼女の能力【
人間にとって酸素は生きるために無くてはならない物質であると同時に、大気中で一定の濃度を越えると途端に牙を剥いてくる恐ろしい物質でもあった。
高濃度の酸素を取り込むと人間は手足の痺れや毛細血管の損傷による失明などを引き起こし、やがて体中の組織が破壊され死に至る。
逆に濃度10%以下の空気は"酸欠空気"と呼ばれ、少し吸っただけで人間の意識を奪う。
能力に目覚めた彼女は、ささいなキッカケで暴れる母親の息の根を止める…などというありがちな事は無く、能力の事は誰にも言えず今までよりもちょっと控えめな日常を過ごしていた。
組織のリーダー、虎賀に会うまでは。
虎賀は警察よりも早く彼女に接触し、組織に引き入れた。
どのように口説き落とし引き入れたかは、当人しか知らない…。
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【全ての財宝は手の中】のメンバー城戸明衣は甘え上手だ。
そして彼女は常に誰かと一緒に居ないと寂しくて死んでしまう、と自分で言うくらい1人になるのを嫌った。
そんな彼女は当然、学生時代は常にどこかのグループに所属していた。
所属するグループは地位やパワーで決めず、彼女が「楽しそう」と思ったところに直感で入ることが多かった。
周りからの印象は「あまり目立たない」が「いつも楽しそう」だった。
彼女も高校時代突然能力に目覚めた。
彼女の【
実は常に孤独を感じている彼女の心の現れなのか、それとも友達を逃がすまいとする歪んだ欲が生み出したのか。
それは分からないが、ともかく彼女は能力者になった。
組織に入ったのは偶然だった。
たまたま街で集まって話していた渡会たちメンバーを見て、ピンと来て声をかけた城戸。
だが面倒見の良い渡会と甘えたがりな城戸、出会ったのは必然だったのかも知れない。
能力の相性も抜群の2人は任務でもそれ以外でも一緒にいる事が多かった。
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