第51話 反撃の兆し

 考えろ、この状況を脱するための突破口を。

 そしてその突破口を突き抜けるパワーが俺の能力にはある。

 諦めるのは死んでからでも遅くはない。


 まず本体を見つけて叩くという手段。本当に不可能か?

 問題は敵がこの部屋にいるかどうかだ。

 ここに着いてから既に部屋内はしっかり探して、人の隠れられるような所は潰した。

 それでも潜んでいるとしたら毒の能力とは別に『姿をくらます能力者』が居ないと無理だ。


 閉じ込めた能力者を含めると、最大で3人、この部屋に潜んでいるかもしれない。


 3人…2人…。

 このセンは少し考えにくいか…。

 そんなに大所帯で居たのなら、堂々と入り口から入ってきたあの変身能力者はなんだ?って話になる。

 あんなの寄越さなくても、最初から毒を放っておけば済む話だ。

 実際になぜそれをしなかったのかは分からないが。

 拘りなのか、縛りなのか。それは直接聞いてみない事には何とも言えない。


 とにかく変身能力者が最初に出向いて攻撃してきた以上、2~3人が今もこの部屋にいるという事は無いだろう。

 タイミング的にも、部屋の外で変身能力者がやられたのを見計らって毒攻撃を開始したと見て間違いない。


 つまり毒能力者、閉じ込める能力者ともにこちらから攻撃できる場所にはいない、ということになる。

 あくまで可能性だが。



 次に能力の発生源や起点を潰すという手段だが。

 一応先ほどからサーチで探ってはいるが、変にエネルギーが集まっているような場所は見当たらない。

 きっと満遍なく部屋に充満しているのだろう、毒とエネルギーがな。

 潰して収まるような起点は無さそうだ。


 となると、やはり毒自体をなんとかしないとならないな。


「ふぅ…」


 顔の流血を手で拭い、クラクラする思考を回復で戻すと、改めて能力行使を試みる。

 だがやはり、空気中には毒のような成分は検出されなかった。

 しかし、綻びがあるとするのならここしかない。

 何故なら、実際に俺たちには症状が出ているのだから。


 超能力で未知の毒物質を生成している?

 それとも俺が認識すら出来ないほどの物質だったのか?


 どちらもあり得る。


 何せ異世界、何せ超能力だ。理屈も理論もとっくに越えている。

 だが、それで諦めるということは死を受け入れるのと同義。

 捨てるのは俺の命だけじゃない。

 依頼人の白縫や、俺を信じてくれたいのりや愛の命を捨てることになる。

 それはありえないし、なにより…


「この攻撃の礼はキッチリ返さないとなぁ…!」


 いきなり俺たちを攻撃して来やがったバカ野郎に、この拳を叩き込む。

 それまでは倒れるわけにはいかない。

 俺は痺れを忘れるくらい闘志を燃やして、握りこぶしに力を入れた。


 さて、考えよう。

 空気中にも体内にも毒は見当たらなかった。だが確実に『毒は存在する』とした場合、間違っているのはなんだ…?『探す場所』か…?

 いやしかし、探す場所なんて自分の体か空気中くらいしか…


「…空気か」


 頭の中に少しだけ電流が走ったような感覚がした。今までずっと『空気中の毒』を探そうと必死になっていた。

 しかし思えば、空気は色々なモノの集まりだということを思い出した。

 二酸化炭素とか、窒素とか、


「酸素…とか」


 頭の中でスパークとも言うべき刺激が強さを増していく。

 まるで難問をようやく解き終わった時のような。

 あるいは徐々に変わっていく絵の、変わった箇所に気付いた時のような達成感。

 疑問が少しずつ確信に変わっていく。


 まだ喜ぶのは早い。

 確かめたわけではないし、違った場合本当に終わりだ。

 俺は息をなるべくしないように精神集中をし、空気の成分を調べるつもりで自身の能力を行使した。


「…やっぱりそうか」


 姿の見えない敵は、『毒ならざる毒』を使う能力者だった。










 ______________________________________









 2105室の入り口ドアがゆっくりと開かれる。

 先ほどまで暗闇が広がっていたハズの場所には、高価そうな絨毯の敷き詰められた廊下が見えていた。

 そしてその廊下から室内へ、2人の女性が入って来た。


「うわー!いい部屋ーー!」


 テンション高めに室内をズケズケと進んでいくのは、【全ての財宝は手の中】のメンバー、城戸である。

 彼女はここが他人の部屋だという事はおかまいなしにどんどん先へ行くのだった。


「ホンット広いわね…これだから金持ちは」


 忌々しそうに呟きながら城戸の後をついていくのは、同じく【全ての財宝は手の中】メンバーの渡会だった。

 彼女も城戸ほどテンション高くではないが、遠慮なく室内を歩いている。

 そして


「いたよー、こっちに人!」


 城戸がリビングから渡会を呼んでいる。

 だからと言って特に速度を上げることなく、マイペースに声のする方へ向かう渡会。

 やがてリビングに入ると、城戸は更に促すのだった。


「こっちこっちー。女の子が3人とー、奥の部屋の方に男の人の手が見えるよ。倒れてるっぽいー」

「4人…ハガキの内容と一緒だね。…っと、こっちに矢井田がいるね」


 先行する城戸はリビングの奥の方に倒れているいのりたち女子3人と、更に奥の部屋にある卓也の手を見つけ、自分達のターゲットが全員いることを確認し渡会に告げた。

 そして同時に渡会も出入り口の程近くに倒れている矢井田の姿を捉えたのだった。


「よかった…生きてるみたい」


 顔から流血し倒れている矢井田を見て、一瞬最悪の事態を思い浮かべた渡会であった。

 しかし、矢井田に息がある事と壁に付着した血痕を見て、敵の攻撃により倒れたのだと理解したのだった。



「ねーねー」


 一安心したのも束の間、城戸が再び渡会を呼んでいた。


「どうしたの?」


 移動せずにその場で確認をする渡会。すると城戸はあるものを手にとって上に掲げた。


「腕しか無かったー」


 城戸が手に持っていたのは左腕。

 成人男性の左腕、その肘から先の部分を持って振っていた。

 先ほど確認した奥に倒れている男というのは、この腕だけだったのだ。


「腕だけ…… !? 明衣!!」

「え?」


 渡会が腕だけの存在に違和感を覚えた直後、城戸が立っている寝室入り口とは反対側の寝室から猛スピードで何かが飛び出した。

 そして城戸の傍まで一気に近づくと。



「水氷…風雷拳…」


 残った右手が狙いを定めた。



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