✿ 余話 ✿ 霊感がある友人の出身地は、まさかのあの地!


 俺――紫桃しとう――は有給休暇を取って東京に来ている。


 旅の疲れを癒やしながらホテルの一室で一服している――といいたいが、喫煙できる部屋ではなく、さらにホテル内に喫煙所はなかった。なので最寄り駅近くの喫煙所に向かっている。


 隣には、きらきらとした目をせわしく動かして街を見る友人・コオロギ――神路祇こうろぎ――がいる。東京に住んで何年も経っているはずなのに、地方から出てきました感が満載だ。



「楽しそうだな」


「初めて来た駅なんだ。何か面白いものあるかな~♪」



 何かに気づいて視線が止まるとしばらく凝視する。驚いた顔になったり楽しそうに笑ったりと、表情がころころと変化して感情がストレートに出る。見ていると面白くて飽きない。



「コオロギは全然変わらないな」


「ほん?」


「職業訓練に通っていたときと変わらないよ」


「そんなことないぞ。東京にもだいぶ慣れた」



 そうじゃなくてさ、物事に対する反応の仕方が会ったころと同じなんだよ。コオロギが地方から東京へ来てすぐに職業訓練に通い始めたときのまんま。


 好奇心旺盛というか、すべてのことに楽しそうなんだよな。一緒にいるとこっちまで楽しくなってしまう。


 ふとコオロギのイトコ・もりのことが浮かんだ。彼女はコオロギとだいぶ性格が異なる。同じ出身なのに、こうも違うと気になってしまい質問した。



「そういや、杜は九州から来ているのに東京慣れしている感じだった。

 コオロギみたいに街あるきもしているのか?」


「ツバメが東京に来るのはコンサートに参加するのが目的で、ほかはあまり興味がないみたい。

 一人では観光しないからいつも自分が案内してるんだ」


「そっか。会ったときから堂々としていたから東京に慣れているのかと思ったよ」


「ツバメはね、しっかりしているんだ。親が離婚して引っ越しを経験している」


「そうなのか……」


「ツバメの場合は県を越えた引っ越しをした。

 新しい土地では、友人関係を初めからつくらないといけない。自分から積極的に交友をもとうとしても、これまで住んでいた所と新しい土地の慣習の違いがある。価値観が異なってなじめなかったり、話し方の違いでからかわれることもあったはずだよ。

 大人も大変だけど、ツバメ子どもも苦労するんだよね」



 あまり深く考えなかったけど、住んでいた県が変わるといろいろ苦労しそうだ。関東圏の俺が関西へ移住すると、関西弁がうまく言えなかったり、相手が話していることを正しく理解してないこともあったりして混乱しそうだ。


 大人だと経験があるからなんとか対処できることが多い。でも子どもは経験がないうえに、周りも子どもだから無理解だ。なじむまでに苦い経験をしてきたかも……。ちょっと杜に同情した。



「あとツバメは一人っ子だからしっかりしているのかも。

 模範になる姉や兄がいないと自分で判断するしかないし、親を助けるために家の手伝いもしてきた。自立している分、甘えるのが下手なんだ。

 その反動なのか、自分の前では子どものときのように慕って甘えてくるよ」



 甘えている……?

 どっちかというと、年上がコオロギをかわいがっているように見えるが……。


 まあでも、杜をちょっと見直したぜ。俺に対する警戒心やきつめの言動は、これまでの彼女の経験からきたものだろう。地方出身者は流されやすかったり、だまされやすかったりして、危なげなイメージをもっていたけど杜は心配なさそうだ。


 喫煙所に着いたので俺は煙草を取り出した。コオロギはどうするかなと目をやると、「コンビニに行ってくる」とすぐ近くにあるコンビニへ歩きだした。


 煙草を吸いながらさっきの会話を思い出していた。

 県をまたいだ引っ越しをした杜……。そうは見えないけど、やっぱりいろんな経験をしたんだろうな。


 テレビが普及してからは、ニュースキャスターなどがきれいな標準語で話すから言葉のなまりはなくなってきてるというけど、やっぱり地域差はでるものだ。変とまではいかないけど、杜にもイントネーションの違いがあった。なんか新鮮だったな。


 ん? 待てよ?

 コオロギって、イントネーションが明らかに変だよな。

 独特というか、妙というか……。


 もともと同じ県に住んでいた杜とも全然違う。

 九州から上京してきたことは聞いているけど、どこの出身なんだ?


 気になり始めると出身地を知りたくなり、悶々としていたところにコオロギが戻ってきたから聞いてみることにした。



「コオロギは九州のどの県の出身なんだ?」


「九州?」



 あれ? なんでふしぎそうな顔をしているんだ?

 職業訓練を受けたときに言っていたよな?



「職訓の自己紹介で、コオロギは『九州から上京してきた』って……」


「あぁ、それでか!」



 首をかしげていたけど、納得した表情になり話し始めた。



「九州の大学に進学したから、しばらく九州にいた。

 そこから東京へ行ったから『九州から上京してきた』と言ったけど、九州出身じゃないよ」


「え? じゃあ、どこの出身なんだ?」



 コオロギはいたずらっぽく笑みを浮かべた。


 コオロギはたまに意地悪をする。たぶん俺の反応を見たいんだろう……。

 こういうところは本当に小学生男子と似たような思考だよな。しょうがない。付き合ってやるか。



「九州じゃないなら……関西あたり?」


「ブッブー」


「なら、東北か?」


「ブ―――!」


「じゃあ、北海道か!?」


「南だよ」


「南? うーん……。四国?」


「違うよ」


「なんだよ、わからないぞ?」


千秋ちあきチャン、降参?」



 俺を下の名前で呼ぶと、のぞきこむように見てきた。

 コオロギが俺のことを「千秋」で呼ぶときはご機嫌なときだ。案の定、にこにことうれしそうな顔をしている。


 はいはい、仕方がないな。



「降参! 教えてくれよ!」



 わざと困ったような顔をして頼むと、コオロギは「しょうがないな~」とはずんだ声で言い、満面の笑みを見せた。



「正解はね、九州よりも南。島の出身だよ」


「えぇっ!?」



 予想していなかった答えに俺は思わず大声をあげ、そのまま固まった。


 たいていの日本人は平坦な顔といわれているがコオロギは異なる。目鼻立ちがはっきりしていて、どこかエキゾチックな雰囲気がある。あまり見ないタイプの美人だと思っていたけど納得だ!


 コオロギはコンビニ袋に手を入れて、がさがさといわせている。何かを探していたが音がんで、うれしそうに中からセ○イヤチョコレートミルクを取り出した。


 チョコを手にしたら俺のほうへ視線を戻した。俺を見るなり表情が変わっていく。いたずらが成功した子どもと同じように目を輝かせて、にいっと楽しそうに笑った。


 いつもならつっこみを入れてもいいところだが、数年来の付き合いのある友人が、島出身という事実を今さら知り、かなり衝撃すぎて口を開けたまま立っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る