26 人とアヤカシの隔たりがうすい島
「あら、こんな物まで買ってきてくれたの? 気が利いているわね」
コンビニで購入してきた商品を冷蔵庫に直す女性と、窓近くにあるテーブルにつまみを準備している女性の姿がある。二人の女性がいるホテルの一室に俺はいる。
俺――
部屋にいる女性の一人は俺の友人・コオロギ――
「紫桃、いくらしたの? 私の分を払うわ」
「ツバメ、なんで紫桃が買ったってわかったんだ?」
「だってレイちゃんは、頼まれた物と自分の好きな物しか買ってこないでしょ」
「ぐっ」
そう、杜の言うとおりだ。買い物のほとんどは俺がチョイスして支払いも俺だ。コオロギにお使いは頼まなかったけど……。
「まさか自分の物だけ買ってくるとは思わなかったよ」
「え? 私が頼んだ物も買ってなかったの!?」
「ああ。チョコと新商品の小袋スナック菓子をいくつか」
俺が煙草を吸っている間にコオロギが買ってきたのは、自分が食べたかった物だけ……。杜が要望していた
「ひ、久しぶりにセ○イヤを見つけたから、食べたくなったんだよ!
頼まれた物も買うつもりだったよ?」
たとえそうだったとしても、チョコを食べていた時点では忘れていただろう……?
袋をチェックして本当に良かった。杜に頼まれた品と
杜があきれ顔でコオロギを見ているけど、俺も同じような表情をしているだろうよ。
「ささっ、二人ともどーぞ! 座って、座って」
俺らの空気をごまかすように、ソファに座るように促すコオロギだが、差し出してる両手の先にあるテーブルを見て笑いそうになった。
自分が座る席の前に好きなお菓子を固めている!
この食いしん坊め。
「レイちゃん、私、こっちに座っていい?」
杜がちょっと意地悪な顔をして、コオロギが座るであろう席を指さしている。あわてだしたコオロギは返事に困っている。
わかる、わかるぞ。意地悪したくなるよな。
「冗談よ。私はベッドでいいわ」
「えっ? ベッドだとテーブルに手が届かないだろう?」
「ナイトテーブルを使うわ」
「でも……」
「
コオロギよ、杜に気をつかう必要はないぞ。
俺にはわかっている。杜はこの部屋で撮っていたコオロギの写真を整理したいだけだ。
コオロギのコスプレ写真……。
うらやましい――いや、なんでもない!
杜はベッドに陣取り、パソコンを開いてさっそく作業を始めた。コオロギが杜用に飲み物やつまみを取ってナイトテーブルに用意し、俺の席は自然とコオロギの隣になった。
気を取り直して、と。
俺は抑えていた好奇心を解放し、コオロギに聞きたかったことを質問した。
「コオロギの地元では
「うーん。奇妙な体験が多いというより、勘の鋭い人が多い……というのかな?」
コオロギの言いたいことがよくわからない。ここでも言葉足らずか……。
どうやって言葉を引き出そうか困っていたら杜がパソコンから目を上げた。
「あの島はね、霊感のある人が多いのよ」
「え!?」
「島にいたときは気づかなかったけど、あの島は霊感のある人が多いわ。
多少なりの霊感をもっている人が身近にいるから、怪異体験も相対的に多くなるのよ」
「霊感がある人が多い!? どんなところだよ!」
「『○○○団地の△棟から飛び降りる幽霊が視えた』とか、『□□号道路には幽霊が立っているから声をかけてはいけない』など、雑談の中に怪談が混ざっているの。
「日常会話で出てくるのか?」
「『そういや、こんなことがあったよ』というノリで話してくるわ。
ふしぎな出来事なのに島の人たちには『またか』ととらえる人のほうが多いの。
すぐに次の話題へと移っていくところが一番怖かったわ」
「うそだろ!?」
あり得ない状況が信じられなくて、杜からコオロギへ視線を移して質問を投げた。
「コオロギ、杜の言っていることは本当なのか!?」
「変な体験をしたという話は身近でも聞く。
でも島では奇妙な体験をしていても積極的に話さないから、体験者が多いのかはわかんないなあ」
「へ?」
「『
「なんで!?」
「珍しいことと思わないから」
「見えないナニカに足を引っかけたって、珍しいことだぞ!」
「足を引っかけたモノが幽霊として視えたなら、怖いモノを視たと話すかもしれないけど、姿のない
「いやいや、完結させるなよ!
「ほ―――ん?」
啓蟄の
それなのに、どこがふしぎなんだと言いたげにコオロギは首をかしげている。当事者なのにその感覚はおかしいぞ!
「常識を問うことは不毛ね。
島では幽霊や妖怪などの
別物と分けていないから身近にある事象の一つのように思えるの」
そうか! 日常なら怖くなくなる――わけないだろっ!
得体の知れないモノが存在しているなんて不気味すぎるわ!
混乱するなか、チューハイを飲み終えたコオロギが淡々と話しだした。
「じいちゃんとばあちゃんは、
風は見えないけど、風が吹くと体に風圧を感じるから『在る』。風と同じように、
『いない』と証明するのが難しいモノは存在していてもおかしくないって感じだった」
コオロギに会う前の俺だと、見えない
「現在でも世界のあちこちで新種が発見されるだろう?
それは未知の生物がまだいる可能性が高いことを示唆している。島でも森や海で新種が発見されてるから、
「ふふふ。レイちゃんって楽観的よね」
「でも自分にちょっかいをかけてくるのはやめてほしい」
「
コオロギがその役じゃないのか?」
「ええぇ~? 気づく役は、
「コオロギは
「だって読書や仕事の邪魔をするんだよ?
時と場合と、あと
「新種の発見者になれるんなら、ちょっかいを受けるくらいはいいんじゃないのか?」
「やだよ。集中してるときに邪魔されるなんて迷惑じゃないか。
それに邪魔をしてくる新種に、どんな名前をつけたらいいんだ?」
「そうだなあ……」
「二人の会話を聞いていると、
「「あ……」」
問われて改めて考えてみたけど、幽霊や妖怪などの
物体を持たない
それとも微細すぎて形状を保ちにくい生物?
霊感のない俺は体験ができないからわからないが、コオロギの話を聞く限りだと、腕を引いて気を向けようとしたり耳元でささやいたりするなど、
姿は見えないけど、感情があって意図して行動する生物的な存在……。
なぜ
なぜ視える人と見えない人がいるのか。見えないのに、ふれた感触があるのはどうして?
存在しているけど人の目に映りにくいだけで、鳥や猫などの動物には視えているんだろうか?
そういえば実物は見たことないけど、
見えない
探知機は霊体などに反応すると、内蔵されているライトが光って知らせるらしい。実際に光ったと報告してるSNSを見たことがある。何かに反応するということは、
知らないモノを知りたいという欲求はある。でも――正体がわかると、これまでわくわくしたことや、想像したり、時には怖がったりすることは、なくなってしまうのだろうか……。そう考えると、急に寂しさがわいてきた。
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