06 幽霊や あやかし は人を選び、タイミングを計算している!?
俺の友人は幽霊や妖怪などの
ホラー小説を書いている俺は超常現象的なことに興味があり、友人から奇妙な体験を聞いて集めている。
数年来の付き合いなので聞いた体験談の数は多い。俺は話を聞くたびにメモを残していて、あとでノートにまとめている。
霊感がない俺には友人の日常がまるで別世界のように思える。同じ日本にいるのに霊感という異能があると、全然違う光景が視えていることに対して、うらやましくも思う。
俺は友人から話が聞きたくてしょうがない。しかしこの友人、しらふのときだと体験を語りたがらないので食事に誘い、たらふく食べさせることで機嫌を良くしてから話を引き出すことが多い。
この話も居酒屋で聞いたものだ。
┄┄┄✎ 紫桃ノート ┄┄┄┄
選択:人、タイミング
┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄
「
話しているのは、俺――
さっきまで幽霊にちょっかいを出された話をしていたから、やや怒りモードだ。
「紫桃は考えたことないか?
「……考えたことなんてない」
同意を得られなかったコオロギは不満そうな顔をしている。
コオロギよ、俺は
キミのような異能はない。よって、ふしぎな体験をするどころか、
コオロギはふくれっ面のまま話しだした。
「ふと思うことがあるんだ。
前に会社へ行く途中で背中にナニカが乗ってきた話をしただろう?
似たような経験はほかにもあるんだ――」
✿
その日は休日で街あるきをしていた。
早い時間に家を出たからまだ人は少ない。
街の景観を楽しんでいたらポケットの中でスマートフォンが振動した。
足を止めて取り出し、確認すると珍しく通話だ。
通行人の邪魔にならない場所はないかと見回すと街路樹の日陰ができている場所が目に入った。移動して話を始めた。
数分で通話が終わり、スマートフォンをしまって歩き出してすぐのことだ。
突然、背中にナニカが乗ってきた。
「ぅおっ!?」
思わず声は出たけど、このタイプの登場にはもう慣れた。
背に乗っかってきた「ナニカ」は生きたモノではないのはわかっている。
生き物には体重がある。
背に乗ってきたモノは頭をすっぽり包む枕ほどのサイズを感じた。ナニカが生き物なら相応の重さがあるはず。それなのに背中に居るやつは空気のように軽い。
においも体温もないナニカが乗っかったときは強い圧を感じた。感覚は突風に遭遇したときに受ける風圧と似ていた。風なら通り過ぎると風圧はなくなるのに、まだ背にわずかな重さを感じる。
ナニカの存在を感じているけど背には何も見えない。空気のようなのに乗っている感覚があり形状がある。こいつは
✿
俺はビールを飲む手が止まっていた。
前にもコオロギから背に乗ってくる
コオロギの体験を自分に置き換えて聞いていた俺は、背中に得体のしれないナニカがべっとりと引っ付いているような気がして、ぞわぞわしている。
「いきなり乗っかられるとバランス崩して転びそうになるし、びっくりする。
せめて何か合図を送れよと思ってしまう」
「 !? 」
まてまて! コオロギ、キミの反応はおかしいぞ!?
『合図を送って』じゃないだろ!
俺のココロの叫びを知らないコオロギは腕を組んでぷりぷりと怒っている。一呼吸おいて落ちつくと首を横に傾けて話し始める。
「通話が終わった直後に背に乗っかってくる――。
これってさ、明らかにタイミングを合わせているよ。
自分を見つけたあと、
まったく。いたずらするなら、ほかの人にやってよ」
「 !! 」
なんちゅう発想をしてるんだ!
それって、かまってほしい子どもじゃないか!
幽霊とはなあ、
またしても胸の内で叫ぶ。
コオロギのぶっ飛んだ考えを聞いて、俺の脳内では拡大解釈された想像が始まる。ゲームのような音楽が流れてきた……。
┴┬┴┤ 紫桃の脳内ゲーム ├┬┴┬
スキップするように 軽やかに近づいて行く!
ついに コオロギの隣に立った!
ゆらゆらと 体を揺らし始めた!
┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴
コオロギの電話が終わるのを律儀に待っているなんて……。
くっ、
恐ろしい存在であるはずの
「たまにさ、目の端にナニカが映るようなことがない?」
「黒い線だったり点だったりすると、
「飛蚊症かもしれないけど、
「え……?」
意外な言葉に俺が驚いてコオロギを見ると、目を宙にやり、考えていることをまとめるようにゆっくり話していく。
「目の端のチラッと視えるやつを『
視界の
「 !! 」
俺の頭の中では別の映像が流れ始めた。
俺がスマホで話している。
すると
野生動物が狩りをするときのように鋭い目つきをしながら物陰から物陰へ。
息を潜めて様子をうかがい、慎重に歩を進めながら俺に近づいてくる。
かなり距離を縮めたところで俺の目の端にコオロギの姿が映った。
気づいた俺が顔を向けると、おどかしそびれたコオロギがあからさまに残念そうな顔をした。
いたずらが失敗に終わったコオロギは、ちらちらと俺を見ながら不服そうな顔をして去っていく――
コオロギの話から俺にはそんな映像が見えた。
「ぶっ! ふっふっ!」
「ね? もしそうだったら、面白いよね」
ち、違うぞ、コオロギ。
俺から合意を得られたと思ってるようだけど違うぞ!
面白いのはコオロギの思考だよ!
「怖い」を「愉快」にするな!
もはや目の端に妙なもんが映ったとしても、俺にはコオロギのコミカルな動きが浮かんできて笑いしか出てこない!
コオロギ~、キミは本当にホラーをコメディーに変えてしまう天才だよ。
――――――――――
【参考】
✎ ネットより
小さい虫や糸くずなどが空中に浮かんでいるように見える症状で、見えるものはさまざま。飛蚊症には、生理的な場合と病的な場合があるらしい。
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