14 霊感がある人はいつからアヤカシを見始めたのか
俺は都内の居酒屋にいる。
串から外して皿に置いていた砂肝を口に入れた。
ほどよく焼かれていて弾力のある食感が最高だ。噛んだ瞬間に肉の
――って! 食い物の実況をしている場合か!
俺――
当初の計画では二人きりで食事をしていたはずだ。ところが三人目がいて一緒に食事をしている。
コオロギの隣に居るのはイトコの
彼女はコオロギに異能があることを知っていて奇妙な話にも抵抗がないようだ。それどころか、杜さんは俺と同じようにホラーやオカルト系に興味があるのかもしれない……。
ついさっき、コオロギが人の感情に合わせて空間の色が違って視えるという話をしてくれた。
話を聞いている途中で疑問がわいたけど、話を遮るのはよくないのでやめていた。語り終えたのでコオロギに問いかけようとしたところ、杜さんが質問を投げた。
「オーラが視えるの?」
彼女がコオロギに言わなければ俺が聞いていたところだ。
杜さんを邪魔者と思ったけど、そうではなくコオロギから奇談を聞きだす強い味方になってくれるかもしれない!
俺は期待で胸を躍らせる。向かいの席ではコオロギが話し始めている。
「オーラなんて視えるわけないよ~(笑い)」
「さっきレイちゃんは男女仲が良くないことを『色が視える』って言ったわ」
「それは感覚に近いものだよ。
たとえば、温水と冷水が出る水道がある。『赤と青のどちらのレバーを上げたら冷水が出る?』と聞いたときにツバメが選ぶのは?」
「青ね」
「それと同じだよ。色にはなぜか心理的なイメージがある。
男女の関係が冷え切っているのを無意識に読み取り、『青』のイメージと結びついた。だから二人がそろったときだけ仲が良くない
「色のイメージ……。言われてみれば色に対してイメージはあるわね。
『寒色』ってどんな色かと聞かれたら、『青』がぱっと浮かぶわ。逆に『暖色』は『赤』ね」
「知っている色の数や見てきた色の違いで個人差はあるけど、人は色に対してなんらかのイメージをもってると思うよ」
「レイちゃんてさあ、むかしから変なのを視るよね。
子どものときにみんなでお泊りしたときも変なモノを視たって言っていたよね」
「ほ――ん?」
「お盆のときのことよ」
「そんなこと、あったっけ?」
「もう、ごまかして!」
やっぱり杜さんにも体験を話しているのか。
まあ、杜さんはイトコだから俺よりコオロギと仲が良いのは当然だよな。
でもなんかすっきりしないな……。
もやもやするけど、今は俺の知らないコオロギの体験を聞きたい!
「杜さん、その……『変なモノを視た』ってどんな話ですか?」
「子どもの頃にレイちゃんが霊と遭遇した話よ」
んん? なんか得意げ?
杜さんは――いや、いいや。まず話を聞きたいっ。
「杜さん、その話をしてくれませんか? 興味があるんです」
俺が頼みこむと杜さんは満足げな顔をして、機嫌のいい声で答えた。
「いいわよ。
子どもの頃、お盆になると祖父母の家を訪れるのが恒例となっていたわ。
あの日も両親が私を連れて行ったの――」
✿
夕暮れに祖父母の家を訪れた。
私の家はコンクリート造だったので祖父母の家はとても珍しく見える。天井に壁、床も木だから古さを感じ、非現実的な空間に思えてわくわくする。よく知らない親戚が大勢いて、あちこちで話をしているのも非日常だから新鮮に映る。
玄関で挨拶を済ませると家へ上がり仏間があるほうへ向かう。仏間には大勢の親族がいて両親は挨拶して回る。
しばらくすると互いの近況報告が始まって、親にほかの子と遊んできなさいと言われたから、すぐに駆けていった。
大人が集まる仏間は8畳ほどあり、先祖を祀っている。
大きな木製のテーブルが置かれていて、複数の大皿にふだんは食べることができないごちそうが並んでいる。宴会場と化した部屋では、大人たちが互いの近況を話しながら食事と酒を楽しんでいた。
私は仏間の隣の部屋へ急いだ。10畳の部屋は子どもが集まる場所となっていて、すでにイトコたちがいた。
子どもにとって楽しみは
私はレイを見つけて隣に座ると、みんなとおしゃべりを始めた。
この日は祖父母の家に泊まることができる特別な日でたっぷりと遊べる時間がある。庭で鬼ごっこをしたり、暗くなると花火をしたりして、大はしゃぎだった。
夜も更けてくると、いったん部屋から出された。その間に歯磨きや着替えなどを済ませて戻ってみると部屋には布団が用意されていた。
大人が宴会を楽しんでいる様子が
私たちは布団をかぶって今度はひそひそ話を楽しむ。クラスに気になる子がいるとか、秘密を打ち明けたり聞いたりしていることにスリルを楽しんでいた。
一日中起きていようねと張り切っていても、やっぱり子ども。一人、二人と眠りに落ちていき、いつしか私も眠っていた。気づくと朝になっていた。
窓や襖が開けられ、朝日が入ってきてまぶしい。
昨夜までぎゅうぎゅうに敷かれていた布団がいくつかたたまれていて、帰ってしまったイトコもいた。特別な夜が終わったことを寂しく感じていたら、寝転んで漫画を読んでいるレイがいた。
「おはよう」と声をかけると、「おはよう」と笑顔を向けて返してきた。レイは読んでいた漫画を閉じると話し始めた。
「きのうの夜、変なモノを視たよ――」
✿✿
夜中にふと目が覚めた。
トイレに行きたいわけではないし、しっかりと目が覚めたわけでもない。一度眠ると朝まで起きないから珍しいことだ。なんで目が覚めたんだろうと思いながら、ぼんやり天井を見ていた。
明かりをつけなくてもうっすらと室内は見えている。
布団から上体を起こすと、みんな眠っていて寝息だけが聞こえている。
眠りにつく前は襖を閉めて部屋を仕切っていたけど、今は開けられていて隣の部屋が見えている。あんなに騒いでいた大人の姿はなく、テーブルもなくなっている。
すべて片づけられて
白い霧のようなモノは部屋全体にただよっているのではなく、1か所にまとまっている。ぼんやりとしているが輪郭があり、畳の上に丸太のようなモノが立っているように見える。
なんで丸太があるんだとふしぎに思い、よくよく見ると霧の塊は人の形をしていることに気づいた。
形状はわかったけど表情などの詳細までは見えない。でも白いヒトはこちらを見ているように思える。
夢を見ているのか、それとも現実か。
現実なら寝ぼけて白いモノが視えているのか……。
わからないまま白いヒトをしばらく視ていたけど、立っているだけで変化がない。
そのうち関心が薄れ、眠くなってきたので布団に入って寝た――
✿✿✿
「レイちゃんから話を聞いたときはびっくりしたわ。
大人に白い人影を視たと話したけど、気のせいだと言われたんだよね?」
話し終えた杜さんは確認するようにコオロギに話を振った。
「あのときは寝起きだったから、親が言ったように見間違いだったのかもしれない」
「でも視えた白いヒトは先祖と似ていたんだよね?」
「仏間に飾っている先祖の写真とシルエットがそっくりだった。
……それは単なる偶然でやっぱり見間違いだよ」
「もう、レイちゃん、いいかげん幽霊を視たと認めなさいよ」
「寝ぼけていたんだよ。幽霊なんて見えるわけないじゃん」
「なんで霊感があることをかたくなに否定するの?」
「だって
そんなの嫌だ。だから幽霊は見てない! 霊感はない!!」
「今さら……。確実に霊感あるでしょ」
「ないっ!」
俺も杜さんと同意見だ。コオロギは絶対、霊感があると思っている。
だがコオロギに言うと、すねて奇談を話さなくなるから本人には言わないようにしている。
コオロギは
「ほ~ら、レイちゃん、料理がきたよ。食べちゃおうよ」
「むぅ……」
「ねぇ、レイちゃん。
おでんの玉子、好きでしょ? 私の分もあげるから機嫌を直して」
「え♪ 本当に玉子もらってもいいの?」
「いいよ」
「へへっ♪」
あーあ、玉子に釣られてしまって。
にこにこしてうれしそうだ。
杜さんのおかげで奇談をゲットできた。
俺の知らないコオロギを知っている杜さんは、俺が聞けない話を引き出してくれる。
とてもありがたいけど……
マウントを取りにきているように感じるのは気のせいかなぁ……?
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