✿ 余話 ✿ 霊感があると動物に好かれやすいのか?
有休が来る日を心待ちにしている人は多いだろう。
買い物に出かけたり旅をしたり。外出せずに映画やゲーム、読書を楽しむ人もいるだろう。
俺の場合、有休の日は東京へ行く。
今は地元に戻っているけど、かつては東京に住んでいた。長く生活していたから第二の故郷のようなところだ。
東京へ行ったら古書街を訪れ、古本でしか手に入らないレア本を探すつもりだ。そして東京にいる友人たちと会って食事をする。考えただけでわくわくして仕事のつらさを忘れるぜ。
何人かの友人に会うつもりでいるが、絶対に会いたいやつがいるんだ。
東京へ行ったときに必ず会う「友人」は
本人は認めていないがコオロギは霊感があり、何もない空間で花のいい匂いを
コオロギとはどんな人物か――。
わかりやすく紹介できるメモ書きが創作ノートにあったから、
この話はいい
┄┄┄✎ 紫桃ノート ┄┄┄┄
猫 犬
小鳥はスキスキ ヘビはまったり
【和噺】好かれる
┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄
野良猫へのいたずらに失敗したのを見ていた俺は、残念そうな顔をして戻ってきたコオロギに質問した。
「コオロギは猫が好きなのか?」
「猫だけじゃなくて、動物は好きだよ。
だから動物園とか水族館に行くといろんな生き物を見ることができてうれしい」
「なんかコオロギは動物から好かれそうだな」
「う――ん……」
「なんだその微妙な返答は」
「好かれるのはうれしいけど困ることが多い」
「はい?」
「猫からはプレゼント攻撃を受けたことがある――」
唐突にコオロギが話し始めた。
✿
祖父母の家は田舎だ。
周りの家々は一日中窓を開け放しているようなのどかさ。
辺りは畑が多く、雑木林があちこちにある自然が豊かな地域で、子どものときは祖父母の家へよく遊びに行った。
当時の祖父母の屋敷は果物がなるような庭木があり、野鳥や昆虫が身近にいて、わくわくする遊び場所。広い庭で走り回って遊んだり、飼っていた犬を連れて探検に出かけたりしていた。
祖父母の家は窓が開け放されているから自由に出入りできた。
遊んでいて疲れると窓から居間に入って休憩し、また遊ぶことをくり返して過ごしていた。
ある日、遊び疲れて居間で昼寝をしていたら耳元でぽそっと音がした――
✿
「顔を動かして確認すると、スズメが視界に入った」
「スズメ!?」
「びっくりして体を起こしたら近くに猫がいた。
野良猫で祖父母の家に居ついているんだ。どうやらスズメはそのコが捕ってきたみたい」
「狩りか!」
コオロギは軽くうなずき、話を続けていく。
「猫は座って得意げに自分を見ているんだ。
まるで畳に横たわっているスズメを『あげる』と言いたげな表情でね」
「そ、それでどうしたんだ?」
「猫の首をなでながら褒めたたえたよ。
『キミはすごいっ! 狩りの天才だ!』『プレゼントありがとう! やさしいね』って。そして猫がいなくなったあとにスズメの死骸は庭に埋めた」
「ほ……ほう。それは大変だったな」
「猫の気持ちはうれしかったよ」
「好意をもたれることはいいことだからな」
「でもプレゼントは一回だけじゃなかったんだ」
「え!?」
「別の日に庭で遊んでいたら同じ猫が何かをくわえて自分の所へ来たんだ。
正面に来るとくわえていたものを離した。地面に落ちたのは小さなネズミだった」
「 !? 」
「猫の牙から解放されたネズミは、がばっと起きて走り出した。
状況がわからず、あっけに取られていると猫がすぐに追いかけて捕まえたんだ。しばらく伏せていたけど立ち上がり、またネズミを持ってきてくれたよ」
「…………」
「プレゼントはうれしいけど生き物はね……。
バッタとか虫の場合もあったしトカゲももらったよ。困ったのは原形をとどめていない動物の死体のとき。ばらばら死体の本物はきついよ」
「うわゎ~~~……」
目をつぶり、当時を回想してうなずきながら話すコオロギ。
美人の口からでてくる話とは思えないグロさだ。
「鳥からのラブコールは大変だぞ」
「へ?」
猫の話から急に鳥に変わり、俺は驚いてコオロギを見た。
コオロギは
「友人宅で飼われていた鳥になつかれたことがある。
室内で放し飼いしているのは聞いていた。初対面だったのに飛んできて肩に乗ったんだ。すぐにピョッピョッと鳴き始めて首の後ろを歩いてさ、両肩を行ったり来たりするんだ」
「初対面で!?」
腕を前に組んでコオロギはうなずくと、宙を見ながら記憶を引き出しつつ話を続ける。
「警戒心がないことに驚いたよ。
鳥は触っても嫌がらないどころか、うれしそうに鳴いてすりすりと寄ってくる。
ちょっとだけかまったあと、友人とおしゃべりを始めたら今度は髪の毛を引っ張ってきたんだ」
「そうとう気に入られたんだな」
「友人は『私にもこんなになつかない』と言って驚いていた。
好かれるのはうれしい。でもアクシデントが起きた。興奮した鳥は肩に
あちゃ~~。
不可抗力とはいえ、友達は鳥の
まあ、コオロギの性格からあまり気にしていないだろうけど。
「友人が何度も謝ってくるから、こっちが申し訳ない気持ちになったよ。
結局、鳥はカゴに戻された。話している間中、別の部屋から飛び回る羽音と鳴き声が聞こえててカゴにアタックしている音も響いていたよ」
「ほ…ほおぉぉ~」
俺は動物とはあまり縁がない。だから猫から鳥へと話題が移っただけで新鮮だった。でもこれだけじゃなかった。まだ話は続く。
「放し飼いにされていた犬に飛びつかれたこともある」
「放し飼い?」
「田舎だと、いまだに首輪をつけて放し飼いにしているところがある。
犬は嫌いじゃない。でも相手をするのは大変なんだ。飛びつかれたり、なめられたりと愛情表現がなかなかハードで大きな犬だと転んでしまうこともある。それにずっとあとをついてくるから、ちゃんと家に帰れるのか心配になる」
犬は想像できて面白い。おそらく――
コオロギを見つけた犬は猛ダッシュし、コオロギに飛びついたら顔をべろべろとなめ始めた。コオロギは「やめろー!」と困っているけど、犬は聞く耳を持たずにしっぽをちぎれんばかりに振り回してコオロギに好きアピールを繰り返す……。
ぶっ、ふっふっ。
コオロギは首輪をつかんで懸命に犬を引き離そうとしたんだろうな。
俺は吹き出しそうになるのをこらえて、何事もなかったかのようにコオロギを見る。もう話題は出尽くしただろうと思っていたら、まだあった。
「動物保護センターでは幼体のヘビにふれることができるコーナーがあった。
めったにない機会だから参加した。スタッフが小さなヘビを手に乗せてくれてね、間近で観察できてうれしかったよ。
じっくりと見ていたかったけど長時間はヘビの負担になる。それですぐにケースに返そうとしたけど、ヘビは手のひらからなかなか降りてくれなかった。すわりが良かったのかな?」
「お、俺の聞き間違いかな? ヘビ……?」
「そう、ヘビだよ?」
「そっ、そっか……。へ、ヘビを……触ったのか。貴重な経験ができてよかったな」
コオロギが俺をじっと見ている。
無言のまま俺の目を真剣に見つめていて、なんだかどきどきしてきた。目が離せない……。
ん?
コオロギの様子がおかしい。
俺を見ている目がだんだんときらきらしていく。
目の輝きとともに、いたずらっぽい表情になったぞ?
「紫桃はヘビが苦手なんだ?
今の話は聞かなかったことにしていいぞ♪」
「 !! 」
ヘビの話題がでたときから、全身の毛が逆立っているんじゃないのかと思うほど、ぞわぞわしていた。それでもコオロギには悟られないようにしていたけど――。
本当に俺と同じ
俺の苦手なモノを知ったコオロギは、いたずら小僧が見せるとても楽しそうな笑みを浮かべていた。
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