素人作家の “協奏” ノート

03 心霊写真っぽいものを撮ったことがある


 霊感がまったくない俺は、霊感のある友人が体験する奇妙な出来事をうらやましく思う。


 体験できないから、せめてどんなものなのか知りたいと思い、友人から話を聞こうとするけどあまり話したがらない。


 そこでいろんな手を使って友人からうまく話を引き出していき、聞いたことはノートに書き留めている。



『なぜそんなことをしているのか?』



 それは俺が友人の体験談をもとにホラー小説を執筆しているからだ。


 聞いた体験談を記録しているノートは数冊にもなる。小説のネタがなくて困っているクリエーターからすると、俺のノートはのどから手が出るほど欲しい代物だろう。


 創作のネタ探しに困らない俺は恵まれているはずなのに、ホラーが書けない。



『何冊もノートがあるのに、なぜホラー小説が書けない?』



 疑問をもった人は多いだろうな。


 書けない理由は俺に文才がないこともあるけど、小説のスタイルにこだわりがあることも関係している。


 小説はすべて体験談をもとにしている。リアリティーをもたせたいから、聞いた話はできる限りそのままの形で小説にしたい。このこだわりがあるせいで手を加えて内容を広げることができない。


 だからネタがたくさんあっても、ホラー小説として仕上げにくいものがでてくることはけっこうあるんだ。



 霊感がある友人から心霊写真の話を聞いたことがある。


 心霊写真を知ってる人は多いだろうし、見たことがある人もいるかもしれない。そんな有名なネタなのに小説には仕上げられなかったんだ。


 今回は小説にできなかった心霊写真のことを書いていくよ。



 この話は俺がまだ東京に住んでいたときに聞いたものだ。


 心霊写真の話題がでたきっかけは、当時、地方から東京へ来たばかりの友人が、街を散策してみたいと言ってきたことだった――



┄┄┄✎ 紫桃ノート ┄┄┄┄

○○年○月○日


Kが谷根千へ

写真に人が写っていない

【怖噺】心霊写真

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄



 友人・コオロギ――神路祇こうろぎ――が街あるきをしたいと言い、俺――紫桃しとう――にどこかおすすめの場所はないかと聞いてきた。


 コオロギは東京に来たばかりだ。あちこち見て回りたいのだろう。

 そこで「谷根千やねせん」を紹介した。


 谷根千は下町風情が残るエリアで東京の観光スポットとして人気がある。俺が名所をいくつか挙げて説明すると、コオロギはすぐに興味をもった。


 さっそく週末に訪れて楽しんできたようで、休み明けに撮った写真を見せてきた。


 俺はコオロギの話を聞きながらスマートフォンに表示されている谷根千の写真を見ていく。何枚か見たところで違和感をもった。



「コオロギ、土曜日に谷根千へ行ったんだよな?

 休日は混みあっているはずなのに写真には人があまり写っていない。人が少なかったのか?」


「人は多かったよ。写真はなるべく人がいなくなるタイミングで撮っているんだ」



 撮った写真を次々と見ていくが、スマホに表示されている写真には人の姿が写っているものは数枚しかない。


 俺はカメラを趣味にしていて、これまでたくさん写真を撮ってきている。俺の場合は、被写体が風景だけだと寂しい感じがするので、人の姿も入れて情緒を伝えるような写真を好んで撮る。


 人を写す場合はプライバシーに配慮して、できるだけ顔が写らないように注意している。ネットに写真を投稿するときは、個人が特定できるものが写ってないかチェックし、必要があれば加工する。


 コオロギも同じように配慮して、人を写さないようにしているのかと思ったが極端すぎる。



「コオロギは人を撮るのは嫌なのか?」


「なんでそう思う?」


「人がほとんど写っていないから、人を撮るのが嫌なのかと」


「嫌ではないけど遠慮している」


「まあ、撮られるのを嫌がる人もいるからなあ」


「それもあるね」



 それ

 今「も」と言ったな。ほかにも理由があるのか?

 よ~し、さぐりを入れるか。



「人が写ってもデジタルデータはあとで加工ができるだろう。

 撮るときはそんなに神経質にならなくてもいいんじゃないのか?」


「まあね。でも一緒に写っていたら気持ちのいいものじゃないからね」


「おいおい、一緒に写って気持ちがよくないって心霊写真かよ(笑い)」



 かまをかけてみたら、どうやらアタリだったようだ。

 コオロギは口ごもり目が泳いでいる。


 わかりやすい、わかりやすいぞ!

 話を流そうとしているな? そうはいかない。聞きだすぞ。



「なんだよ、心霊写真を撮ったことがあるのか?」


「いや、ないよ。……たぶん、違う」


「『たぶん』って。

 完全に否定しないのは撮ったってことだろう?」


「うーん……。わからないんだよ。

 『これ、オーブじゃない?』と言われた写真は何枚かある。

 紫桃も写真撮るから知ってると思うけど、オーブといわれているものはレンズゴーストだろう?」


「ゴーストは逆光のときに写ることが多いな」


「強い光がレンズ内で反射したせいで、半透明の丸いものが写ることを知らない人は多い」


「たしかにカメラの構造とかを知らないと、ふしぎなモノが写ってしまったと勘違いするかもな」


「フラッシュ撮影すると、舞っているほこりが白くて丸い半透明のモノとして写ることもある」


「あれなあ。初めて見ると驚く。

 埃が原因となる白い玉は写りやすいけど、写真を撮っているときは気づきにくいんだよなあ。パソコンの画面で見たときに気づいてショックを受けることが多い」



 コオロギも俺と同じ経験をしてきたようで、うんうんとうなずいている。



「こんな感じで原因がわかってて、心霊写真じゃないから気にしてない。

 でも……ごくまれに、よくわからない変なモノが写るときがあるんだ」



 心霊写真じゃないと判断できるコオロギでもよくわからないモノって……。



「た、たとえば?」


「誰も煙草たばこを吸っていない空間で、白い帯状の煙みたいなものが何本も漂っていたり、逆光じゃないし反射する物がなかったはずなのに光の塊があったり……」



 おいおい、変な写真を撮ってるじゃないか!

 レンズゴーストではないモノもありそうだぞ!?



「まぁ、結論は撮り方が悪かったせいだと思うよ。

 心霊写真じゃないとしても、変なモノと一緒に写った人は気持ちよくない。変なモノは狙って撮れるものじゃないから写りこまない保証がない。だから人を撮るのはニガテなんだ」



 心霊写真といわれているものは、光の反射が原因だったり偶然や勘違いだったりするものが多い。


 俺もこれまでにゴーストやフレアの写真を撮ったことがある。撮り慣れてくると撮影時の環境やカメラの角度などから、ゴーストやフレアが発生する要因がつかめてきて区別をつけられるようになる。


 それにデジタル加工技術を使えば意図的にふしぎな写真をつくれることから、心霊写真といわれているものは信じていない。


 でもコオロギが撮った写真は作り物ではない……。


 コオロギは写真を撮り慣れているようだから気を配って撮影しているはずだ。

 それなのに疑問をもつということは――。


 俺が固まっていたらコオロギの目がきらりと輝いた。



「紫桃、写真撮ってあげようか♪」



 にいっとうれしそうに笑い、ゆっくりとスマホをかまえるコオロギ。

 スマホを取り出したことがわかった瞬間に、俺は猛ダッシュでコオロギのそばから逃げていた。



 ✿


 ほらな。ホラー小説にはしにくいネタだろう?

 こんな体験談がわりとあるから小説ココで紹介していくよ。






――――――――――

【参考】

✎ ネットより


谷根千やねせん

 東京都の文京区と台東区にある「谷中やなか」「根津ねづ」「千駄木せんだぎ」を指す。


ゴースト:

 強い光がレンズ内で反射した結果、楕円などの光の像が写る現象のこと。


フレア:

 レンズ内などで光が反射し、画像の一部や全体が白っぽくなってしまう現象。


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