第14話 バイラス ―同類―

はあ? え、ちょっと、何て言ったっけ、この人。転生、転生者って言ったの? まさか!


「あ、あの、本当のことを言ってください! 貴女は前世の記憶が、」


私以外の転生者の存在! いる可能性は考えていましたが、こんなところで! ややこしくする前に先手を打ちます!


「あー、バイラ様? お嬢様は今日はだいぶ疲れましたので、何か用件がございますなら私が承ります」


「え? ち、ちょっと待って! これは大事な話なので………」


大事な話なのは分かるのでもう少し小声で喋りましょうよ。


「………転生者は私。『風の国の物語』って言えば分かります?」


「なっ!?」


耳元で小声で言ってみると、バイラ様は目を見開いて驚かれる。よし。うまく私に注目してくれましたね。面倒なことをされるのは困りますので。


「………後でゆっくりじっくり話し合いましょう。だから今はお嬢様を部屋で休んでいただくまで引いてくれません? お嬢様には前世の記憶などないので。分かっていただけます?」


「………はい」


この後、訝しむサエナリアお嬢様をうまくごまかして私は、その場をうまくやり過ごしました。





お嬢様には、学園の自室に戻っていただいて、私はバイラ様と二人きりになりました。一応、聞かれて困ることを口にする可能性もあるので、バイラ様の自室でということになりました。


「さっきの質問を貴女にもします。貴女は転生者ですか?」


すでに確信していると思っているようですが、慎重ですね。


「はい、私は日本人の前世の記憶がある転生者です。お初にお目にかかれます、バイラ様。いえ、バイラ様に転生されたお方と言いましょうか?」


「………本当に貴女が? もう少し試させてもらっていいでしょうか?」


ですよねー。これだけで『私』が転生者と決めつけることはできませんよね。慎重派みたいですし。もう少し試したいのなら付き合いましょう。


「どうぞ。『風の国の物語』に関することでも、前世の世界『地球』に関することでも」





私は数多くの質問をされて、そのほとんどを苦もなく答えることができました。正直、後半から懐かしい会話になってしまいました。


「信じられない………私と同じ転生者がいたなんて、思ってもいなかった………」


「そうですね。でも、考えてみれば自分だけというのは限らないと想定できたはずでした。違いますか?」


私も前世の記憶を思い出した最初の頃は自分のこととお嬢様のことだけでしたがね。


「………確かに。悪役令嬢になるソノーザ公爵令嬢が明るくて図書館に通ってる時点で怪しいとは思っていましたが、私の予測とは違ってたんですね」


「まあ、お嬢様の不遇がゲームよりも酷かったので必死にフォローした結果ですね」


お嬢様は学園で明るい方なんだ。よかった。


「それで、貴女は彼女に何をさせるつもりですか? あそこまで性格を変えて、ゲームにない行動をさせるなんて。ゲームのシナリオとは違う結末にしようとしているのは分かりますが、最終的な目的は何なんですか?」


バイラ様は随分と険しい顔に変わりましたね。しかも、目つき鋭いし。


「それを聞いて、どうなさるつもりです? 貴女に害はないと思いますが」


「私はともかく、ナシュカ殿下に悪い影響を与えられる可能性があれば敵対するつもりですが、どうですか?」


ナシュカ殿下。彼女が側近として仕える主のことですが、ゲーム通りに忠誠を誓っているということでしょうか? ならば問題はないですね。


「ご心配なく、私の推しはただ一人、サエナリア・ヴァン・ソノーザだけです。貴女の仕えている主ナシュカ殿下を利用するつもりはありません。どっちかというと二人の兄君を利用するのですから」


そう言うと、少し警戒心が和らいだのか目つきも鋭くなくなりました。


「………もう少し、詳しい話を聞かせてもらえます?」


「もちろんです」


私は丁寧にこれからの計画について話しました。






「………ゆ、行方不明事件を起こして公爵家の悪事を暴く、ですか。そんなことはゲームにはありませんでしたが、そう上手くいきますか…?」


バイラ様は半分驚き半分呆れた様子でした。想像していたことと結構違っていたようですね。頭まで抱えてしまわれました。


「ふふふ、だからこそ執事のウオッチさんと第二王子レフトン殿下に協力関係を築いたのです。そのためにお嬢様も平民の勉強をしているのです」


「公爵令嬢を平民に!? 本人も納得済みなのですか!?」


「ええ。私と真剣な話をしてご自分で決断されました」




「そ、そういうことですか。これなら心配なさそうですね………」


ホッと安心するバイラ様ですが、心配なさそうって? 一体何を心配していたのでしょう?


「心配とは何なのですか? 貴女にも変えたい何かがあるのですか?」


私が尋ねると、バイラ様は頬を赤く染めて答えます。


「じ、実は、わ、私の推しが、ナシュカ殿下なのです………」


ああ、なるほど! この反応は異性として好きってことか!


「つまり、好きなのですね」


「あ、いや、好きというよりは推しなので………ああもう、そうですよ! ナシュカ殿下が好きなのです!」


この人、転生者なのにゲームと同じかそれ以上にキャラクターができてますね。


「ふふふ、あの真面目で堅物の様がそんな顔をされるとは、ゲームになくて新鮮に感じます」


「そういう貴女はどうなんです! 悪役令嬢にそこまで肩入れするなんて、ゲームの原作ぶち壊しもいいところです!」


原作ぶち壊し! いい響きです! 悪役令嬢逆転にはもってこいですもんね。


「いやあ、それほどでもないですよ。ふふふ」


「いや、誉めたわけでは………と、とにかく! そういうことなので私と殿下の関係を崩すことがなければ大丈夫です。私もそちらには介入しませんので」


「分かりました。お二人の関係を応援すればいいのですね」


知ってしまったからには私も彼女のためにそれくらいしないと。


「……え? いやあの………別に応援など、」


「いいじゃないですか。同じ転生者のよしみってやつですよ。何より私達もう友達じゃないですか」


「友達……? そ、それは、まあ………」


「ということで、私達の計画にも協力してくださいね」


「ええ!?」


この後、紆余曲折を経て、私とバイラ様は友達になりました。

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